元数学者、異世界を数学で書き換える 第27話
元数学者、異世界を数字で書き換える
第27話「旧鉱山都市」
ボルドとの決着から数日、俺はデルヴィンについて、さらに情報を集めることにした。
「旧鉱山都市デルヴィン、ですか」
王都の商業ギルドで、俺は年配の商人に話を聞いていた。
「懐かしい名前ですな。若い頃、あそこで鉱石の買い付けをしていたことがあります」
「今は、どうなっているんですか」
「もう、二十年近く前に、鉱脈が枯れましてな。表向きは、廃坑として放棄された町、ということになっています」
商人は、声を潜めた。
「ですが……妙な噂も、ないわけじゃありません」
「妙な噂?」
「夜になると、地下から、機械の駆動音のようなものが聞こえる、とかね。近づいた行商人が、二度と戻ってこなかった、なんて話も」
商人は、静かに首を振った。
「私は、もう二度と、あの町には近づきたくありませんな」
その言葉に、俺は静かに礼を言い、商業ギルドを後にした。
◇◇◇
その足で、俺はギルドの依頼掲示板を確認した。
デルヴィン周辺への依頼は、ほとんど見当たらなかった。ごく稀に張り出される依頼も、内容は曖昧で、詳細な情報が伏せられているものばかりだった。
「意図的に、情報を制限してるみたいだな」
俺は静かに考えを巡らせた。
灰色商会という組織が、この国のギルドや商業組合にまで、少なからぬ影響力を及ぼしている――そんな可能性が、次第に濃厚になってきていた。
「一筋縄では、いかなさそうだな」
俺は静かに拳を握りしめた。
セリアから受け取った情報、そして今日集めた噂。少しずつ、灰色商会という組織の輪郭が、不気味な影として、浮かび上がってきていた。
◇◇◇
その夜、俺は宿の部屋で、これまで集めた情報を、改めて整理していた。
【デルヴィン調査記録】
・二十年前に鉱脈枯渇、表向きは廃坑
・地下から機械駆動音の目撃談
・近づいた者が戻らないという噂
・周辺への依頼情報が、意図的に制限されている様子
「……地下施設、か」
俺は静かに頷いた。
ガイウスが語っていた、灰色商会の本拠地。その実態は、単なる組織の拠点ではなく、もっと大規模な、何かの"施設"である可能性が高い。
「機械の駆動音、というのも、気になるな」
この世界の文明レベルを考えると、大規模な機械施設というのは、明らかに異質だった。
「まさか――」
頭の中で、ふと、ある可能性がよぎった。
前世の知識、この世界には不釣り合いな技術。もしかすると、灰色商会は、俺と同じように、何らかの形で、"異質な知識"を得ている存在なのではないか。
「……いや、まだ、憶測の域を出ないな」
俺は、静かにその考えを振り払った。
今の段階で、確証のない推測を重ねても、意味がない。まずは、目の前の課題――ボルドの次、ガイウスとの決着に、集中すべきだった。
「デルヴィンのことは、すべてが終わってから、改めて調べよう」
静かにそう決意すると、俺はノートを閉じた。
窓の外、夜空に浮かぶ星々が、静かに瞬いていた。
(第28話へ続く)




