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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第三章 三老五更の巻
23/50

ネタバラシ紛糾

 各々乗ってきたロバ車に揺られて地上へ戻る。


 「やっと、やっとホァンホァン様に会えた〜」


 ゴンゴンは、肝心の師匠と離れてから喋り出した。


 「見たか。何もかもわかっているというお顔。ありがたいなあ。記念に抜け毛か何かもらえないかな」


 師匠というより、むしろ偶像崇拝の感がある。


 「ソウは本当に喋れないんだな。こちらの言うことは、ほぼ全部理解していると思っていたのだが」


 ピンピンが俺を見ながら言う。俺が喋れなかったのは能力の問題ではなく、状態や状況の問題だ。

 だが考えてみれば、あんな衆パンダ環視の中で野蛮な人間がベラベラ喋り出したら、周りがパニックになったかもしれない。


 だから、特段訂正しなかった。まだ喋れるかどうか、自信がない。少なくとも、湯冷ましの一杯で喉を潤さねば。


 時々他のロバ車とすれ違いつつ地上へ戻り、ホァンホァン一行と共に塀の外まで送り出された。

 師匠のお歴々には、迎えの馬車が待っていた。地下へ潜っている間に太陽は動き、今は中天を過ぎていた。

 どうりで腹が減る。


 「では、私はここで失礼します」


 俺たちについていた黒白パンダは、門が閉まると(きびす)を返した。俺たちも家へ帰ろうとすると、後ろから声をかけられた。


 「君らは近くに住んどるのか。せやったら、今からお邪魔してもええやろか」


 ホァンホァンだった。馬車に乗る気配は、微塵(みじん)もない。お付きもゴンゴンも驚いている。


 「うわあ」


 「大変ありがたいお話ですが、急なことで、食事等の用意もございません」


 即答しかけたゴンゴンを(さえぎ)って、意外にもピンピンが断りを入れた。

 こんな大チャンスを、逃して大丈夫か?


 「何、そんなに時間取れへん。構わんと」


 返事を待たず、すたすた歩き始めるホァンホァン。方向が違う。慌ててゴンゴンが先導する。


 「こ、こちらです師匠」


 「おおきに」


 数歩進んで、つと振り返る。


 「あ、せや。ちょいそこら辺まで行って、食べる物買うてきてくれへんか。簡単な物でええさかい、ここにおる数だけ頼むなぁ」


 頼んだ相手は、ホァンホァン一行に付き従っていた黒白パンダだ。ちなみに雌。

 あからさまに渋るパンダを、弟子たちが説得し、馬車に乗せた。少しでも早く戻れるようにという配慮だとか。


 そうして揉めている間も、師のホァンホァンは家の方へ進んでいく。ひとりで行かせる訳にもいかず、俺たちはこっちへついて行った。


 「ゴンゴン君、ランランさんは元気かね」


 歩きながら話しかけるホァンホァンの口から、思いがけない名前が出てきた。

 ゴンゴンも、急には返事ができない。


 ランラン、誰だっけ?

 俺も記憶を辿(たど)って、ゴンゴンの母親が、そんな名前だったと思い出した。


 「母さんは、げげ、元気です」


 「そうか。昔、少しだけ一緒に働いていたことがあってな」


 「御師(おんし)。そん話は初耳や」


 一緒についてきた(だいだい)白パンダが口を開いた。これも雌だった。


 「自分が来る前の話やさかい、当たり前や」


 などと言っている間に家に着いた。


 「なかなか立派な家やんけ。レンレン、ノンノン。自分ら、ちょい家の周りを見回っとき。あと、買い物から戻ってきたら、早めに教えて」


 「はい」


 橙白と、もう一体の黄緑白パンダがすぐに従う。

 椋鳥集団も帰ったし、カラスニ子も今朝来たから、もう見張りはないとは思うけれども、何気に慎重なパンダだ。


 弟子たちに見張りを任せ、ホァンホァンは中へ入る。

 ゴンゴンが後を追う。師匠が家に向かって歩き出してから、彼はワイヤを離してしまっていたが、誰も気にしなかった。


 俺は自分の家のこととて、勝手に台所へまっしぐらに向かい、入れ物に残っていた湯冷しをごくごく飲んだ。

 気配を感じたトイレ係の豚が、餌をもらえると思って、ふごふご鳴く。


 思い出して残飯を落としに行く。

 普段は俺とパンダの糞で足りているのだが、今朝は緊張して、誰も餌を与えていなかった。


 「おや。調理もできるとは。ええ時代から来たなぁ。ぼちぼち喋れるようになったか」


 背後から声をかけられ、()()()()式トイレに頭から突っ込みそうになった。

 振り向くまでもなく、ホァンホァンだ。


 見れば、ゴンゴンとピンピンが喜んで後塵(こうじん)を拝している。さりげに黒白パンダを遠ざけたことといい、瞬発力で勝るあのふたりを出し抜くとは、なかなかの曲者だ。


 「んんっ。ご挨拶が遅れました。ソウと申します」


 一応、ゴンゴンに目顔で確認を取ってから、喋ってみた。喉が潤ったこともあり、滑らかに声を出すことができた。

 ピンピンが驚いているように見える。何となく、勝った気がした。


 「ソウ君。一緒に大阪へ行かんか。道中は、君の質問に答えるから、向こうへ着いたらこちらの質問に答えてほしい。王にも会うてもらうことになるやろし、許可が出れば王の支えにも会えるやろ」


 「えっ。王の支えに? 凄い、行こうよソウ」


 「お前に聞いていない」


 興奮するゴンゴンへ、冷静に突っ込みを入れるピンピン。驚いたとしても、もう立ち直っている。早い。


 「あのう。『王の支え』って何ですか?」


 「湧いた人間や。君と同じく喋れる」


 そういえば、ゴンゴンの母親から聞いたことがあるような。すっかり忘れていた。


 「ゴンゴンと一緒なら、行きます」


 別にゴンゴンに全幅の信頼を置いている訳ではない。厨二(ちゅうに)病的性格の彼は、いつ何時己の欲望に従って俺を地獄へ突き落としても、何ら後悔の念を抱かないだろう。

 わかっている。これは、いわば借りを返すようなものだ。


 異世界へ足を踏み入れた途端に殺されずに済んだのは、確実にゴンゴンのお陰である。ランランとの約束は念頭にあった。

 しかし、ゴンゴンの解釈は違ったようで、俺に向かって駆け出し、抱きしめられた。


 「ソウ! 僕たち親友だね」


 「あの、トイレの前では落ち着きませんから、あちらへいらしてはいかがですか」


 ピンピンが棒読みでゴンゴンの感激に水を差した。


 「よし。決まり。ピンピン君はゴンゴン君の妻ちゅうことやさかい、一緒に来るかね? それとも、スルグに戻って仕事するかね?」


 この灰白パンダは、ピンピンの素性も把握していた。


 「共にオサカへ行きます」


 黄緑白パンダが駆け込んできた。


 「お師匠、ホコヤが戻って来よるんですけど、足止めしますかな?」


 「いや結構」


 ホァンホァンは俺を見た。


 「ソウ君。大変やろうけど、外では今まで通り、よう喋らんようにしててな」



 黒白パンダは、俺たちについてきた黒白パンダを途中で拾って、各々腕に山盛りの食料を持ち帰った。

 ホァンホァンが一緒に食べるよう誘ったので、総勢パンダ七体と俺一人の大所帯で食べることになって、ゴンゴンには少々物足りないくらいだった。


 「ほな、明後日朝迎えに来るさかい、それまでに後始末や旅の準備しとき」


 ホァンホァン一行が、黒白パンダたちと馬車で去ると、ピンピンが俺に向き直った。


 「良くも今まで(たばか)ってくれたわね」


 「ゴンゴンの指示です」


 「えっ。僕何か言ったっけ? でも、お陰でホァンホァン師匠と一緒にオサカまで行けることになったじゃない。ピンピンだって、その方がいいでしょ」


 ゴンゴンと俺を見比べたピンピンは、それ以上の追求を諦めたらしい。ぶはーっと特大の息を吐いた。


 「とにかく。明日中に旅支度を整えなくてはならない。お前も協力するように」


 「もちろんです」


 「あ、ソウ。喋れるようになったんだからさ、もしかして、()()()とか作れないかな?」


 「今からじゃ、間に合わないよ」


 時間だけ見ればできないこともないだろうが、小豆の買い出しから始めるのだ。旅の支度と並行して作れる気がしない。


 「おーまーえーはー」


 ピンピンが、ゴンゴンの頭を拳で挟んで締め上げた。

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