↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵である俺がエロゲーの世界に転生した件について  作者: エージェントK
第2章 中学生編
23/34

第21話 黒狼VS半グレ

投稿が遅れて申し訳ないです。今回の戦闘パートは難産でした。どうかお楽しみください。

 8月20日早朝――――


 普段より一時間早く起床、俺の隣で眠っている理子を起こさないようにしながらベットから起き上がる。今日の為に前もって購入した黒いジャージ(フード着き)の上下に身を包む。黒いゴム手袋を着け、昨晩用意した道(・)具(・)が詰まったバックパックを背負う。よし、準備は整ったな。


「行ってきます……」


 俺はまだ夢の世界にいる。理子にそう小さく呟くと音を立てずに玄関に向かう。黒いシューズを履き外に出る。外はまだ薄暗いが俺は気にすることなく目的の場所に向かった。


 足利興業―――俺が今から向かう場所の名だ。足利興業とは東北連合足利一派の表向きの名前である。足利一派というのは今回秋穂の地上げを直接引き受けた東北連合の一グループだ。奴等のやり方は堕悪苦寝棲よりタチが悪い、最初は村人に善人面して近付き土地を売るように薦めるが拒否されると畑を荒らしたり村人の自宅付近を大音量で音楽を流しながら車で通過したり自宅に投石するなどの犯罪行為をする。しかも自分達がやった証拠を残さないので警察も逮捕出来ない(山田の圧力で逮捕出来ない?)、他にも村人の農具(トラクターや軽トラ)が何故か次々と壊れ修理費に困っている所(数が多いので村の組合の資金でも補えない&何故か銀行が貸してくれない)に聞いたこともない金融業者が現れ金を貸してくれるのだが貸す条件が支払いが滞ると担保として土地を取られるというもの(しかも高利)、村人も法外な条件だとわかっていても金を貸してくれるのがその業者しかいないので泣く泣く判を押すことになった。勿論この業者裏で足利興業と繋がってるいや足利の傘下の金融業者と言っても過言ではない(足利グループの金融担当)。本来このような高利貸しに返済義務などないのだが金融関係に疎い村人はばか正直に支払おうとする。相手もそれを理解してやっているからタチが悪い、このように奴等は搦め手も使ってくる。


 そんな奴等のトップは兄、足利 金一(あしかが きんいち)と弟、足利 銀二(あしかが ぎんじ)別名、『金閣』『銀閣』と呼ばれる双子の兄弟だ。兄、金一は足利一派のリーダーでこれまで暴行、恐喝、賭博、闇金と阿漕(あこぎ)なやり方で儲けたようなのだが金一がやった証拠がないので逮捕歴はない。弟、銀二は狡猾な兄と違い短気で喧嘩早く傷害での逮捕歴がある。足利一派では荒事の全てを引き受けており噂では自分達に歯向かった東北連合の別派閥のリーダーを殺害し遺体をバラバラにして遺棄したとのことだ。この他にも構成員約10名が村の北側の森にプレハブ小屋を建てそこに住み着いている。本来であれば足利一派の事務所は仙台にあるのだが初の地上げ業で失敗してはならんとリーダー自らが出向き安く買い叩いた土地にプレハブで事務所を作り居座っているらしい、着いてきた構成員も荒事向けの奴等ばかりで刃物や飛び道具を持って尚且つ平気でそれを人に使う可能性があるというのが和泉のおっさんから得た情報だ。


 正直これくらいのレベルの相手なら前世の俺なら楽勝で倒せた。しかし、今の俺は鍛えてるとは言え所詮は中学生、少しの油断が命取りになる。堕悪苦寝棲の時も少数を闇討ちというリスクの少ない殺り方をしたのもそれ故だ。今回も慢心無く用心して行くつもりだ。


「ここか………」


 鬱蒼とする森の中に一ヶ所だけ切り開かれた場所があり、その場所にはポツンとプレハブ小屋が一件建っている。どうやら目的地に到着したようだ。俺は樹々で身を隠しながらプレハブを観察する。和泉のおっさんの情報が正しければ拠点であるプレハブ小屋には常駐の構成員が居ると聞く、奴等に見付からないように慎重にいかねばならない。常駐の構成員以外は刈穂市内のホテルを利用しているとのことだが半グレの癖に毎朝7時にこのプレハブに集まり1日の業務の打ち合わせをした後、勤勉に仕事に励むそうだ(勤勉と言ってもやってることが悪質な地上げじゃ世話ないが)。


 暫くプレハブを観ていると車が一台、二台とプレハブにやって来た。スポーツカー、ワゴン、セダンと車両のタイプはバラバラだったが共通して車高が低く、派手なホイールで厳ついバンパーのカタギの人間が乗らないようなカスタマイズが施されていた。車がプレハブ付近に停車すると車の中から柄の悪い男達が次々と出て来た、足利一派の構成員達だ。その中でも最後にやって来た黒い新型のクラウンから出て来た二人の男は別格だと言えた。1人は紫のスーツに金髪をオールバックにした男で目は蛇のように鋭く狡猾そうな雰囲気、特徴からして金閣こと金一だろう。もう1人の男は橙色のスーツとこれまた派手な身なりで金一と瓜二つのそっくりな顔をしているがオールバックの髪色が銀髪で頬に刃物で斬られたと思われる古傷があり狂犬染みた雰囲気があり金一と違う危険さを漂わせる男だ。恐らくこいつが弟の金閣こと銀二なのだろう。先に来ていた構成員達は二人に揃ってお辞儀をすると道を譲りプレハブ小屋の扉を開けた。足利兄弟は構成員達の態度が当たり前だと言わんばかりに堂々とプレハブの中に入って行った。構成員達も兄弟達が入って行った後に続々とプレハブに入り、プレハブ周辺には奴等の車両と見張り役しか残っていなかった。


 どうやら足利の奴等は全員揃ったようだ。俺は背負っていたバックパックを降ろし中に入っている仕(・)事(・)道(・)具(・)を取り出そうとしたが………。


 ブゥーンブゥーン


「!?」


 突然の振動音に身構えてしまった。しかしよく考えてみたらジャージのポケットにしまった携帯のバイブ音だと気付き肩の力が抜けた。


「あっぶね!マナーモードじゃなかったら気付かれてたな」


 今度から仕事する前は電源は切ろうと反省しながらこんな朝っぱらから何処の失礼な野郎だ?と若干キレながら(八つ当たり)携帯の画面を見た。


「うん?理子からか?」


 画面に表示された番号は自宅からだった。今日我が家には理子しかいないので着信相手は理子しかあり得ないのだが、おかしいな理子には前持っていつもより早めにトレーニングをすると伝えた筈なんだが……何か合ったのか?


「もしもし」


 とりあえず考えてもわからないので電話に出ることにした。


『征男様、トレーニング中に申し訳ございません』


 俺の読み通り電話に出たのは理子だった。


『いえいえ構いませんよ、それより何かありましたか?』


『はいそれが……『え?なになに!征男出たの?替わって替わって!』あっ!薫さん!『ヤッホー征男!グッドモーニング!』


 電話に理子以外の声が加わるどうやら薫のようだ。


「薫さんですか?おはようございます。朝早くからどうしました?」


 朝っぱらから我が家に薫が居ることに驚きながらそれをおくびにも出さず俺は薫と会話する。


『そうだった!ゆきえも〜ん、助けてー夏休みの宿題が終わらないよぉ〜〜』


 ズゴッ


 電話の理由が余りにもしょうもない内容だったのでズッコケそうになる。てか俺は未来から来た猫型ロボットかよ!


「どうせ薫さんのことです。夏休み中にスポーツ推薦が取れて有頂天になって宿題を忘れたオチでしょ?それは自業自得では?」


『ギクッ』


 図星かよ……こっちは7月中に終わらせたというのに俺はため息を吐きながら薫の言い訳を聞く。


『だ、だってぇ〜〜推薦取っちゃえば宿題しなくて良いと思ったんだもん、そしたら宿題出さないと推薦取り消されるってこの前先生から電話で聞かされて……』


 薫行動パターン読まれとるやんけ(呆れ)。電話してきた先生ってのは俺らの担任の老教師だろう、あの人温厚だけど期限を守らない奴には厳しい人だからな。特に宿題の提出期限とかは………、あの教師のことだ。わざわざ電話したのも推薦取って浮かれて宿題をやってないであろう薫に釘を刺すためにやったことだろうな。実のところ夏休みの宿題の提出の有無ごときで推薦が取り消されるなんてことはない。あれは老教師が宿題もせずに遊び惚けている薫を懲らしめる為についた嘘だ。だがそれを薫に告げる気は俺にはない、義務教育である中学と違い留年がある高校でも今のままは困るからだ。彼女の為にもここは老教師の嘘に乗っかろう。


「先生に確認しない、薫さんの責任です。夏休みも後10日もありますから、全然やってなくても今から頑張ればなんとかなるでしょう」


『そ、そんなぁ〜』


 情けない声を出す薫。


『ど、どうしよう。……今回の宿題難しいし、理子に教えて貰おうにも征男様にお伺いしてくださいとしか言わないし……このままじゃ私、征男達と一緒の学校に行けないよ……』


 涙声でオロオロする薫、流石に可愛そうになってきたな……。仕方ない助け舟を出すか……。


「仕方ないですね、私が戻ったら教えて上げますからそれまでは理子さんに教えて貰ってください」


『あ、ありがとー!征男!これで推薦取り消されなくて済むよ!帰って来たら遊ぼうね』


 遊ぶって……勉強は後回しかよ。突っ込みたい気分だったがやるべきことがあるので我慢する。


『あっ、理子が替わって欲しいそうだから替わるね。征男早く戻って来てね!』


『替わりました征男様』


「理子さん、申し訳ないですが私が帰って来るまでの間、薫さんの宿題を見てやってください。それと彼女のことですから朝食を食べずに飛んで来たと思うので彼女の分の朝食もお願いします」


『かしこまりました。征男様』


「それでは私はトレーニングの続きがありますので」


『はい、気を付けてお帰りください』


 通話を終える。やれやれまさか薫が今日に限って家に来るとはな……まあ、さっさと終わらせれば問題ないか。


 俺はバックパックの中から道具を取り出す。始めに100円ショップで買った鞘付きの果物ナイフをズボンの腰に差す。次に同じく100円ショップで買ったアイスピックをズボンのポケットに入れ、去年作った改造エアガンのグロッグ19とそのレッグホルスターを太腿に装備する。族狩りの時に活躍したクロスボウはスリングベルトを着けて首からぶら下げる。後は去年燃やして処分した木刀の代わりである二代目木刀(今回も手作り)を背に差しネイルガンを持てば準備は完了だ。


「……」


 見張り役は二人、どちらも俺の方を向いていないので丁度良い。俺は素早くそして足音を出さない特殊な歩き方(外人部隊時代に覚えた小技)でプレハブに接近、見張り役がこちらを振り返る前に奴等が停めた車を遮蔽物にして隠れる。この時ついでに車のタイヤから空気を抜く、タイヤはナイフや銃でパンクさせなくてもエアバルブを取れば簡単にタイヤから空気を抜くことが出来る。エアバルブとはタイヤに空気を入れる為の入口であり蓋の役割を果たしている。これを外せば少しずつではあるが空気が抜け10分もしないうちにタイヤの空気は空になる。ナイフでタイヤに開けた時に比べると空気が抜けるまで時間が掛かるが音が静かなので気付かれにくいというメリットがある。


 見張り役に気付かれないように全ての車両のタイヤから空気を抜いた俺は一旦ネイルガンを置くと腰に差した果物ナイフを抜いて俺から近い場所にいる見張りに背後から忍び寄る。


「ふわぁ〜〜寝むいn―――ッ!?」


 俺は無手の左手で見張りの口を押さえ抵抗される前に右手に持った果物ナイフで撫でるように首の頸動脈を切る。見張りは口を押さえている左手を振りほどこうとしたり切られた首から流れる血を止めようとしたが、血がある程度流れてくると段々その抵抗も弱くなり遂には動かなくなった。これで見張りの1人は制圧した後もう1人……。


「あれ?アイツどこ行った?………あんにゃろうサボりやがったな!」


 動かなくなった見張りを車の影に隠しもう1人の見張りの様子を伺うと姿を消した仲間を探しにこちらに近付いて来ている。奴が近付くの待って先の見張りと同じように始末しようと考えたが先の見張りの流した血があるので近付かれたらバレる。俺が奴の背後に回るのも位置的に不可能、故に俺は首からぶら下げたクロスボウを構え奴の前に姿を現す。


「あ?誰だおめぇ………あ?」


 ピュン――――グサッ


 見張りは突然現れた俺に注意がいき、俺の持つクロスボウに気が付かなかったようだ。そのチャンスを無駄にする俺ではないのでそのままクロスボウの引き金を引く、射出されたボルトは見張りの頭部に命中、奴は自分に何が起こったのか理解出来ないまま絶命した。


「ケッ!武器なんも持ってねぇーのかよ使えねえなぁ」


 始末した二人の見張りは何の武器も持っていなかった。まあ、武器を外に持ち歩いたら不味いので持たせないのだろうが、襲撃されたら真っ先に狙われるのに奴等は何を考えているんだ?まさかこいつら襲撃された時の足止め要員で捨てゴマなのか?取り敢えず見張りから金目の物と身分証を奪うと俺は地面に置いたネイルガンを拾いプレハブ小屋に向かう。


「さぁ、ショータイムだ……」







 プレハブ小屋の扉に鍵は掛かっていなかった。おいおい、不用心過ぎるだろ……。俺は扉を開けプレハブ小屋に入る。


「おい、何見張りサボってこっち来てんd―――お前誰だ!?」


 小屋に入ってすぐに柄の悪いスーツを着た男に呼び止められた。男からしたらサボった見張りに声を掛けたつもりが良く見たら黒いフード付きのジャージの上下に身を包んだ不審者だったから驚いているのだろう。小屋を見渡すとデスクが何台も置かれそこに柄の悪いチンピラ然とした男達が座り電話をかけていた。


「オラァババア!金返さんかい!」


「利子も払えない?なら担保の土地の権利書よこさんかい!」


「都会に行った息子に泣きついて金出させろよやジジイ!」


 oh……どうやら借金の徴収作業をしているようだ。電話越しに怒鳴られた爺さん婆さんは御愁傷様である。


「おい無視してんじゃねぇーよ、お前は誰かって聞いてんだよ!」


 俺の目の前にいる男以外に俺に気付いている者は居ない男達は徴収作業に夢中で俺に気付いていないのだ。


「お前さっきから黙り決め込んでねーでなんか言えや!」


 さっきから男がわめいてうるさいので自己紹介代わりにネイルガンを向ける。


 パスッパスッパスッ


 名刺替わりの釘を男の顔面に向けて放つ。


「ぎゃあああ」


 三発放った釘は男の頬や鼻に当たり男は悲鳴を上げる。


 パスッ


 止めの一発を頭部に命中させ男を黙らす。


 ネイルガンの動作音と男の悲鳴で電話に掛かりきりだった男達も流石に気付いたのだが、余りの出来事に呆然としていた。やれやれこいつら本当に荒事専門の半グレなのか?俺は奴等のやる気を出す為にレッグホルスターから取り出した改造ガスガンのグロッグ19を抜くと取り敢えず近場にいたチンピラに向けて発泡した。


 バスッバスッ


 この市販のガスガンに俺は簡単な改造を施した。まず射出する弾丸を0.8ミリのプラスチック弾から0.8ミリの鉄球に換え貫通力を高め、弾丸を射出するときに噴射するガスの圧力と量を増やし威力を上げた。これにより空き缶程度なら余裕で貫通するし牛肉のブロックも2センチもめり込むことが出来るようになった。そしてそんな物を人間に向けて撃ったらどうなるか……。


「いでぇ!いでぇぇぇ!」


 0.8ミリの鉄球はそのチンピラの肩や胸に当たり奴は悲鳴を上げる。フム、やはり拳銃と比べるとやはり威力は低いな……今ので殺そうとしたのに当てが外れたな。まあ、これで奴は戦闘不能になったことだし良しとしよう。


「か、カチコミだ!」


「テメェ!東北連合に手を出して只で済むと思うなよ!」


 仲間の悲鳴を聞きようやく状況を理解した男達は殺気立ちドスやら日本刀やらを出し俺に向かって来る。


「そう来なくちゃ!」


 本当ならこいつらと真っ正面から殺り合わなくても堕悪来寝棲の時のように闇討ちに徹すれば余裕で勝てるのだが、一対多の乱戦を経験したかったのであえて正面から殺り合うようにしたのだ。それに乱戦と言ってもデスクが邪魔で奴等は全員で掛かって来れず近場の奴からしか来れないのでそこまで危険ではない。


「死ねやゴラァ!」


 ドスを持った男が俺に向かって突っ込んで来る。飛び道具を持った相手に刃物で突っ込むとは憐れな……俺は右手に持ったガスガングロッグ19と左手に持ったネイルガンを奴に向けて放つ(実は、前世の時にやらなかった二挺拳銃なので若干興奮している)。


 パスッパスッパスッパスッ


 バスッバスッバスッバスッ


 放たれた釘と鉄球が男を蜂の巣にする。男の背後から別の男がドスを持って飛び出して来た。学習能力のない奴等だ。その男も蜂の巣にしたらネイルガンが弾切れを起こした。再装填(リロード)しようにも普通の拳銃と違い、ガスカートリッジと釘弾倉(ネイルマガジン)の両方を装填しなければいけないためネイルガンを捨てガスガンのみで残りの敵に対応するが……。


 パスッパスッパスッガキッ――――


 ガスガンを連射していたらガスガンから嫌な音が鳴り、鉄球が撃てなくなった。どうやら無茶な改造のせいで内部のパーツが破損したようだ。クソッ!試し撃ちの時は何も問題なかったのにまさか本番でぶっ壊れるとは俺もツイてない。


「ハハハ!撃ってこいヤァ!」


 俺の飛び道具が不調だと知り調子に乗った男の一人がドスを構えてこちらに迫る。俺は冷静に背中から二代目木刀を引き抜き構える。二代目木刀は室内戦を考慮して燃した初代木刀の刀身が90センチなのに対してこちらは30センチと短めだが奴等と戦うのには十分だ。


「うりゃあああ!」


 俺を刺し殺そうとしているのか、ドスで突きを放つ男の攻撃を躱し木刀で奴のドスを持つ右手を小手で砕く。


 バキィ


「グッアアアアッ!」


 骨の砕ける音と奴の悲鳴を聞きながら俺は木刀で奴の膝を殴打し跪かせそのまま脳天に上段から木刀を振り下ろす。頭はザクロのようにパックリと割れ血が噴き出し奴は絶命した。


「このクソ野郎が!」


「往生せいや!」


「死に晒せ!」


 ドス持ち2人日本刀持ち1人が一斉に襲いかかる。ドスはともかく長物相手は分が悪いのでデスクの上に跳び乗ってデスクからデスクへと飛び跳ねる。


「待てヤァゴラァ!」


 3人共逃げる俺を追い駆けるが日本刀持ちがドス持ち2人よりも動きが早いようでドス持ち2人との距離が開いた。これで厄介な日本刀持ちと戦っても横からドス持ちが邪魔してくる可能性が無くなった。俺は逃げから反転して攻勢に出る。


「ナァ!?」


 俺の攻勢に一瞬面食らった日本刀持ちだったが、すぐに持ち直し俺に向かって刀を振るう。俺は木刀でそれを防ぐ、時代劇とかなら木刀ごと斬られるのがオチだがそれが出来るのは剣豪とか達人の域に達した者だけだ。だが奴の動きはその域には達していない素人だゆえに奴の振った刀は木刀にめり込むだけで両断は出来ていないそれどころか……。


「ぬ、抜けねぇ!!」


 そう木刀にめり込んだ刀が抜けないのだ。奴は必死になって抜こうとしているがそれを黙って見ているつもりはない。俺は刀がめり込んだ木刀を手放す。木刀から刀を抜こうとしていた奴はバランスを崩すがすぐに持ち直し刀を諦め、腰に隠し持ったドスを鞘から抜こうとしているが、残念ながらバランスを崩した段階で奴の負けが確定していた。俺は腰に差した果物ナイフを鞘から抜くと奴のガラ空きの脇の下を斬る(脇の下は神経と血管が集中しているので浅く斬っても激痛が走る)。痛みから顔を歪ませ、がむしゃらにドスを振り回そうとする男の手首を斬りドスを落とさせ無防備な横っ腹、鳩尾、首の順に流れるように斬る。奴は腹や首から血を噴き出しそのまま倒れた。床で必死に首や腹を必死に抑えているが出血死するのは時間の問題だ。奴の返り血塗れになってしまったが気にしてはいられない。ドス持ち2人が俺に襲い掛かったからだ。


 パキンッ!


 金属と金属のぶつかる音が響く、俺の果物ナイフが相手のドスの斬撃を防いだ音だ。そして音が鳴り終わらぬうちに突き出されるもう1人のドス持ちから放たれる刃、俺はそれを避け2人と対峙する。先の日本刀持ちと違い自身の道具(エモノ)の使い方と連携慣れした動きをしており少し厄介そうである。


「死ねぇ!!」


「オラァ!」


 パキンッ!パキンッ!


 2人の斬撃を果物ナイフで防ぐが、流石は100円ショップの安物だけはある。たった数回の斬り合いでもう刃こぼれしている。折れるのも時間の問題だな……。俺は刃こぼれした右手の果物ナイフを順手から逆手に持ち替え、左手にポケットから取り出したアイスピックを握る。


「アイスピックだぁ?笑わせる!」


「ダセェ二刀流なんてやってんじゃねぇぞ!三下ぁ!」


 バカにしたような嘲笑を浮かべながら斬り掛かる2人、一番先に動いたドス持ちは俺の果物ナイフやアイスピックにばかりを警戒して俺の足はノーマークだったので蹴りを股間に喰らわせる。


「△○♂★!」


 金的を喰らい情けない声を出す奴を無視してワンテンポ遅れて別のドス持ちが放った上段からドスの振り下ろしを逆手で持った果物ナイフで防ぎ奴の鳩尾にアイスピックを突き刺す。


「アッ……ガッ!」


 苦悶の表情を浮かべるドス持ちに構うことなく俺はアイスピックを奴の鳩尾を抉るように深く突き刺す。鳩尾は人体の急所の一つであり脇の下と同じく多数の神経があるからである。奴は激痛に顔を歪ませながら口から吐血して死んだ。


「▼△♀▽⬜◀○!!」


 金的を喰らい悶絶していたドス持ちが訳の解らない叫び声を出しながら突っ込んで来た。アイスピックは仕留めたドス持ちの鳩尾に深く刺さり込んでいるのですぐには引き抜けない。果物ナイフは刃こぼれでなまくらになっている。そこで俺は果物ナイフを捨てアイスピックの柄から手を放し、無手で迎い討つ。


 奴が突き出して来たドスを持った右手を左手で掴み、右手で奴の右腕の肘も掴むと奴の肘を曲げドスを持った奴の右手を奴の胸に押し込む。


「グゥアァァ!」


 自身のドスが胸に刺さり悲鳴を上げる奴の頭を両手で掴み膝蹴りを連続で喰らわせる最初は下顎、下顎が砕ける音がしたら頭の角度を変え今度は鼻を…鼻が砕ける音がしたら首を捻りこめかみにも膝蹴りを喰らわせる。


「あっ……あぁ……」


 俺が頭から手を放すと度重なる頭部に対するダメージで脳震盪を起こし奴は崩れ落ちる。俺は横たわる奴の胸に刺さったドスの柄頭を強く踏みつけ確実に息の根を止めた。


「ふぅ……」


 俺は息を吐くと辺りを見回す。おかしい……倒した人数と元からいた人数が合わない。入口は俺が入って来た所の1箇所だけ、俺の目を盗んでその入口から逃げるのは不可能だ。プレハブは三部屋あり、一つは俺が暴れた玄関側の部屋もう一つはドアを隔ててある中部屋、最後は中部屋からさらに奥にある足利兄弟の執務室である。おそらく乱戦のドサクサに紛れて中部屋や執務室に逃げたのだろう。奥の部屋の窓から逃げられたら厄介だが奴等の車の空気は抜いてあるので車で逃げることは出来ない。それより問題なのは奥の部屋で武装を整えた奴等の報復だ。俺に襲いかかった奴等は拳銃等の飛び道具を持って居なかった。情報によれば奴等には拳銃は勿論のこと足利 金一に限っては趣味が狩猟ということもありライフルやショットガンを持っていると聞いた。おそらく先の連中で足止めして奥に引っ込んだ奴等が装備を整えてくる可能性が高い……俺は一度捨てたネイルガンを拾うとガスと釘の補充を行うが………。


 バタン!


 扉が乱雑に開けられる音が響き俺は音の方向に振り返るが……少し遅かった……。


「おっと、動くんじゃないぜ」


 振り向いた先には中部屋に続く扉を開け放ちリボルバー拳銃S&WのM-36を構えた男が撃鉄を上げながら立っていた。


「とりあえず、その釘打ち機を捨てな」


 言われた通りにネイルガンを捨てる。クソ、こんな事になるならトカレフくらい持ってくればよかった……弾ケチったのが裏目に出たな。


「おい!奴はどうなった!」


「へへ、心配すんな!捕まえてやったぜ!」


 奥の部屋から声が聞こえる。拳銃を持った男はその声に大声で答えた。


「待ってろ!こっちもチャカの弾込め終わったらすぐに行く!」


「お前まだ入れ終わってねーのかよ!?だからチャカはリボルバーにしろって言ったろーが!」


「るっせぇ!オートの方が弾数多いから良いんだよ!」


「だったら最初からマガジンに弾入れとけよアホ!……おっと済まんな相方がバカでよ勘弁してくれ」


 奴等の漫才みたいな会話からすると奥に入る奴はオートマチックの拳銃を所持しているようだがマガジンに弾すら入れてなかったようだ。ってことは今の所は目の前のコイツさえなんとかすればまだなんとかなるということだ。俺は手を上げて降参の意を示す。


「そうそう、大人しくしてろよ」


 男は不敵に笑いながらこちらに近づく。


「今からお前をふん縛ってボスの前に連れてってやる。ボスが直々にお前を始末するってさ」


「へぇ……わざわざ連れてってくれるのか有り難いね」


「ん?随分ガキっぽい声だな?面みせろよ」


 俺の声に反応して奴は俺の顔を直接見ようとさらに近づく。


「だがな……」


「あん?」


 奴が俺の手の届く範囲にまで近づく……。


「ボスの元には俺1人で行く」


 言い終わらないうちに俺は右手で奴のM-36のシリンダーを握り、撃鉄を押さえる。


「ナァ!て、テメェ放しやがれ!」


 至近距離でリボルバー拳銃を向けられた時の対処法は簡単だ。相手が発砲する前に素早くそのリボルバー拳銃のシリンダーと撃鉄を押さえ込めばいい、そうすれば相手がいくら引き金を引こうが弾は発射されない。実際俺の目の前にいる奴は引き金を引こうと必死になっている。プロだったらこういう状況になったらさっさと拳銃で戦うのを諦め格闘戦に持ち込むものだが奴は所詮半グレそんな知識はない(まぁ、プロなら拳銃を相手の手が届く範囲にまで近づかせないが)。


「フンッ!」


「ぐあっ……」


 俺は今も引き金を引こうと必死な奴の胸ぐらを左手で掴むと無理矢理こちら側に引っ張り頭突きを喰らわせる。俺の頭突きは奴の鼻に直撃し奴の鼻血が俺の頭に降り掛かる。頭突きのせいでM-36を握る力が弱くなったのを見逃さず銃をひったくる。ふらつく奴の股間に蹴りを、胸ぐらから放した左手で奴の鳩尾を殴打、そして痛みで体をくの字に曲げた奴の背に肘打ちを数発喰らわせ転倒させ、止めに頭を数回踏みつけ、頭蓋骨を粉砕する。


「オイ!何があった!」


 奥の部屋で今倒した奴と話していた男の声とこちらに向かって走ってくる足音がする……来るか!そう思い頭蓋を粉砕した男から奪ったM-36を構えた時そいつは扉から現れた。


「ッ!?テメェ殺りやがったな!」


 現れた男は頭蓋を粉砕を粉砕された男を見て逆上し俺にオートマチックの拳銃を向けようとするが先に構えているこちらが負ける道理はない。


 バン バン!


 俺の発砲した弾丸は奴の胸と頭に命中、奴は一発も発砲することなく倒れた。俺は銃を構えたまま撃ち殺した奴に近づき奴の銃を拾う。


「ほう、マカロフか……」


 マカロフPM―――ソ連でトカレフに替わる軍用拳銃として開発された自動式(オートマチック)拳銃(ピストル)。9ミリマカロフ弾という弾丸を8発装填出来る。コイツは使える拝借しよう。


 死体に刺さったアイスピックを引き抜き、ガスガンを差していたホルスターにマカロフを、右手にM-36左手を逆手にしてアイスピックを構えながら奥の部屋に入る。


「死ね!ワレ!」

 

 部屋に入った途端日本刀を振りかぶった男が襲いかかって来た。無駄撃ちしたくなかった俺は日本刀避けガラ空きの男の胴体、脇腹・鳩尾・脇の下を連続で刺して殺す。


「死ねクソ野郎!」


 バンバンバン!


 部屋の奥に気配を感じたのでアイスピックで倒した男を盾にしたら怒声と共に弾丸が飛んで来た。幸い、弾は全て盾にした男に命中したので俺に当たることはなかった。俺は右手のM-36で応戦する。


「いでぇ!」


 弾は奴の足に当たり奴は転倒して悲鳴を上げる。


「クソ!弾を無駄にした」


 アイスピックを捨て倒した奴の日本刀を拾い、悲鳴を上げる奴に近づく。


「こ、降参だ!た、頼む見逃してくれ!お前の狙いはうちのボスなんだろ!?ボスなら弟の銀二と一緒にし、執務室に籠もってる。だから見逃してくれ!」


「うるさい」


 無駄に騒ぐ男を刀で斬り捨て俺は執務室に向かう。


「ここか……」


 執務室の前にたどり着いた。弾数が少ないM-36を仕舞い、ホルスターに仕舞っていたマカロフを構える。普通に扉を開けようとしたが嫌な予感がしたので扉から距離を置き片手だけを伸ばしドアノブを回した。


 ズドン!


 デカイ銃声と共に執務室のドアのど真ん中にテニスボールサイズの穴が開く。


カッシャ…ズドン!カッシャ…ズドン!


 間髪入れずにドアに二周りサイズの小さい穴が連続して開く。


「ッ!!」


 俺はすぐさまドアから離れ両手でマカロフを構える。銃声とその後の金属音からしてテニスボールサイズの大穴を開けたのはおそらくショットガンで後の小穴を開けたのボルトアクションのライフルだと予想する。『兄、金一の趣味は狩猟』和泉のおっさんの話が頭を過る。


「オイ!どうしたんだ!?出てこいよ!」


 銃声と共に挑発するような粗暴な声がする。足利兄弟の弟、足利 銀二か?


「どうした!?雑魚は殺せても俺等は殺せねーだろ!」


 再度の銃声、執務室のドアは散弾による穴ボコでドアの役割を果たしていない。俺は執務室の様子を伺おうと入口に首を近付けた。


 ズドン!


「除きとは関心せんな。鉄砲玉!」


 銃弾が飛んで来て俺はすぐさま首をドアから離す。銀二とは違う声、金一の方か?一瞬しか執務室を覗けなかったが、執務机を倒して盾にしている金髪の男と銀髪の男を確認することが出来た――足利兄弟だ。兄、金一はスコープの着いたボルトアクションライフルを弟、銀二は水平二連ショットガンを構えていた。


「覚悟しろよカチコミ野郎!兄貴の前に引きずり出して嬲り殺してやる!」


「まぁ、まて銀二、単身で乗り込んでここまで来たツワモノなんだ。嬲って殺すなんて勿体無いだろ」


 怒り狂った銀二を幾分か冷静な金一が嗜める。


「なぁ、鉄砲玉!お前誰に雇われた?うちらに縄張り荒された地元のヤクザか?そんなチンケな奴等に雇われるくらいならうちにこい、俺達は半グレだがそこいらの田舎ヤクザより金は持ってる。オメーに高い給金払ってやるぜ」


 どうやら金一は俺をスカウトしたいらしい。まぁ奴の荒事好きの部下を全員倒したんだ損失分を補いたいという思惑は解らない訳じゃないが生憎半グレ如きに雇われるつもりはない。



「……ダンマリか、仕方ねぇ、銀二!奴に俺等を敵に回したことを後悔させてやれ!」


「あいよ、兄貴!奴には死ぬよりツラい地獄を見せてやる!」


 銃撃が激しくなる。俺もマカロフで応戦しようとしたがある物を見て気が変わる。上手くいけば弾を無駄遣いしなく済むかもしれないな……。

















「ヒャッハー出てこいよ鉄砲玉!」


 執務室では足利兄弟が扉や壁と招かれざる客が隠れていると思われる場所に銃撃を浴びせていた。プレハブの壁如き、ショットガンやライフルなら簡単にブチ抜ける。乱射で若干ハイになっている兄弟たちは壁穴をせっせと作った。


「なあ兄貴」


「どうした?銀二」


 交互にリロードしていた兄弟だったがリロードの終わった銀二が話かけた。


「さっきから壁撃ってるけど全然反応無くね?」


 そうさっきから自分達だけが銃撃しているだけで相手からは何も反応がないのだ。彼らの経験則からするとここまで銃撃された場合銃撃された側は血の気の多い奴なら反撃を、臆病なチキン野郎なら悲鳴を上げてその場から逃げるの2択だったので今回のような無反応は前代未聞なのだ。


「悲鳴を上げることすら忘れて逃げたんだろ?それか運悪く当たってたりしてな?ハハハハ!」


「ブフっ!だとしたらマヌケ過ぎんだろ!こちとら生け捕んのにワザと大雑把に撃ってるてのによ!」


 彼らは、無差別に銃撃しているように見えて侵入者に当たらず尚かつ逃げられないように銃撃していた。生け捕りにして痛ぶる為だ。手下が全滅したというのにまだ勝機があり尚かつ生け捕りに出来る余裕があると考えるあたり彼らの認識の甘さが伺い知れた。


「まあ、どっちにしろこちらに着かない時点で奴は死んだようなもんだ問題ない」


「でも兄貴、俺らに喧嘩売っといてこんな呆気なく死んじまったら俺の気が済まねぇぜ!」


 弟、銀二の意見も一理あった。手下なんぞ金さえ有れば幾らでも集まると考えている金一だったがその金は自分が払うのであって直後殺した鉄砲玉本人ではない。金一としても無駄な出費をさせた鉄砲玉にはそれ相応の代償を払って貰おうと考えていたので死なねるのは少し不都合なのだ。


「銀二、ちょっと見てこい!運が良ければまだ虫の息で済んでるかもしれんぞ」


「OK兄貴!生きてたらタップリ痛めつけてやるぜ」


 ショットガンを構え執務室から外に出ようとする銀二をサポートするため銀二の背後をライフルを持った金一がカバーする。五体満足で鉄砲玉がいた場合先頭の銀二がショットガンが仕留め、もし銀二が襲われても金一がライフルで仕留めるという二段構えの戦法で以前もカチコミを掛けられた時にこの戦法でカチコミ犯を仕留めているので実績のある戦法と言えた(とは言え以前のカチコミでここまでの被害はなかったが)。


 慎重に進む銀二、金一もいつ銀二が襲われても良いようにライフルを構える。この時金一はカチコミを仕掛けた鉄砲玉如き自分達兄弟に掛かればイチコロだという自信があった。銀二が執務室を出たその時までは………。


 プシュー


 銀二が部屋を出た途端銀二の体はおろかその周辺がピンクの煙幕に包まれた。


「銀二!!」


 叫ぶ金一、最初動揺した金一だったがこの煙幕がこのプレハブ小屋の各所に設置しておいた消化器の消火剤だということを瞬時に理解した。消火剤が自然にぶち撒けられる可能性は低いつまりこれは鉄砲玉の策略であるということを示しているのだ。


 ズドン!


 銃声が響く、銀二のショットガンの銃声だ。


「銀二!」


 銀二が鉄砲玉を仕留めたかもしれないと思いこえを掛けるが反応はない。金一は冷や汗を流しながら煙幕に向かってライフルを構えるが視界が遮られ鉄砲玉はおろか銀二の姿すら見えない銀二に当たる可能性があるため金一は引き金を引けないでいたのだ。


「クソっ!」


 結局煙幕が晴れるまで金一は引き金を引けなかった……。












 一方、銀二は執務室から出た瞬間に撒かれた消火剤に悪戦苦闘していた。


「クソ!目が痛ぇ!」


 運の悪いことに消火剤が目に入り銀二の視界は完全に奪われていた。なんとか煙幕から抜け出そうとする銀二だが彼の受難は続く。


 ガシッ


 煙幕の中から手が伸びて来て銀二のショットガンを掴んだのだ。掴んだ相手に向かってそのまま発砲したかったが掴まれた時に銃口が上を向いてしまったので出来ないでいた。


「出やがったなテメェ!」


 銀二が消火剤で染みる目を無理矢理開いて見れば全身黒ずくめの人型が自身のショットガンを掴んでいるのをボヤケながらであったが見えた。黒ずくめが自分のショットガンを奪おうとしているのが判り慌て掴み直そうとするが……。


(なんちゅう力だ!?)


黒ずくめもかなりの腕力があるようで中々取り戻せない。煙幕で視界は悪い中自身のショットガンを握る相手とこのままショットガンの取り合いをしているのは不利であると長年の経験から本能的に感じた銀二はさっさとショットガンを手放して背広の内ポケットに隠したマカロフを抜いて黒ずくめに撃ち込もうとした。黒ずくめにショットガンを奪われても黒ずくめが取り回しの悪いショットガンを構えて撃つより先に取り回しの良い拳銃を先に抜いて至近距離でブチ込んだ方が早いと思ったからだ。ゆえに銀二はショットガンをさっさと手放し懐に手を伸ばす、しかし……。


「ナァ!?」


 黒ずくめはショットガンを構えるどころかショットガンを掴んでいない方の手でぶん殴って来た。これには流石の銀二も面食らう。殴打は銀二の首に当たるが先程からショットガンを乱射してアドレナリンが出まくりハイになっている銀二には大した痛みは感じなかった。


(まさか殴って来るとはな……だが大したことねぇ!俺の勝ちだ!)


 マカロフを懐から抜き構えた銀二は勝利を確信し引き金を引こうとした。


(ひ、引けねぇ…力か入らねぇ…)


 引き金に掛けた指に力が入らない。それどころか全身から力が抜け真夏だというのに寒さすら感じる銀二、自身体調に戸惑う銀二は敵を目の前にして落ち着こうと深呼吸をしようとするが、


「コヒュー…コヒュー…」


 何故か空気が肺に入らないそれどころか首辺りで空気が漏れる音がする。目を下に向ければおびただしい血が彼のスーツを染めていた。


(あ……)


 この時になって彼はやっと自分が殴られたのではなく刺されたのだということを理解した。視界が悪く黒ずくめの手元が見えなかったことと、ハイになっていたせいで刺された痛みを殴られた痛みと勘違いしたのだ。


「教えてやる。この距離なら拳銃で撃つよりナイフで刺した方が早いんだよ……まあ、俺が刺したのはアイスピックだけどさ」


 黒ずくめがそんなことを言いながらショットガンをこちらに向ける。謎が解けたところで出血多量で引き金を引く力すらない銀二にはもうどうすることも出来ない。


(すまねぇ、兄貴下手こいた……)


 ズドン!


 銃声と共に銀二の意識は途絶えたのだった。











 上手くいった。足利兄弟の銃撃に晒された時に見つけた消化器、撹乱目的で撒いたのだがここまで上手く行くとは思わなかった。銃撃に反撃せず、奴等がこちらに近づいて来るのを待ったかいがあったというものだ。


 銀二から奪った水平二連式ショットガンはベレッタ社製のSO5というもので堅牢さが売りの散弾銃だ。水平二連の名前の通り2発しか散弾を装填出来ないがコイツは使える今後も使おう。


「煙幕が晴れるな…」


 銀二の死体から予備の散弾が無いか探そうとしたがそろそろ撒いた煙幕が晴れる頃だ。俺はさっさと銀二から離れ執務室外側の壁に身を隠す。


「銀二!!」


 金一の悲痛な叫び声が響く、無理もない煙幕が晴れたと思ったら自分の弟の死体が転がってるんだ。そりゃ叫びたくもなるさ。


「テメェ!よくも銀二を!」


 おうおう、怒ってる怒ってる。金一は感情的になってライフルを乱射する。オイオイそんなに連射してたらすぐに弾切れだぞ。


「クソ!」


 案の定すぐに弾切れになりライフルの引き金を引いてもカチカチと虚しい音を出すばかりだった。金一はライフルを捨てると自身のスーツの懐に手を突っ込む、銀二と同じく懐に拳銃を隠しているのだろうが、俺が抜かせる訳がない。俺は執務室に飛び入るように入るとショットガンを向ける。


「銀二のカタキじゃ!」


 金一がそんなことを言いながら拳銃を抜くが遅い、このショットガンには後一発しか弾がないがこの一発で十分だ。引き金を引き発射される散弾、散弾は拡散しながら金一の腹に全て命中した。


「ぐふぅ!」


 散弾を至近距離で喰らい吹っ飛ばされる金一、そのまま後方に吹っ飛びピクリとも動かない。


「終わったか」


 先程まで銃声と男達の怒号に包まれていたプレハブ小屋に沈黙が流れる。人があれ程いたこの小屋に俺だけが残された。


「さて、後は戦利品の回収かな?」


 武器や金、使える物はなんでも欲しい俺はとりあえずボスであり金目の物を持っていそうな金一の死体に近づく。


「ゴフゥゲフゥ……ま、待ってくれ」


「やっぱり生きてたか、足利 金一」


 金一は生きていた。たしかに腹に散弾を喰らっていたようだが散弾が鳥撃ち用の威力の低い物だったが為に腹と口から血を流しながらも辛うじて生きていたのだ。


「そ、そこの…ゴホッ、カバンを見ろゲホッ……」


 金一が指す方に視線を向ければ蓋が空き中身が空っぽの金庫の上に中身が詰まっていると思われるカバンがあった。近づき中を開けると中身は札束の山だった。


「その金を全部やる……だから助けろガハァガハァ」


「ハァ?」


 急な展開に面食らった。さっきまで弟のカタキ討ちに躍起になっていた男が弟のカタキ相手に自分を助けろ?コイツは何を言っている?何かの罠なのか?


「た…足りないのか?ゲホッ!ならその机の引き出しを見ろゲホッゴホッ…ウチで借金してる債務者のリストだ…売れば金になるから頼む…そ、それでも足りねぇのか?ならこの腕時計もやるからさ!た、頼む助けてくれよ!腹が痛くてしょうがねぇんだよ!!」


 金一は自分の着けている高級そうな腕時計を見せつけ惨めな命乞いを始めた。その必死さはどう見ても嘘には見えなかった。


「お前…弟のカタキに命乞いするのか?」


「弟のカタキ?そんなこと知ったことかよ!グホッゲホッ!こ、こちら今死に掛けてんだ!もう死んじまった弟のことなんてどうでもいいわ!グホッ!チクショウ……さっきよりも痛えよぉ…なぁ頼む助けてくれ!助けてくれたらお前を俺の右腕として雇ってやる。へへへ、お前頭良さそうだからあのバカな弟より使えそうだしな。なぁ頼むよ」


「……」


 弟をバカと吐き捨て弟のカタキである俺に惨めに命乞いをする男を見て先の戦闘で高揚した俺の心が一気に冷めた。こんなのが半グレとはいえ一つの集団のボスをしていたとは情けないと思った。こんな状態でも弟のカタキとして俺に反抗的な態度を取るので有れば楽に介錯してやろうと思ったが……やめだ。





 コイツには虫ケラのように死んで貰おう。





次回は後始末回です。お楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。