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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第三章 三老五更の巻
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カラスニ子

 エビフリャをご馳走になった後、俺たちは護送馬車で朝の宿屋まで送られた。カアクローも一緒である。


 「エビフリャ美味しかったなあ」


 ゴンゴンが記憶で海老天の味を反芻(はんすう)している。


 「もう。何で人間なんかに食わせるカア。普通、俺の分だってわかるでしょ」


 「連絡がつかなかったからな」


 ぼそりと呟くピンピンの声は、がたごと騒音の多い馬車の中でも、よく通った。


 「だって、俺は単なる非常勤職員の連絡係だカア。まさか、隣りのホコヤ県にまで顔が知られているなんて思わなかったカア。しかも、攫われるほど重要な役でもなかったカア」


 「それさあ、無理矢理攫われたら、下にいた僕たちだって気付くと思うんだよね〜」


 ゴンゴンの言い分に俺も賛成。

 常に上空を飛び回る鳥たちは、列をなしていることが多く、そうでなくとも何かしら規則性を感じさせる動きだった。


 争いごとのような乱れがあれば、俺たちに限らず誰かしらの注意を引いた筈だ。街道には、パンダや馬や犬や猫も大勢行き交っていたのだから。


 「ええと、それは、無理矢理攫われたんじゃないカア。騙されたっていうカア」


 何でも、美メス烏に話しかけられて、ホコヤ名物や観光スポットについて教えてもらっているうちに、知らず航路を外れていたとか。気付けば怖い鷹か何かに囲まれていたという。騙される以前に職務怠慢だろう。


 「職務専念義務違反」


 黙って聞いていたピンピンが、止めを刺した。馬車の中が静かになったところで、程なく目的地へ到着した。

 宿の中へ入ると、トンビのピヒョタローがいた。新たな烏を引き連れている。


 「やあカアクロー、無事で何よりだったな」


 疲労の(にじ)む声にそぐわぬ明るい口調が、皮肉に聞こえた。カアクローは、言葉もなく項垂(うなだ)れた。馬車の中とは大違いだった。


 女将に別室へ案内された。俺たちの泊まった部屋とは違い、風呂もなく、テーブルを椅子が囲んでいる。

 宴会や会議に使うための部屋のようだ。椅子が余っていたので、俺は勝手に動かして腰掛けた。


 特に誰も反応しない。ゴンゴンはともかく、他の面々は疲れているとみた。

 まず、ピンピンが今朝からホコヤ県庁でのやり取りまでを、ざっと報告した。


 「ホァンホァンがオサカを離れて東へ移動していることは、我々も把握していた」


 とピヒョタローが言う。


 「ホコヤへ立ち寄ることは予想していたが、お前達もここへ引き止めるとはな。本当なら、県令に会う前に、打ち合わせしておきたかったのだが」


 「家には嫁と七羽の子が」


 カアクローが小さく呟いた。ピヒョタローは、烏を見ないよう、殊更(ことさら)にピンピンへ顔を向けた。


 「ふむ。それにしても、生まれてみるまでわからんが、良い手を打ったな。後で人事から届け出に必要な書類を送らせる。扶養に入れるんだろう?」


 「はい。人間も扶養に入れるようなら、その分もお願いします」


 ごく淡々と話が進んでいるが、お題は妊娠と入籍である。人生の一大事と思うのだが。

 大体、ゴンゴンが種付けするような隙がいつあったのか、俺には心当たりがない。

 でも人間と違って、事務的に受精するだけなら、さほど時間はかからないかもしれない。


 「この先、ピンピンが生活費出してくれるの?」


 色々気にすべき点をすっ飛ばして、クズみたいな発言をするゴンゴン。ここの世界では許容範囲なのか。


 「そんな訳あるか。己の食い扶持(ぶち)は己で稼げ。お前の身分保証だ」


 ピンピンの理屈にも疑義がある。スルグでゴンゴンの所有する俺、を囲い込みたいから結婚までするんだよな、と聞きたいけれど、俺は喋れない設定。

 こうなると、どっちもどっちで、どうでもよくなってきた。


 「こっちの方はそれで進めればいいとして。さてカアクロー」


 「はい、ピヒョタロー室長」


 俺と同じく呆然としていたように見えた烏は、姿勢を正した。


 「お前には、今回の件で事情聴取を行わねばならない。ここで任を解き、共にスルグへ戻る」


 「やった、じゃなくて、承知しました」


 「調べが済むまで、家に帰れると思うなよ」


 「カ」


 固まるカアクローを放置し、ピヒョタローが話を進める。


 「後任として、カラスニ子をつける。彼女はホコヤ在住で、土地勘がある」


 「カラスニ子です。よろしく」


 かなり年嵩(としかさ)の声だった。人間だと五十代手前といったところか。もちろん俺には、外見でカアクローとの区別がつかない。


 「ピンピンだ。彼はゴンゴン。そこの人間は、ソウと呼んでいる」


 「名前を認識している、と。興味深いですね」


 カアクローよりも、油断のならない相手だ。俺は努めて反応しない。


 「ホコヤから動く際は、別の者をつける予定だ」


  ピヒョタローが説明を続ける。ピンピンが頷く。


 「承知しました」


 それから話は、ホコヤでの落ち着き先へと移った。ピンピンは家を借りるつもりだが、あてはなく、カラスニ子に頼んでいた。

 テンテンには、ハッタリをかましたのだ。


 流石(さすが)に今日中に探して契約して引っ越すのは無理ということで、今晩は引き続きこの宿に逗留(とうりゅう)することになった。


 翌日には、カラスニ子が新居を探してきた。仕事が早い。


 「お供しますね」


 ホコヤ県庁も、馬車と担当者を迎えに出してきた。椋鳥(むくどり)の集団である。県令の逃すまじ、という意思を感じる。


 「よろしくお願いしまーす」


 「よろしく」


 「よろ」


 「ちょっと、挨拶だけでてえもねえ時間が」


 「あ、すみません。もう行きますよね」


 「挨拶はそれ以上、結構です」


 ピンピンが途中で遮った。椋鳥たちは、馬車の屋根に止まって、勝手に喋り出した。


 「人間、あの変な形したのが人間?」


 「サルみてゃーね」


 「朝飯足らなんだ」


 「まっとちゃっと起きなかん」


 身構えて損した。脱力するほどの雑談だった。何を言っているのかわかるような、わからないような。


 今日の馬車は、観光客も乗せられそうな、窓の大きい普通の形だ。屋根越しに音がよく聞こえる。馬は相変わらず無口である。


 カラスニ子が先導のため、飛んだり御者台に止まったりするのも、前方の窓から見ることができた。


 「あっ、えびせんべいって何だろう。絶対食べ物だよね〜。ちょっと寄り道しても、いいんじゃないかな」


 「今は無理だ」


 車内でも脱力系の会話が交わされていた。

 ホコヤの街は、今日も賑わっている。パンダが一番多くいる。


 繁華街を十分に見物した後に到着した新居は、賑わいからずいぶん離れた、住宅街からも外れたところにあった。この世界でよく見かける、平屋の一軒家だ。


 「店がない〜」


 周囲をぐるりと見渡したゴンゴンが、情けない声を出す。


 「ホァンホァン様とのお仕事を見越して、発掘現場への便を最優先しました」


 カラスニ子が説明した。ゴンゴンの反応は鈍い。遠い心の師匠より、近い食糧だ。

 中へ案内される。椋鳥チームが、当然のごと列をなして後に続く。俺に踏まれるのを警戒して、やや引き気味なのがご愛嬌。


 間取りとしては、3LDKだ。掛け流し式の風呂もある。井戸水ではあるが温泉ではないので、冬に入浴するには、(かまど)の下に火を入れて沸かす必要がある。五右衛門風呂と同じだ。


 台所にも水場と竈門があって、ある程度の調理器具や食器も揃っている。パンダの住まいにしては、豪勢な設備と思われた。


 「広いね〜」


 ゴンゴンも気に入った風だ。難を言えば、トイレが()()()()式で汲み取り役に豚がいることと、ガラスがないので雨戸を開けると寒く、閉め切ると暗い。

 一応、網戸代わりというか、籠目模様の竹製品が、()()()のように外側についている。


 「こりゃ止まりやすくてええわ」


 「ここに引っ越してまお」


 「そら、あかんでしょ」


 「でも期間がわからんで。多分、長なるがね」


 「ここへの宿泊は禁止します」


 勝手に相談し始めた椋鳥集団に、ピンピンが冷や水を浴びせる。

 俺もその方がありがたい。ただ、素直にスルグ側の要望を聞き入れるとは限らず、この大きさの鳥が屋根の隙間に潜んでいても、気付く自信がない。


 この先、どう振る舞えばいいのだろうか。

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