表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元数学者、異世界を数字で書き換える  作者: godrenkon
第一章 復讐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/44

元数学者、異世界を数学で書き換える 第36話

1期最終話です

元数学者、異世界を数字で書き換える


第36話「静寂の朝」



あの日から、三日間、俺はほとんど眠っていた。


宿の主人が心配して部屋を覗きに来たらしいが、覚えていない。四日目の朝に起きたとき、枕元に水差しとパンが置いてあった。


パンは硬くなっていた。


それを齧りながら、俺は久しぶりに、自分のステータスを開いた。


【ライ・アーデン】

種族:人間

ギルドランク:B

レベル:71

HP:295/295

MP:235/235

筋力:47

敏捷:55

知力:141

──スキル──

演算展開(アルゴリズム):Lv.16


追放された日、この数字は、レベル3、知力24だった。


三ヶ月半で、ここまで来た。


「……速いな」


独りごちる。


前世で四十年やっても、俺は自分の能力がこれほど伸びる経験をしたことがない。


三十を過ぎたあたりから、人は「伸びる」ではなく「深まる」ようになる。それは悪いことではないが、成長曲線としては、明らかに寝る。


だが、この三ヶ月半は、違った。


理由は分かっている。


命が懸かっていたからだ。


人間は、締め切りがあると恐ろしく速く学ぶ。それが最も残酷な締め切りなら、なおさら。


「……ろくでもない話だな」


俺は、パンの最後の一片を飲み込んだ。



◇◇◇



宿を出ると、王都は普段通りだった。


荷車が石畳を軋ませ、パン屋から湯気が立ち、子供が犬を追いかけている。


四人が死んだことなど、この街は知らない。


いや――正確には、知っている。


「白銀の獅子、全員行方不明」の張り紙は、まだギルドの掲示板に残っている。ただ、端が破れて、上から新しい依頼票が三枚も重ねられていた。


三ヶ月半前は、あのパーティーの名前が掲示板の中央にあった。


人が消えることの意味は、掲示板の上では、たったそれだけだ。


「――ライ・アーデン殿」


声をかけられて、俺は振り返った。


ギルドの調査官だった。以前、聞き取りをした男。


「お久しぶりです」


「……また、あなたか」


「捜索は、打ち切りになりました」


男は、前置きなくそう言った。


「四名とも、失踪扱いです。証拠が、何一つ出ませんでした」


「そうか」


「ええ」


調査官は、手帳を開かなかった。ただ、まっすぐ俺を見ていた。


「私は、納得していません」


「……」


「ですが、納得と証拠は別物です。それは、私の仕事の基本ですので」


男は、少しだけ表情を緩めた。


「ライ殿。一つだけ、申し上げてよろしいですか」


「どうぞ」


「あなたのこの三ヶ月半の行動記録は、驚くほど、空白がありません」


俺は、答えなかった。


「冒険者というのは、普通、もっと記録に残らない時間があるものです。あなたは、まるで――記録に残ることを、選んでいるように見える」


「そういう癖なんです」


「ええ、そう伺いました」


調査官は、頷いた。


「癖というのは、抜けないものですね」


その一言を残して、彼は去っていった。


俺は、しばらくその背中を見送っていた。


皮肉な話だった。


俺の武器は、記録だ。数え、書き留め、並べ直す。それで俺はここまで来た。


そして同じ武器が、いつか俺を指し示す可能性がある。


数字は、誰の味方でもない。使う人間が誰であっても、同じように正確に働く。


それは、俺が信じてきた美点であり――今日初めて、そのまま欠点でもあると気づいた。



◇◇◇



その足で、俺は王都の東門を出た。


目的地は決めていなかった。ただ、歩きたかった。


半刻ほど歩いたところで、道端の切り株にレンが座っていた。


「……なんでここにいる」


「宿の主人に聞いた。東に出たって」


レンは立ち上がり、当然のように隣に並んだ。


「どこ行くんだ」


「決めてない」


「じゃあ、俺も決めてない」


「……ついてくるのか」


「弟子だからな」


「まだ、弟子にした覚えはないぞ」


「じゃあ、今、していいぞ」


レンは、あっさりと言った。


俺は、思わず笑った。三ヶ月半ぶりに、腹の底から笑った気がした。


「クゥン!」


草むらから、ゼロが飛び出してきた。いつの間についてきていたのか。


「お前もか」


「三・二キロは、ついてくる権利がある」


「……なんでその数字を知ってる」


「お前が毎月、ノートに書いてるだろ。覗いた」


「覗くな」


そう言いながら、俺は歩調を緩めなかった。


三人と一匹――いや、二人と一匹。数え間違えた。


数え間違えるのは、久しぶりだった。



◇◇◇



街道の先で、俺たちは丘の上に出た。


眼下に、王都が広がっていた。


三ヶ月半前、俺はこの街から追い出された。所持金は銀貨六十枚、行き先はなく、名前には泥が塗られていた。


今、俺の後ろには、一人と一匹がいる。


「……なあ、ライ」


「なんだ」


「これから、何すんの」


その質問に、俺はしばらく答えられなかった。


復讐は、終わった。目標という名の数字は、ゼロになった。


ゼロになった、ということは――何を足してもいい、ということだ。


前世で四十年、俺は数学以外のものを、ほとんど足さずに生きてきた。それを後悔したことはない。だが、後悔しなかったのは、他の選択肢を計算しなかったからだ。


今度は、計算してみてもいい気がした。


「……家を建てる」


俺は言った。


「は?」


「家だ。屋根と壁と、床のあるやつ」


「いや、意味は分かるけどよ。なんで」


「三ヶ月半、宿を転々としていた。落ち着いて計算できる机が欲しい」


「……机のために家を建てるのか、お前」


「机が要るから家を建てるんだ。順番が逆だと、いい机は手に入らない」


レンは、しばらく黙ってから、腹を抱えて笑い出した。


「――なんだそれ!」


「笑うな」


「いや、笑うだろ。四人殺した男の、次の目標が、机だぞ」


「悪いか」


「いや」


レンは、笑いを収めて、目尻を拭った。


「……いや、いいと思う。すげえいい」


朝日が、丘を越えて、王都の屋根を照らし始めていた。


俺は、その光の中に、三ヶ月半前の自分の姿を、一瞬だけ見た気がした。


ノートを抱えて、誰にも読まれない地図を書いていた、十五歳の少年。


あいつは、死ななかった。


「……行くか」


俺は歩き出した。


復讐編は、これで終わりだ。


だが、俺の物語で一番長い章は、たぶん、ここから始まる。



(第1章・復讐編、完)


(第2章・日常編へ続く)


元数学者、異世界を数字で書き換える 1期 復讐編

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!本話をもちまして、本作の第1期 復讐編がひとまず完結となります。

自分で見てて思うんだけどこれのどこがおもろいん(自分で作った料理は美味いのにな)

本当はもっと復讐と残酷さを描きたかったらしいんですけど、まぁ初めての小説にしては良かったんじゃないですかね。

漫画とか描きたいけど棒人間しか描けなくて悲しい。そんな事する暇あるなら数学勉強しろっていうね

えっと、2期の日常編は少し短くて面白いかは分からないので、2話合わせて6時間ごとに投稿しようかなと思うんですよね。

そういえば3期は2つに分岐するとかだった気がするんですけど、せっかくだから同時並行で出しましょうか

1期も6時間ごとに投稿しててね、ちゃんとペース保ったまま1期完結出来たと、これからも頑張って欲しいと思います。

ちなみに僕は一気に全部見たい派です

言いたい事を適当に言うだけの後書きでした。それでは


元数学者、異世界を数字で書き換える 2期【日常編】

2026/08/13(木) 0:00 UTC+0 連載開始(予定)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ