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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第四章 四宇和平の巻
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埋蔵コレクション

 そこは、円形の広場と見えた。周囲を低い石垣が取り巻き、定期的に手入れされている様子の内側は、丈の低い草で覆われている。他に何もない。


 ホァンホァンとノンノンが俺を追い越し、中心部へ歩いていく。馬は、その辺の草を勝手に喰み始めた。


 「さて、ここに立って何か感じるかね?」


 俺が追いつくと、ホァンホァンが尋ねた。俺は改めて周りを見渡し、足元に目を落とした。


 「いいえ。何も」


 「ここには昔、ゲンシロがあった」


 俺は飛び上がった。出口へ走った。首をぐい、と引かれて止まる。いつの間にかノンノンが、ワイヤの端を握っていた。


 「そう心配することあれへん。一キロペートル下に埋もれとる」


 ホァンホァンがのんびりと言う。俺は、いきなり物騒な単語を発した灰白パンダを見つめた。


 「原子炉って、放射能を出す原子力を使った道具、というか機械のことですよね?」


 確認する。頷くホァンホァン。もう一度馬を見る。俺の動きに驚いて一旦首をもたげたものの、再び食事に戻った。食べて大丈夫なのだろうか、その草。


 「ゲンシロがわかるいうことは、支えに近い知識持ちいうことやな。ま、長居は無用やな。行こか」


 「ここは、何処なんです?」


 馬車に乗ってから尋ねた。


 「オサカや」


 ホァンホァンの答えを聞いても、納得がいかない。カラパン国が俺の考え通りなら、オサカに原発がある筈ないからだ。

 それにしても、何だってわざわざ危険な場所へ連れてきたのか。


 「放射能測る機械があるんですか?」


 「よう喋るようになったねえ」


 ノンノンが言う。ワイヤはもう握っていない。


 「いや。放射能にせよウィルスにせよ、目に見えへんもんはわかれへん。知識として持っとるだけや」


 やっぱり大丈夫じゃない。しかも、また物騒な単語が飛び出してきた。


 「あちこち行こか思うとったけど、今日はもう帰ろか」


 ホァンホァンが言うと、ノンノンが馬車から頭を出して、馬に指示を出した。



 原子炉のそばにいたのは、検問所までの往復を含めて一時間以内だったと思う。周囲の草木の繁茂具合からして、かつてあの場で爆発が起こったとしても、俺の健康に害が出るほど放射能を浴びた可能性は低い。

 俺の素人判断ではあるが。


 「海の方へ行くと、金属材がよう出るんやな。支えは全体像を見たい言うとったけど、出るそばから分解してるし、底まで掘るには、あと何十年かかることやら。そやかてオサカの辺りは堆積が浅い方なんや」


 帰りの場車内で、ホァンホァンが言った。馬車は、行きと違う道をとっているようだ。

 剥き出しの土が頂上を飾る小山を、いくつも見かけた。下の方は草が伸びている。山の切れ目から、土を盛った牛車が見えた。


 色々聞きたいことはあるが、馬車の中は結構騒がしく、揺れもあり、落ち着いて話せる環境ではなかった。

 俺は車酔い防止も兼ねて、なるべく窓の外を眺めていた。


 「おかえり〜。お土産は?」


 帰宅するなり、ゴンゴンが駆け寄ってきた。

 俺が手ぶらなのを見た後、ノンノン、ホァンホァンと順番に確認し、『おかえりなさいませ』と頭を下げた。


 「おお、お土産忘れてもうた。次は買うて来るさかい、堪忍や」


 ホァンホァンは失礼なゴンゴンに怒るどころか、(なだ)めていた。


 夕食後、俺はホァンホァンの部屋に呼ばれた。ゴンゴンやピンピンも付いてきたがったが、断られた。

 いよいよ尋問か、と緊張しながら部屋へ入る。

 壁に造り付けで、鍵のかかる本棚のある部屋だった。部屋にいたのは、灰白パンダのホァンホァン一体である。


 入り口の鍵を閉めるよう促され、更に緊張が高まる。ガーゼみたいな布を重ねたクッションが、ソファ代わりに幾つか置いてある。

 向かい合って座る。なかなか座り心地が良い。


 「ほんで、今日の感想はどうやった?」


 いきなり感想を求められる。


 「オサカに原発があるとは思いませんでした」


 「待って。ゲンパツとは何か? ゲンシロちゃうんか?」


 俺もそこで、あれ、と思った。確かに最初から、ホァンホァンは原発とは言っていない。原子炉だ。

 原爆とか原潜とか、似た言葉が頭を駆け巡る。悲しいかな、俺はその辺の知識がほぼない。


 「ええと、原発というのは、原子力発電所を短く縮めた言い方で、原子炉から出る熱を利用して電気という力に変える装置のある場所です。電気は、生き物の代わりに力仕事をしてくれる便利な物です」


 俺でさえあやふやな知識を何処まで噛み砕いて説明すべきか、相手レベルの予想がつかず、中途半端に適当な説明をする。


 「ああ、電気。一応聞いたことあるで。何や雷みたいなものやろ」


 「そうです。あれを自分たちで作り出すことで、力を使いこなすことができるんです」


 自分で言っていて、胡散(うさん)臭い。魔法の説明みたいに聞こえるせいだ。しかし、本当のことでもある。


 「支えからも聞いたんやけど、ようわからんかったな」


 ホァンホァンは正直に打ち明けた。


 「あれも目に見えない物の仲間ですから。俺も全部はわかりません」


 俺も正直に白状した。頷く灰白パンダ。そして立ち上がると、棚の鍵を開ける。本を読ませてくれるのだろうか。期待に胸が膨らむ。

 が、パンダが持ってきた物は、全然違う物体だった。


 「これ知っとるか?」


 俺は、しばし無言でそれと対峙した。知らないこともない。

 どちらかと言えば、く○だおれ人形の方に馴染みがあるが、あれは金属製ではないから掘り出されることもないのだろう。


 スルグでもホコヤでも、見たことのある造形物は、金属か石がほとんどだった。唯一、アッタサンと呼ばれる鳥居は本来木造だが、あれがそのまま掘り出された物とは考えがたく、石造か新たに建造したと思われる。


 さて、俺の目の前にあるそれは、尖った頭に吊り上がった目を持ち、足を投げ出すように座った子供の像だった。金色の塗りがところどころ剥がれ落ち、赤っぽい地金が見えている。


 「ビリケ○さん」


 「そうそう。足の裏くすぐると、ええことある言うてな」


 「その通りです」


 言う側から足の裏を掻くホァンホァン。人形なので、当然無反応だ。


 「この辺り、昔何て呼ばれとったか知ってるか?」


 「大阪、ですかね」


 正確には、知っているのではなく、推測である。


 「オーサカ」


 ホァンホァンはおうむ返しに言う。

 そうなのだ。地形が変わっているせいか、位置関係が多少ずれている気もするが、スルグは静岡、ホコヤは愛知、オサカは大阪を連想させた。そこに住み暮らすパンダたちが偶然似た名前をつけたり、似た特産物を扱ったりしたと言うよりは、俺と同じく湧いた人間とされる、王の支えなる存在の介入があったと考えるべきだろう。

 そして、彼がそのように地名を付けた理由は、地下から掘り出された物にある。


 「ここは、未来の日本なんですね」


 何が起きたか知らないが、日本人は滅びてしまっていた。人類が滅びてしまったのかもしれない。


 それからどのくらいの年月が経過したのか。陸地全体に堆積した土が、単純に時間の経過を示すのか、天変地異あるいは人工的な原因によるものなのか。

 わからないことは山ほどある。


 「どうやろな。そうとも限れへん」


 ホァンホァンは、像の足の裏を撫でた。勿論、反応はない。


 「だって」


 「支えが何や、ややこしいこと言うとったで」


 「王の支えに会って、話を聞きたいです」


 カラフルなパンダや他の動物たちと、問題なく意思疎通できていても、同じ世界にいた人間と話をすることは、特別なことだった。


 「支えは、王以外には会わん」


 ホァンホァンは俺の顔色を見てから続けた。


 「但し、王が許可すれば会える。王にはそのうち会えるさかい、焦らず待ちや」


 「はい」


 部屋へ戻ると、ゴンゴンとピンピンから質問責めにされた。

 俺は、原子炉とビリケ○の話、王にそのうち会えることだけを話した。


 原子力の話は、やはり普通のパンダには、理解の範疇(はんちゅう)を越えるようだった。

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