第29話 回想1
お待たせいたしました。
今回はある人物から見た主人公を描いて見ました。今回の話を読むに当たって前もって小学生編を一回読むことをオススメいたします。
あたしとアイツの腐れ縁は物心がついた頃から始まっていた。
幼稚園で最初にアイツにあった時、アイツは優しそうな雰囲気を出しながらどこか暗く寂しそうだった。聞けばアイツの親は仕事で家にあまり帰って来ないのだそうだ。子供ながらに不憫に思ったあたしは幼馴染達と一緒にアイツを構うようになった。
アイツは男の癖に大人しい性格で同い年の男子からイジメられていたのであたしがイジメっ子共を追っ払って幼馴染達一緒にアイツを遊びに連れてったりもした…少しでも暗く寂しそうな表情をアイツから取り除けられると信じて………。
それらが全て無意味だったと気付いたのは小学生になってからだった。小学生になると親が居ないことをいい事にアイツは自堕落になった。外食やコンビニ弁当と言った栄養価の偏った食べ物を好む様になり、苦手な運動をしないせいでアイツはブクブク太りだした。偏った食生活のせいでアイツの体は鼻が曲がりそうなほど臭くなっていた。しかもアイツは風呂嫌いますます臭さに拍車が掛かっていた。そんな臭くなったアイツはイジメっ子の格好の的になった。イジメの主犯は佐藤、鈴木、高橋の三人(あたしは三バカトリオって呼んでる)まぁ、あんなニオイしてたらちょっかい掛けたくなるのも解るけどでもそれがイジメて良い理由にはならない。だからあたしは変わらずアイツを庇う例え異臭を発していようとも……でも流石にキツイニオイだったから『臭い』だの『風呂入れ』だのと言ったけどね。思えばそれがあたしがアイツに対して言った初めての小言だったのかもしれない。
アイツはあたしの小言が気に入らないのか風呂に入ることは頑なにしなかった。それどころかあたしの小言とイジメの鬱憤をあたしの幼馴染にして親友の理子にブツケて来た。あたしは怒りを覚えアイツをぶん殴ってやろうとしたが、理子が止めるのでその怒りをアイツにぶつけることが出来なかった。逆らったら自分の親の元で働いている両親をクビにするぞと、アイツに脅されていると知ったのはそれからしばらくしてからだった。
この頃からあたしはアイツを同情することは無くなった。それどころか心身共にアイツのことを毛嫌いするようになった。あのブヨブヨに太った腹、クッサイ体、脂ぎった髪と顔、そして自分より弱い者にしか手を出さないあの腐った根性、アイツの何もかもが嫌いだ。故にあたしは蔑みと侮蔑を込めてアイツにブタオというアダ名をくれてやった。こんな不名誉なアダ名を付けられたらアイツも日頃の行いを改めるかもしれない……そう思っていたがあたしの付けたアダ名がイジメっ子達の間でもブタオのアダ名は使われたがアイツは相変わらずだった。これにはあたしもカチンときた、こうなったら意地よ!ブタオの精根を叩き直してやるわ!
ただ意外だったのはあたしの想いびt――ゲフンゲフン!幼馴染である服男がブタオのことをあまり構わなくなったことだ。自分の目の前でブタオがイジメられたら止めるんだけど、先生に相談するとかそれ以上の行動をしなかった。本人からワケを聞いたら『征男が変わらない以上オレ達が幾らアイツの為に行動しても無駄だよ』と答えた。服男は最後まで見捨てないと思っていたあたしとしては少しショックな発言だったけど……でも考えて見ればイジメられるのはブタオの自業自得だし、服男の言う事も判る気がする。でもあたしは切り替えが出来る服男のように賢くない。むしろ頑固だからこれからもブタオの腐った精根を叩き直すことに努めるつもりだ。
え?ブタオに構う理由?意地になっている面もあるけど、恋のライバルであり幼馴染である愛が悪臭を放ち性格もひん曲がってるブタオに相も変わらず幼馴染として接しているからだ。ブタオなんかと居る時間があるなら、想い人である服男と一緒に入れば良いのに……でもあたしは誰にでも別け隔てなく優しく接するそんな愛が好きだ。例え同じ人に想いを寄せていたとしても……あたしは彼女を親友だと思っている。そんな彼女がブタオなんかに構うのだ彼女を差し置いて服男と良い仲になるのはフェアじゃない。だからあたしもブタオを構う、幼稚園の頃みたいに暗く寂しそうにしていながらも優しかった征男に戻ると信じて――――――
状況が変わったのは小4のある日のことだった。あたしが愛と服男と一緒に学校に向かっていたら前にブタオと理子が歩いてるのが見えた。また理子をイジメているんじゃないかと思ったあたしは服男と愛の置き去りにブタオの元まで走って距離を詰めた。
「ちょっとブタオ!邪魔だからそのクッサイ体、退きなさい!」
挨拶代わりにブタオに罵倒を言い放つ、いつものブタオならあたしに罵倒されると嫌な顔をして離れて行くので、理子がイジメられないようにする牽制になる……そう、いつものブタオなら……。
「やぁ!恋ちゃんおはよう!」
罵倒を浴びせたあたしに振り返り笑みを浮かべながら挨拶をするブタオ、そう普通に挨拶をしたって無視するブタオが罵倒を浴びせた、あたしに挨拶をしたのである。しかもあたしの方に振り返ったブタオは体型こそチビでデブなブタオだったが、いつもの死んだ魚みたいな濁った黒目でも陰気臭そうなツラでもなく、黒は黒でも光を反射して輝く宝石(ブラックダイヤモンド?黒曜石?宝石はよくわかんないのよね)のような強い瞳、顔も陰気臭さはどこへやら強い自信のある表情だった。あたしは表面的には普段通りの不機嫌そうな表情をしながら内心ではこのブタオの変化に驚き戸惑っていた。
「恋ちゃんですって?ブタオ…あんた何あたしを名前で呼んじゃってくれてるワケ?東堂さんでしょ!このクソが!……理子!?あんたこのクズになんかされなかった?」
いつまでブタオの変化を戸惑っている場合じゃないわ!と、あたしは自分に喝を入れながらブタオに罵倒を浴びせる。あたしの罵倒に嫌気が差したブタオが表面だけ変わったフリをしているだけに決まっている!この時のあたしはそう考えてブタオを罵倒しながら理子の安否を確認した。
「お、おはよう、ございます。東堂さん……い、いえ特には…」
しかし理子は無事だった。イジメる前にあたしが来たから無事だった?理子の無事な姿を見ながらそんな考えが頭を過った。だがあたしがいくら考えても答えは出ない。あたしが置き去りにした愛と服男も追い付いて来たのでブタオの変化に対する疑問は後回しにした。
学校に着いてからもブタオは変だった。1時間目の国語は後ろから消しカスを飛ばしてくる。チビの鈴木を小バカにしてた。いつもならイジられても無視するブタオがだ(でも小バカにしたせいで投げてくる消しカスの量は増えるハメになってたけどね)これだけでもかなり信じられない出来事なのに2時間目算数はもっと信じられなかった。算数であたしは先生に問題を解くように言われた。正直、算数は苦手だ。足し算引き算はともかく分数とか訳がわからない、そもそもそれ社会に出たら使うの?って言いたいくらいあたしは算数が嫌いだった。そんな算数で問題の答えを求められた。皆に笑われるの覚悟でわからないと白状しようと思った時――――
「答えは4分の3だよ恋ちゃん」
なんとブタオがあたしに答えを教えてくれたのだ。しかも答えは合ってた。あたしより成績の悪い(あたしの苦手な算数でも成績はブタオの方が下)ブタオがあたしに答えを教えてくれたのが信じられなかった。普段のブタオなら答えなんて分かる訳ないし、分かってたとしてもわざわざいつも罵倒してくるあたしに答えなんて教える訳ないからだ(実際、前に答えがわからないあたしを隣でニヤニヤと笑ってたし)。皆の前で笑われず済んで安堵している自分とブタオなんかに助けられて悔しいと思う自分がいる。でもブタオに救われたのは事実だ、悔しいけどブタオにはお礼を言わなきゃいけないわね
「まさか、ブタオに助けられるとはね……屈辱だわ!」
でも素直にお礼を言うのもシャクだからいつもみたいに罵声を浴びせながら……
「……でも、その……助かった。か、感謝するわ!」
礼をブタオに告げる。お礼の言葉より罵声の方がメインになってしまい少し後悔したがブタオはあたしの罵倒気味のお礼を嫌な顔せず素直に受け取ってくれたので胸を撫で下ろした。
信じられない出来事はこの後も続く、3時間目の体育、普段のブタオなら仮病で苦手(というか嫌い)な体育をサボっているのだが今日は珍しく体育に参加していた。と言っても運転なんて普段からやっていないブタオがいきなり体育で動ける訳ないのよね。アイツ最初の走り込みの段階でバテちゃってヘロヘロになっちゃってんの、フン!普段から体育サボってるから自業自得だわ!とブタオのことをバカにしながらもブタオの運転神経まで良くなっているなんてことになってなくて安心している自分がいた。
でもまあ、ブタオは情けない姿を晒したが最後までやりきったことは少し、そう!ほんのすこ〜しだけど評価してあげるわ!この時からかな?あたしの中でブタオに対する評価が上がったのは……。
四時間目の理科でブタオが授業を真面目に受けていないとメガネガリ勉の高橋が先生にチクった。そのせいでブタオは先生の出す問題に答えるハメになった。確かにブタオは普段から真面目に授業を受けて居なかったし今回も真面目に受けていなかった。でも高橋がチクったのが善意からでないのはこのクラスの誰もが知っている。ブタオを笑い者にする為にやったに決まっているわ!高橋の陰湿なイジメに嫌な気分になるがブタオが授業を真面目に受けていないのも事実、算数借りがあったがあたしは自業自得だと思いブタオには何もしなかった(というか先生の出した問題の答えがわからない、絶対零度って何度なのよ!?)。
「マイナス273.15℃です」
しかしブタオはあたしですら分からない問題を余裕で答えてしまったこれには問題を出した先生も驚いていた。算数に続いて理科でも正解を出したのであたしも驚いたがブタオをチクった高橋の悔しそうな表情が笑えたのでブタオについて考えるのは後回しにした。
その後、給食の時間にブタオがイジメのリーダーである佐藤に難癖着けられてたので算数の借りを返す為にもあたしが佐藤達三バカトリオを追っ払った。
「ありがとう恋ちゃん」
「れ、礼は要らないわ、あいつらがうっさかったから苛ついただけだし……」
ニッコリと嬉しそうに礼を言うブタオ、別に算数の借りを返しただけだから礼を言われる筋合いはない。
「でも恋ちゃんのお陰で助かったからさ…やっぱりお礼はいわせてよ」
「要らないって言ってんのに……調子狂うわね」
礼は要らないって言ったのに笑顔であたしに礼をするブタオ、全く調子狂うわね。
5時間の社会の時間は何故か真面目にブタオが授業を受けていた。しかも教科書を捲る度に驚いていたわね、理科とか適当に受けていたのに一体どうしたって言うのよ?
真面目になったブタオでもあたしはその日だけで飽きて辞めるだろうと高を括っていたがその後もブタオは真面目だった。授業を真面目に受けているから成績が上がり体育は見かねたあたしが断られるの前提でトレーニングに誘ったらすんなりブタオがOKしてトレーニングの結果今ではスポーツ万能な服男に並ぶようになった。あたしもブタオとスポーツ勝負をするけど最近じゃブタオに負け越すことが多くなった。スポーツであたしに勝てるのは服男だけって思ってたからこれは少しショックだったけどあたしに勝てる奴が増えたと思ったら少し嬉しかった。
まあ、それから2年間ブタオがまともになったのであたし達は幼稚園の頃の様に仲良く過ごしていた。あたしはこの関係が長く続くもんだと思ってた……あの日までは―――――
あの事件(事件というより騒動って言った方が良いかも)が起きたのは卒業式を数ヶ月後に控えた小6のある日だった。あたしはその時、女子行為室で着替え終わったばかりで騒動が起きているなんて知らなかった。教室に向かっていると6年1組に人が集まってガヤガヤしていた。何も知らないあたしは野次馬根性丸出しで1組にそのまま入って見たのよ。
教室に入って目に入ったのは膝を着いた理子とそんな理子の目の前で不敵に笑う佐藤と鈴木、佐藤に関しては理子の目の前で小さな袋を見せ付ける様に踏み潰していた。
あの袋には見覚えがある。たしかアレは理子が家庭科の時間に作ったクッキーの入った袋の筈だ。
『征男さまに美味しいクッキープレゼントして驚かせたい』
そんなことを言っていた理子の台詞を思い出し、あたしは怒りが込み上げてきた。あいつ等!ブタオにメンツを潰されたからってブタオと親しい理子をイジメのターゲットにするってどういう神経してんのよ!!しかも理子がブタオなんかの為に手間ひまかけて作ったクッキーをあんなにッ………、許せない!
「ちょっとあんたら何やってんのよ!?」
取り敢えず佐藤と鈴木をシめる。後こんな陰湿なイジメを考える奴は悪知恵の働く高橋くらいしかいないから高橋もシめる。あの佐藤に女のあたしが勝てるワケないけどそれでもシめる。そんなことを考えながらあいつ等の前に出ようとしたら、理子をイジメる佐藤達の前に出て来た男がいた―――ブタオだ。
アイツも佐藤達の理子に対する仕打ちを見て怒りを覚えたのかな?今まで佐藤達にイジメられていたブタオが、イジメの八つ当たりで理子をイジメていたブタオが、イジメられている理子の為に佐藤達に立ち向かおうとする姿にあたしは怒りとは違った感情を覚える。やっぱり変わったよブタオ、一瞬この場はブタオに花を持たせてやろうかな?と思ったけどよくよく考えたらブタオが喧嘩してる姿見たことないのよね……あ、これヤバイ。いくら最近服男とタメ張れるくらい運動神経良くなったブタオでもあの無駄にデカイ佐藤に勝てるイメージが想像出来ない。
やっぱりあたしが行くしかないよね。あたしはブタオの勇気が見れただけ満足よ。
「なんだブタオかよ。なんかようか?あぁん?」
「お?どうしたブタオ?愛しの待田が泣かされて怒ってんのかwww?」
あたしはブタオの成長を喜びながら理子をイジメた佐藤達に落とし前をつける為にターゲットを理子から自分達の前に現れたブタオに替えた佐藤達の元に向かおうとした………けど………。
「おい!いい加減なんか言ったr「黙れ」ッ――――」
ゾクッ―――――――
黙れ……ブタオの発したこの一言でさっきからブタオに絡んでいた佐藤と鈴木が本当に黙ってしまった。いやそれどころかこの騒動を距離をおいてひそひそと他の奴と喋りながら見ていた野次馬達も黙り普段から騒がしい教室が珍しく静かになってしまった。
でもあいつ等が黙るのもわかる気する。だって、黙れって言ったブタオの声は普段の明るい落ち着いた声じゃなくて低く冷たいものだったし、その言葉を聞いただけで背筋が凍る程だったからだ。
「お望み通り喋ってやったぞ?なんか言ったらどうだ?」
「くっ………」
「ヒッ………」
ブタオに対し罵詈雑言を浴びせるでも暴力を振るうでもなく、ただ歯をガタガタとならすことしか出来ない佐藤と鈴木(鈴木に関しては歯どころか膝までガタガタ震えている)あたしもさっきまで佐藤達をシめようと前に出ようとしたのにブタオのあの冷たい声を聞いて…いや違うブタオが発している雰囲気に呑まれ縫い付けられたようにその場で立ち止まってしまった。
ブタオが発するこの底冷えするような雰囲気が漫画やアニメで良く出てくる殺気と呼ばれるものだと気付くのはもう少し後になってからだった。
「うっ!…………………」
「あ、あああ……」
「う、苦しい……」
「なん…だよ……これ………」
ブタオの殺気にあてられ教室にいた野次馬達も顔色が悪い、皆顔が青白くなっていた多分あたしもそうなってると思う。背中に冷水を流し込まれたような寒気と首を軽く締められたような息苦しさがあたしを襲う、直接殺気を向けられていないあたし達でこれじゃ佐藤達はもっと酷いことになってそうね……まあ、同情はしないけど。
「へぇー頼まれた、ねぇ……それはお前のことか高橋?」
「ヒィ!」
あたしがブタオの殺気に耐えている間に話が進んでいたようでブタオが野次馬の方に振り返って野次馬に紛れて逃げようとした高橋を呼び止めていた。そんな所でイジメられている理子の姿を見ていたのかという高橋に対する怒りより高橋を見付ける為に振り返ったブタオの顔を見て悲鳴を上げそうになった。
ブタオの顔に表情は無かった……そう、口調は荒いのに無表情なのよ。ただの無表情ならあたしだってビビらないわよ、でもブタオの無表情はなんて言えばいいの……人を人として見ていないそんな感じのするもので間接的に見たあたしは息が詰まりそうになった(直接見た高橋はあたしの比じゃない恐怖を味わってそうだけど同情はしない)。そもそも理子を助ける為に佐藤達に立ち塞がったのに理子を傷付けた佐藤達に怒りの表情じゃなくて無表情を向けるのがあたしの足りない頭では理解出来なかった。
ブタオの顔も怖かったが一番恐怖を覚えたのその瞳だった。ブタオの瞳は小4までの死んだ魚の濁った目でも黒光りすり宝石のような目でもなく、ただただ黒かった。そう、何もかも光すら吸い込んでしまいそうな程に黒く、田舎のおじいちゃんの家に遊びに行った時に見せて貰った。深く掘られた古井戸の底のようだった。
あの瞳を見ていると自分があの瞳に吸い込まれたような気分になる。あたしはあの瞳にただただ恐怖を覚えるのだった。
「進められたね……でも実行に移したのはお前らだよな?」
「ヒィ!そ、それは謝るよ、な、なんなら誰に進められたか、言うからs「いや別に言わなくていいよ」えっ………」
あたしがあの瞳に恐怖している間も話は進む、どうやら理子をイジメるように仕組んだのは高橋ではなく別に居るらしく高橋はソイツについて口を割ろうとしたがブタオがそれを遮った。どうして遮るのよ!?恐怖で鎮火した怒りの炎が再燃する。こんな悪質なこと考えた奴もとっちめないと気が済まないからだ。だからあたしは怒りと疑問を混ぜ込んだ視線をブタオに向けた。ホントならブタオに直接文句の一つや二つ言いたかったけどあの瞳を向けられたくなかったから視線をぶつけることしか出来なかった。あたしの視線に気付いたのか気付いていないのかわかんないけどブタオが口を開く。
「進めた奴なんてお前らを片・付・け・て・ からゆっくり捜しても問題ないだろ?」
この時、あたしは今日何度目かわかんないけどまたブタオに恐怖した。え?理由?発言の内容じゃないわ、ブタオの顔よ!あの無表情だった顔が『片付けて〜』の後から薄く笑ったのよ!本来怒りを見せる場面で笑うという行為がやっぱりあたしの足りない頭じゃ理解出来なくて、その理解出来ないものにあたしは訳もわからず恐怖した。
「女の子泣かせたんだ。覚悟しろよ」
「や、やめ……やめてくれ!頼むよ!」
薄い笑みのまま高橋に近づいたブタオ、怯えた高橋は逃げようとしてたけど腰が抜けているのかな?思う様に動けていなかった。
「さあ、歯を食いしばれよ」
そう言って拳を握るブタオ、あたしはこの時直感でブタオが高橋を殺してしまうと思った。たかが子供の拳で人が死ぬとは普段なら思えなかったが、今のブタオの拳なら殺せる、そんな根拠のない考えがあたしの頭の中を埋め尽くした。
止めなきゃ!とあたしは思った。止めようと思った理由が、高橋を死なせたくないからなのか、人が死ぬ場面をただ単に見たくないだけなのか、ブタオ……征男を人殺しにさせたくなかったからか、あたしにはわからなかったがとにかく止めなきゃと思ったでも心では思っていても体が動かない、征男の殺気のせいか、あたしの体は竦んで動けなかった。駄目だ征男が人を殺してしまう諦めて目を瞑りそうになった時。
「やめてください征男さま!私はもう……大丈夫ですから!」
「ッ!?……理子!?」
征男の動きが止まる、止めたのは理子だった。あたしは安堵しながら動けなかった自分を恥じた。誰よ、理子が気の弱い女の子って言ったのは、あんな殺気の中で征男を止められる娘が弱い訳ないじゃない!それに比べあたしは普段強気でもいざとなったらなんにも出来ない自分に嫌気が差す。
あたしが自己嫌悪に陥っているとふと、征男と目が合った。片手に佐藤が踏み付けた理子お手製のクッキーの入った袋をもう片方の手は理子の手を引いている。だが、あたしはそれらよりも征男のあの古井戸の底のような真っ暗な瞳に釘付けになる。やっぱり、この瞳は怖い、体が竦む、でも目が離せなかった。
「ブタオ、あんた……」
この後なんて言おうとしたのか自分でも分からない、あの殺気はなによ!?とか、やり過ぎよ!?とか色々言葉が出てくるけどどれも違う気がする。そんな言葉を詰まらせたあたしを見た征男は無だった表情に苦笑を浮かべると―――
「ごめん今日は勝負なしね」
と、一言言って理子を連れ教室から出て行ってた。
「え、ちょっとどういうことよ!?」
呼び止めようとしたが、呼び止める言葉が思い付かず、そのまま教室に佇むことしか出来なかった。
教室に出る時に征男が浮かべていたあの苦笑、あれがあたしには少し寂しそうに見えたのは気の所為だろうか?
その日を境に征男が学校に現れることは無かった。まあ、あれだけ派手にやったんだもん、今更学校には気まずくて来れないわよね。三バカトリオは征男恐怖症になったのか、征男の話する生徒を見つけてそいつをイジメているらしい。三バカトリオのせいで学校で征男の話をする者は居なくなった。今ではまるで悪原 征男なんて生徒は最初から居なかったみたいな雰囲気になっている。
愛は征男が学校に来なくなって悲しそうにしている。服男もどこか思うことがあるのかあの日以来難しい表情ばかり浮かべている。かく言うあたしも征男が居なくなったせいで心にぽっかりと穴が空いている。いつもなら征男とスポーツで勝負していたのに対戦相手の征男が居ないせいで学校に来ても張り合いがないのだ。結局一ヶ月二ヶ月経っても征男は現れずついに卒業式が数日に迫ったある日征男が来なくなってからも真面目に学校に登校していた理子から卒業式の日に征男とその家族と共に引っ越すことを聞かされた。これを聞いたあたしは離れ離れになる悲しさよりも先に怒りが沸いた。あのブタオ!あたしに断りもなく引っ越すなんて良い度胸してるじゃない!あたしを怒らせたことを後悔させてやる!
卒業式当日、あたしと親友の愛は征男の分の卒業証書を担任から引ったくるとそのまま学校から抜け出し征男の家に向かった。征男はあたし達の登場に驚いていた。不意打ちのぶん殴りは避けられて悔しいが愛に抱き締められて身動き出来ない時にぶん殴れたので良しとしよう。
その後、征男に卒業証書を持ってきたことに対する礼を言われた。別に頭ぶん殴れたからチャラで良いのに……全く、そういう所はこいつ変わってないのよね。それからも征男と何気ない話をし今は佐藤達の件に変わった。
「ところであいつら理子ちゃんにまたちょっかいかけてないよね?」
そう言って理子の心配をする征男の瞳はあの時の光すら吸い込みそうな真っ暗なものになっていた。一瞬、あの時の恐怖が蘇るがそれを心の奥底に押し込み、普段通りの表情を浮かべる。
「……あんた、あの時と同じ眼・してるわよ……ハァ〜、大丈夫よあの3馬鹿、理子に手を出すどころか露骨に避けてるわよ。それにあんたの名前を出すことも禁止してるわね。実際にあんたの名前を呟いた1組の男子がボコスコにされたらしいし」
「そっか、よかった……」
あたしの説明に安心した征男の瞳は普段の光のあるものに戻っていた。あの瞳は怖いけどそうまでして守られている理子が少し羨ましく思えた。
「ハァ〜……あんたそんなに理子が気になるんなら学校来ればいいのに……」
「ハハハ……耳が痛いな」
そう言って苦笑する征男やっぱり気まずくて学校に来れなかったのかな?
「あんた、あたしが恐がってると思って学校来なかったんでしょ?」
「………」
思い切って聞いてみたら征男は黙った。これが図星ってやつなのかな?あたしは征男に気を遣われる自分を情けないと思った。でももう違う、あたしは征男を安心させる為に話を続ける。
「言っとくけど、あたしあんたのこと恐がってないからね」
「え?」
あたしの発言に間抜けた返事をする征男。
「確かにあの時はすくんだけどああなったのて、理子の為だったんでしょ?なら問題ないわ!あたしは理子を苛めない、つまりあんたにあんな殺気だった目で睨まれることもないって気付いたのよ」
だからもう気を遣わなくて良いんだからね!征男!そういう思いで征男にあたしは伝えた。すると征男は安心したのかいつもの優しそうな笑みをあたしに向け――――
「まあ、理子ちゃんじゃなくても恋ちゃんに何か合ってもああなってたと思うよ」
と、とんでもない事を言ってきたのだ。ちょ、ちょっとあたしには服男っていう白馬の王子様が居るのよ!?ゆ、征男たら何言ってんのよ。
「へぇ〜嬉しいこと言ってくれるじゃない、でも残念あんたはお呼びじゃないわ、あたしに何かあったら服男に助けてもらうもの!」
征男には何でもなさげに返したが実際は少しドキッとした。まあ、征男のことだから友達として守るとかそう言うニュアンスで言ったと思うけどやっぱりドキドキする。
「それは残念だ」
ちょっとちょっと!その発言なんなのよ!?え?今の本気なの?それとも笑ってるから冗談なの?どっちなのよォー!征男にはいつも通りに振る舞ったが内心はパンク寸前になっていた。
別れの時、征男や理子と最後の挨拶をした。征男が征男のお父さんの車に乗り込もうとしている……ってイケない!!
「ちょっとまって!」
別れる直前になって言わなきゃイケないことを思い出した。あたしは車に乗り込もうとした征男を呼び止める。
「あんたに一つ言い忘れたことがあったわ……」
なんであたしって一番最初に言わなきゃイケない言葉を忘れてんのよ!今日ほど自分の頭の悪さを呪ったことはない。
「なんだい恋ちゃん」
征男が何事かとあたしの方を振り向く、自分の柄ではない事を言うから気恥ずかしい思いがあるが、これだけは伝えないと……あたしは気恥ずかしさを振り払って口を開く。
「卒業おめでとう。征・男・!」
やっと言えたわ、ホントならもっと早くに言うべきだったのに素直になれなくてギリギリになるなんて思わなかった。でもあたしの目の前にいるコイツは昔の自分より弱い奴をイジメ堕落したブタオじゃない。そんなこと、とっくの昔に分かっていたのに、結局卒業当日になるまで言えなかった。でもやっと言えた。その事実があたしの胸の重石を取り払ったように感じられた。
「!?」
あはは、征男たらあたしが名前で読んだから驚いてる!やっぱり言って正解だった。あたしは笑いながらそう思った。
「今度あったらまた勝負よ!」
もう会えないかもしれないしまた会えるかもしれない。どうなるか分からないけど負けっぱなしは好きじゃない。だから今度会った時はあたしがアンタを負かしてあげるわ!勝ち逃げなんて許さないんだからね!
「卒業おめでとう。恋・」
言いたいことを言い終わったあたしに今度は征男が口を開いた……って今アイツあたしの名前を……。
「!?」
今度はあたしが驚く番だった。アイツ、あたしのこと呼び捨てにしたわね……元ブタオの癖に生意気な。まあ、寛大なあたしはそれくらいじゃ怒らないわよ。ただ、今度会った時の勝負で負かすだけだから……。
「その勝負、望むところだ!」
ホント生意気なんだから………。
こうしてブタオこと悪原 征男は東北の聞いたこともない田舎に旅立った。征男が居なくなった後、あたしと服男と愛は私立京極学園の中等部に入学した。元お嬢様学校だけあって少し堅苦しい所だが服男達と3年間楽しく過ごした。あたしは征男と連絡のやり取りをしていないのでアイツが今どうして居るかなんて分からないが征男とメアドを交換した愛は毎日征男とのメールのやり取りを嬉しそうにあたしや服男に報告してくる。ただ彼女学校の勉強は出来る癖にこういう嬉しい事を報告する時、主語が抜けた内容をノリとテンションで伝えて来るのでよく分からない所が結構有るんだけど、分かる範囲は理子と征男に恋人が出来た事、高校は京極学園の高等部を志望した事くらいだ。
理子はともかく征男に恋人が出来るなんて意外だ。まあ、高校はうちの学園の高等部というのは嬉しい情報だ。待ってなさい征男!次こそはあたしが勝ってやるんだから!!
高校の入学式(あたし達からしたら進級式)が終わりあたしと愛と服男が新しい教室に行くと3年前に征男と一緒に引っ越した理子がいた。あたし達が彼女との再会を喜んでいると教室に見慣れない生徒が三人入って来る。女子2人と男子1人、外部編入組かな?
「理子ちゃん!」
「あ、留美さん!」
話を聞くと女子2人の方は理子が引っ越し先で出会った友達で中学を卒業した後に一緒にこの学園に入学したらしい。礼儀正しく育ちの良さが分かる星川 留美と小麦色に焼けた肌で一目で体育会系と分かる皐月 薫、2人ともタイプは違うけど女のあたしから見ても美人だと言える容姿をしていた。ウッ、なんて事なの愛だけでもかなり厄介なのに服男の周り2人も美人が増えるなんて……どうか2人が服男を好きになりませんようにッ!
まあ、でも2人とも良い娘そうだし問題ないのかな?あたしが2人と交流を深めていると先の男子が視界に入った。
「これで全員自己紹介終わったわね。改めてよろしく……ってそういえばあんたの紹介がまだだったわね」
留美と薫と一緒に来たって事はこの男子も理子の向こうの友達って事よね?あっ!そういうことか……。
「あの恋さん、そちらの方は征―――「向こうの男友達?でもそういう話は聞いてないし……あ、まさか理子!入学してすぐに男引っ掛けたの!?あんたやるわね〜」いえ、そうじゃなくて……」
理子が否定しようとしているが、あたしの目は誤魔化せないわよ!あたしは改めて先の男子を見る、体格は中肉中背でどちらかと言うと痩せよりに見えるけど教室に入る時に無駄な動きが無かったから多分、何かスポーツをやってるわね。黒髪黒目で容姿はイケメンとまでは言えないけど整ってる方、あたしの第一印象は服男程じゃないけど、悪くはない男かしら?
「ふ〜ん整った良い顔してんじゃない。理子、あんた良い男見付けたじゃない。まあ、服男ほどじゃないけどね」
性格までは分かんないけど理子が選んだんだから悪い奴じゃないでしょ(悪い奴だったら親友を誑かす悪い虫としてボコってやる!)。
「あのすみません。こちらの方が征――「それにしてもブタオの奴、理子放っといてどこで油売ってんのよ!私達に挨拶もしないなんてホント舐めてるわね!」ですから……」
にしても征男の奴!こっちの学園に入学したってのにあたしに挨拶しないってどういうことよ!?アイツが来たら勝負して過去の負け分を精算してやろうと思ったってのに!もう!あだ名で呼ぶの止めてあげようと思ったけどやっぱりブタオはブタオよ!
「ジー……」
あたしが1人征男に怒りを抱いている間、マイペースな愛は何故かあの男子をジーと見詰めていた。愛?彼の顔になんか着いてんの?あたしが愛に声を掛けようとした時、愛がとんでもない発言をした。
「久しぶりだね!ゆきおくん!」
「「「「えっ………」」」」
あたしを含めその場にいた全員が驚きの声をあげる。コイツが征男……?愛、アンタその年で何ボケてんのよ。3年経ったからってあのチビデブ(まぁ、卒業前はだいぶ痩せてたけど……)だった征男がここまで変わる訳ないじゃない。愛のとんでも発言に呆れたあたしは愛の目を覚まさせる為に口を開くが………。
「ち、ちょっと愛、何言ってんのよ……あのブタオと全然似てないじゃn―――「恋さん……愛さんの仰る通りそちらの方が征男様です」えっ……嘘……でしょ…」
まさかの理子の証言であたしは言葉を失ってしまった。う、嘘でしょ?コイツが征男?あのチビデブだった征男が経った3年でここまで変わるって言うの?あたしはあまりの出来事に呆然としてしまう。
「お久しぶりです愛さん」
「うん、久しぶりだね、ゆきおくん」
自身の正体を見抜いた愛に対して征男はにっこりと微笑みながら無駄の無い動作で一礼しながら再会の挨拶を交わす。あの征男がここまで変わるなんて……愛と親しそうにLifeの連絡先を交換する姿を見てもあたしは今だに信じられないでいた。
「ねぇあんた……本当にブタオなの?」
思い切って目の前の男に声を掛ける。愛も理子も認めているがやっぱり自分で聞かないと納得出来なかった。
「ええ、お久しぶりです。恋さん服男君3年ぶりですね」
あたしの問いに笑顔で答える男子、ああ、この笑顔……間違いない。もうここまで来たら認めるしかない、目の前にいるこの男は悪原 征男だ。
「ふ、ふーん、久しぶりね。ブタオ、少しはマシな姿になったじゃない」
征男に対して偉そうなことを言う自分、目の前の男が幼馴染だと見抜けなかった恥ずかしさを誤魔化す為に強気に出てしまった自分が嫌になる。
「ハハハ、恋さん、ありがとうございます。あ、お二人もってます?よろしければ交換しませんか?」
だが征男はそんなことは気にしないと言わんばかりに微笑むとあたしや服男ともLifeの連絡先を交換しようと持ち掛けてきた。
「フン!仕方ないわね。どうせブタオのことだから理子達以外にLifeの連絡先ないんでしょ?ならあたしが特別に交換して上げるわ!感謝しなさいよね!」
「ありがとうございます。服男君、恋さん」
勿論それに応じる。3年ぶりに再会、あたしの心は高鳴る。これでまた征男と勝負が出来る3年前のあたしとは違うことを思い知らせてあげる覚悟しなさいよ征男!
お読みくださりありがとう御座います。
次回は今回とは別の人物から見た主人公を描きます。




