表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第三章 三老五更の巻
21/50

猿バザール

 数日経っても、ホァンホァンとの対面の話は出なかった。

 借家は、確かに発掘現場に近かった。ゴンゴンは、初日からそこへ通い詰めている。


 「いいな〜。早く降りたいな〜」


 旅中、高所から見えただけあって、巨大な穴だった。直径一キロメートル近くあるかもしれない。

 そこから紐状の物や棒状の物が出ている。それらが稼働すると思しき音のほか、生き物が大勢動く気配を感じた。


 「ホァンホァン様に会う前に、偵察とか視察で入ったって、いいと思うんだけどな〜」


 「お前、何の資格もないだろう」


 付き合わされたピンピンが突っ込む。発掘現場は石垣と木柵で厳重に囲まれており、許可なくして入れない仕組みだった。


 黒白パンダによる巡回もある。彼らは俺たちを見ても、咎めず通り過ぎていった。見物自由と思っていると、同じようなパンダたちを職務質問した挙句、連行して行った。

 俺たちのことは、上から伝達済みということだ。


 「毎日毎日、よう飽かんね」


 「あんなもの見て、何が楽しいんか」


 「どうせ中に入れんのに」


 「それに、そのうち入れるのにねえ」


 頭上で椋鳥(むくどり)たちの声がする。俺たちについて回る間、ずっと喋り倒しているところから推すと、表向きピンピンの言い渡しを守っているようだった。

 もし家の中に隠れても、お喋りで居場所がバレると思う。


 家の中で、俺は喋る以外なら結構自由にやっていた。

 風呂を沸かしたり、食材を茹でたり焼いたり。要は、火を使いこなしていた。裁縫もした。


 最初こそピンピンは驚きで引いていたものの、諦めたのか慣れたのか、もう何の反応もない。

 ホコヤ側が、迎えの馬車に食料を積み込んだお陰で、数日来ぶらぶらできた訳だ。


 だが、ゴンゴンとピンピンの旺盛な食欲で、それも底をつきそうだった。

 ピンピンは、日に日に食欲が増していた。

 やはり、本当に妊娠しているのかもしれない。


 「今日は、買い物へ行く」


 ある朝、ピンピンが宣言した。


 「じゃあ、今日は発掘現場へ行けないんだ。お店まで歩くの?」


 「カラスニ子に馬車を頼んである。そろそろ来るだろう」


 カラスニ子も、毎日俺たちと会っていた。彼女の場合、椋鳥集団と違って、顔を出す程度だ。

 ホァンホァン一行の旅程や、ホコヤの情勢、今日みたいな頼み事のつなぎ役を請け負っている。

 ゴンゴンと俺を遠ざけて話す時もあって、全部の内容は聞けていない。


 「あ、なんか来ようた」


 「そろそろ、食べ物買いに行く思っとった」


 「馬車やね」


 「なかなか、ええんじゃにゃあ」


 早朝からご出勤の椋鳥が、もはや監視カメラと化している。


 「おっはようございまぁす」


 家の外から聞こえた声に、ゴンゴンと出てみると、予告通り馬車があった。御者席にカラスニ子が止まっている。 喋ったのは馬の方で、声からして雌だ。


 「一日契約で、料金は支払い済みだから」


 ピヒョタローの前では敬語だった彼女は、上司がいなくなった途端に言葉遣いを変えた。ピンピンはもとより敬語を使っていない。


 「あと、購入費はこれで」


 御者台から小さな()袋を嘴で持ち上げ、投げた。ピンピンが受け取った手の中で、貨幣のぶつかり合う音がした。


 「助かった」


 「じゃ、私は戻る」


 カラスニ子は、ぱっと飛び立った。入れ替わるように、椋鳥軍団が馬車の屋根に飛んできた。馬が歯を剥き出して動きを追った。


 「あの子たちも乗せるなら、追加でもらうわよ」


 「えー、重さ変わらんて」


 「ずっと乗っとる訳でもにゃあし」


 「飛べるでよ」


 「けち」


 「そっちで払ってちょう」


 たちまち椋鳥と言い合いになる。


 「いや。追加分は、そちらで負担すべきだ」


 ピンピンが支払いを拒否したので、ますます椋鳥が騒がしくなった。

 馬車の屋根幅にまだ余裕があるのに、おしくらまんじゅうの如くぎゅう詰めに身を寄せ合って、一斉に喋る。

 もはや、かしまし過ぎて聞き取れない。


 ゴンゴンは、騒ぐ椋鳥たちを尻目に、馬車へ乗り込む。俺も自動的に付き従った。家の中では放し飼いでも、外出時は体面を重んじてワイヤを装着する。室内犬みたいな扱いとなっていた。


 「私たちお金持っとらんで、県庁へ寄ってくれんかな」


 「そこで出してくれなかったら、降りてもらうわよ」


 「えー」


 一応、話がついて、馬車が動き出した。


 「大分時間が無駄になるな」


 「まあ、しょうがないんじゃないの」


 椋鳥のお喋りをBGMに、馬車の中でもぽつりぽつりと雑談が交わされた。

 実際には、椋鳥の何羽かが先に飛んで話をつけておいたようで、県庁に着くと待ち構えていた黒白パンダが、すぐさま馬に金を払った。


 「次回から、事前にこちらへ相談してくれ」


 ピンピンが呼び出されて、伝言を受け取った。


 「わかった。善処する」


 政治家みたいな返答からすると、検討する気がないみたいだが、この世界ではどうなのだろう。



 市場は中心街から外れた場所にあって、県庁へ立ち寄った分、到着が遅れた。冬の日は短いのに、もう昼の方が近い。


 「じゃ、昼休憩以外は、ここで待っているから」


 馬に言われて降ろされた場所は、馬車の溜まり場だった。たまにロバ車もいた。牛車や山羊車も見かけるが、彼らは一律に綱で横木に繋がれていた。

 喋るか喋らないかの違いが、こういうところで分かる。


 「交代でご飯食べに行こみゃあ」


 「行こまい行こまい」


 椋鳥が一斉に飛び立った。


 「メアラちゃん」


 「あ、久しぶり」


 馬は同業者に声をかけられ、そちらへ行ってしまった。馬車が入り乱れる中をすり抜けると、店が立ち並ぶ通りが見えた。屋根付きもあるものの、基本露天売りのようだ。


 「うーうー」


 周囲の目も構わず、唸り声を上げながらゴンゴンの毛を引っ張ったのは、毛皮を見つけたからだ。俺が今着ている猿を模したものに、色合いが似ている。一軒家へ住んでいる間に、洗い替えが欲しかった。


 「え、これ欲しいの?」


 ゴンゴンは、不思議そうに立ち止まる。年中脱げない毛皮を纏うパンダたちには、理解できまい。


 「お客さん、お目が高い。そりゃ、羊の毛を残したまま皮を剥いだ、珍しい品だよ」


 すかさず店のパンダが声をかけてきた。


 「高そう」


 ピンピンが横でぼそりと言う。


 「たったの二十パーンでさあ」


 「無理」


 一パーンで一外食分だ。確かに贅沢品だ。それに、大きさを考えると、俺はそれを四枚欲しかった。

 まあ、無理だろう。


 「うーん。まだ来たばかりだから、他の店も見てくるね。似た感じの品で、もっと安いのがあれば、そっちを買うよ」


 ゴンゴンがとりなす。俺も逆らわない。


 「他じゃ扱ってないですよ。お待ちしてやす」


 店主は自信満々だった。

 その辺りには()製品が多かった。よく見たら、滑した革もあるかもしれないのに、ピンピンはさっさと通り抜けていく。


 「まずは食料だ」


 ゴンゴンも、ワイヤで繋がれた俺も、後をついて行くしかない。

 市場は広く、一つ一つ店を当たっていたら、日が暮れても買い物が終わりそうになかった。木製品、竹製品、と流し見ながら通り過ぎ、干物を売るエリアまで来た。

 まだピンピンは止まらない。


 「干物、買った方が、いいんじゃない?」


 「食事をする」


 そういえば昼時だった。見上げれば、相変わらず空に鳥影がいくつもあり、監視役の椋鳥との見分けは困難だった。

 鳥はお金をほぼ持ち運べないだろうに、出先で食事など、どうしているのだろう。


 「あ、いい匂い」


 ゴンゴンが鼻をうごめかせた。獣の臭いに囲まれ嗅覚が鈍った俺は、視覚に頼って辺りを見回した。

 簡易ながら木造の建物が連なる一角に来ていた。外から丸見えの店内では、椅子に腰掛けたパンダたちが、何やら食べている。食堂だった。


 「エビフリャないかな」


 揚げ物の匂いはしない。あれは、県令だからこそ用意できた高級料理なのだ。


 ピンピンが選んで適当な店に入る。干果物の盛り合わせや、干魚など、火を使わないメニューが並ぶ。観光客向けではなく、地元の生活に密着した市場なのだろう。防火対策で禁止されているのかもしれない。


 「あんこがない」


 ゴンゴンがぶつぶつ文句を言いながら、それでも空腹だったと見えて注文をした。俺は立ち食いだ。

 商品と思われたのか、多少好奇の目は向けられたものの、入店も食事も問題なくできた。


 腹を満たした後は、日持ちのする食料を買い込み、帰りがけには毛皮も買ってもらって、馬の溜まり場まで戻ってきた。ちなみに毛皮は、牛皮だ。


 この世界、羊以外は基本的に皮といえば毛皮である。

 少なくともホコヤで、なめし技術は期待できないとわかった。


 「あら早かったわねえ。猿は売れなかったの? まあ、見栄えしないものね」


 馬は、同業者と喋りまくっていた。全身茶色でたてがみが黒、というお手本みたいな色合いだったのだ。

 似たような馬が集まる場所で見分けがつくのか、密かに心配していたが、パンダたちは簡単に見つけ出した。

 馬は、俺のことを売り物と思っている。誰も訂正しない。


 「またね、メアラ」


 「うん、またねー」


 「ああ、疲れやーた。一日中飛び回っとった」


 「あんたは、市場の店を見物していただけじゃにゃあの」


 「俺は、ちゃんと仕事しとったわ」


 「あんたがサボっとるところ、あたし見たで」


 馬が仲間と別れの挨拶を交わしているところへ、椋鳥たちが戻ってきた。市場を巡り歩いている間、ずっと監視されていた筈だが、すっかり存在を忘れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ