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気が付いたら一週間過ぎてた!

 そして数分後。


 迷宮のゴール。

 奥に玉座しかないだだっ広い『深淵の間』と表札のあったフロアで、


「びぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁん! ひどい、ひどいよ! せっかく私が、お小遣い溜めて、一〇〇年かけて、コツコツ作って来たのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 泣きながら地面を転がりまくる、ビビアンの姿があった………………。



「うわぁ! 泣かせちゃったよ! どうすんのこれ? ねえ? これどうすんの?」


 ここぞとばかりに、ニヤニヤと口角を吊り上げるミナに対し、


「あらあら? 『馬のフンを手づかみ様』。とても楽しそうですわね?」


 なんて、いつもより余裕の無い事を言い出す姉上。


「え? ちょちょ! ちょま! 今の無し! ウソです! ごめんなさい! もう調子ぶっこ来ませんから! それだけはぁぁぁぁぁぁ!」


 …………まあ、駆け足で町に走っていったミナはほっておくとして、問題は、


「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


 ビビアン(彼女)の機嫌をどう直すかなのだが。


「おろおろ? ここはわっちに任せるなんし!」


 なにやら自信満々のヒルダが、いまだに床を転げまわって泣くビビアンに近付き、


「おい、そこの娘! 泣き止め!」


 なんて物凄く上から目線の台詞を吐いた!


 結果。


「……………………びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


 まあ、そうなるわな!


「しかし、どうしたもん…………!!」


 巨大な殺気に体が反応し地面を蹴ると、


 ボスッ!


 さっきまでいた場所に、人がまとめて五、六人は入れそうな穴が開いていた。


「やっぱ、そうなるよね?」


 殺気の元に目をやれば、


「お、おおおおおお前ら! 愛おしくて愛おしくて、愛らしくて愛らしくて、キューテクルでビューティーなうちの娘になにしてくれてんねん!」


 擬人化(ツアーコンダクター)をやめ、本来の姿(巨大な黒竜)に戻ったナツミが、ちょっとした軍隊なら、戦わずして逃げ出すほどの殺気を撒き散らし宙に浮いていたのだった。



「貴様ら! この娘がこんなに泣くのは、確か生まれて数十年たったあの日」


『私、将来、お母さんのお嫁さんになる!』

『まじで! でも悲しいことに、私とビビアンは結婚できないんだよ』

『え? うそ! そんな……そんなのやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


「っと、無慈悲な世の理にぶつかった時以来だよ!」


「いやいや、それ言い出すの、一番子供が嫌がる想い出話だよね?」


 何気に子供の時のあるあるを言い放つナツミに、思わず泣き止み素に戻るビビアン。


「ちょっ! お母さん! なんでそんな昔のこと言い出すの!」


 経験がある僕の耳朶に、


「あらあら? そんなことで、よく愛してるなんて言えるわね?」


 なぜか自信満々に胸を張る姉上。

 これは不味いと、姉上の口を塞ごうと駆け出すが、


「そんな愛は偽物! 本当に愛しているのなら、」


 一蹴りで僕から距離を取り、姉上が懐から取り出した紙。

 そこには、


『けっこんしょうめいしょ!

 ぼくはあねうえとけっこんしてしあわせにします!

 アルサス・タリスマン』


 なんて、拙い字が書いてあった。

 うん?

 それは?


 首をかしげる僕に、


「これは私の愛して愛して、愛おしくて愛おしい愛弟が書いた結婚証明書ですわ! 本当に愛しているのなら、結婚のけの字が出た時点で! これぐらい余裕でしなくては本当の愛などとは言えませんわ!」


 指を口元に当て、高らかに勝利宣言する姉上。

 だが、


「姉上? 僕それ書いてないですよね? 確かに僕の字に似てますが……」

「あらあら? そ、それは……アルはまだ、小さかったですし……覚えていないだけでは?」


 僕の言葉に、急に明後日の方向を見て、ダラダラと謎の汗をかき始めた。


「ああ。そう言うこと!」

「あ! ダメです! それは!」


 うろたえた姉上の隙をつき、ダッシュで奪い取る結婚証明書(ソレ)は!


「…………うん。かなり似せてますが、僕の筆跡じゃないですよね?」


 もちろん、そんな幼いころの筆跡なんて僕も覚えて無いが、そんな事を微塵も思わせずにジト目で姉上を睨む。


「あらあら? え? え? これは違わないけど違うのです! ちゃ、ちゃんと口では言ってたのですよ! でみ、あの頃のアルは、字が書けなかったので、あ、姉として! 愛弟の願いを叶えようと! そ、それで! それを自分で書いたと覚えて無いとアレなので、当時、私の教師だった者にワイ……ごほんっ! お礼をして、脅は……お願いして代筆してもらい、さらにアルの文字を似せるように字を習わせたなんてこと……ありませんわ!」


「素直に答えてくれる姉上は好きですが、なんでそんな無駄なことしたの!」


「え? 結婚して誰にも触れさせないほど大好き?」

「うん? 誰もそんなこと言ってませんよ! それに…………」


 言葉だけ聞けばいつものことなのだが、おろおろと視線を彷徨わせる姉上がとても珍しく、思わずもうちょっとからかってやろうかと思った刹那!


「何を理不尽な事を!(ちくしょうぉぉぉぉぉ! 人の理じゃ、そこまでハッチャケていいなんて! 聞いてないよ!)それに我が娘を泣かした罪は消えぬわ!(ええい! こうなりゃ八つ当たりでみんな焼き殺しちゃる)」


「ナツミさん? 古竜さん? どっちでも良いけど、心の声ダダ漏れだから! 八つ当たりでここにいる人、特に私を滅ぼさないで!」


 ミナのツッコミに、だが黒竜姿のナツミは大きく息を吸い込み、


「吹き飛びやがれ!」


 魔力と怒りと、その他もろもろを含んだブレス(黒炎)を吐き出した!

 伝説によるとその黒炎は普通の炎では無く、水で消化できず、対象物が灰になるまで燃え続ける魔法の炎。

 だがここには、伝説やら言い伝えやらを慮外する輩がわんさかいた!


「うぷ! 絶対魔法防御(アンチマジックシェル)!」


 常時、万全以上の魔力回復薬を飲んでたマリアーナが絶対魔法防御を展開すると、


「おろおろ? この程度の炎、守りに徹するほどでは無いのじゃ! 煉獄の炎ヘルファイアーストーム!」


「ああ! 何やってんですか! せっかく私が張った防御魔法を!」


 マリアーナの絶対魔法防御を内から大きく貫く、ヒルダから放たれる禁呪の炎。

 そして、


「あらあら? こんな矮小な炎、私の心のアルの恋の炎に比べたら! 焚火の燃えカスと同じですわ!」


「ええ! 私の、渾身の絶対魔法防御が………………」


 姉上の一撃が、マリアーナの防御呪文を黒炎と共に吹き飛ばしたのだった…………。

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