第一章「少年は、涙の下で。少女は、志の下で。」6話
赤く、朱く、紅く。
天は、茜色に染まる。
その輝きは、緋く、赫く、残光を断つ。
獣は血に飢え、更なる犠牲者を求め、地を駆ける。
いつまでも、どこまでも、その足取りは止まらない。
空から差す月光が指し示すのは、紅い瞳。
その奥で揺れ動く光は、次なる獲物の姿を捉えていた。
そこにあるのが、永遠の虚無だとは知らずに。
ただ、自身が絶対だと、頑なに信じて。
「おっ、凪、おはようさん」
「ああ、おはよう、梶木」
もう夏だというのに、朝の空気はまだ冷え切っている。
街路樹こそ生い茂っているが、そこに季節の風物詩は聞こえなかった。
「おはようございます、柊さん」
「⋯⋯おはよう、朝奈さん」
「もう!夕菜でいいですよ!あ、私も、凪さんって呼びますね?」
相変わらず、距離の詰め方が尋常じゃないことで。
「朝奈さんは、どちらの中学に?」
「北嶺音附属第一中学校っていうところです!なんなら、今から案内しましょうか!?」
「夕菜、そこまでにしとけ」
「にゃっ!?」
いつか見たように、首根っこを掴まれ、そのまま彼女は梶木に引っ張られていく。
「凪、また学校で、な?ほら、夕菜!自分で歩け」
「首締まってるから!?歩けないから!離して!」
「離したら逃げるだろうが」
あの2人は、苗字こそ違えど、兄妹のように和気藹々と過ごしている。
彼らにとっては、幸せだったかも知れない。
でも、もし分岐点で、違う道を辿っていたとしたら?
今の彼らは、幸せだったのだろうか?
「というわけで、凪、諦めろ」
「嫌だ」
即答だった。
自分でも思うが、頭は働いていない。反射だった。
「〈空紅〉、今回の任務は、危険が多すぎる。よって――」
「任務内容には、俺1人の名前しかなかった」
「だが、人数の指定もなかった。違うか?」
「⋯⋯⋯」
図星である。
「お前の腕は認めている。そして、信頼もしているさ」
だがな、と八剣は続ける。
「お前だって、まだ未成年だ。何処かで過ちを犯すこともある。その時に――」
「それを信用していないっていうんだろ?」
確かに、今回の任務は、2つの対象を監視し続けなければならない。それ故に、余裕も、時間も、常に持つことは不可能だ。
だが、だからこそ、俺1人のほうが都合がいい。
「俺だって、もう1人前だ。誰が何と言おうと――」
「―――尾里隊長が言っても、か?」
「っ!?」
「私は、キミの意見を尊重する」
「何があっても、キミは1人じゃない」
「それだけは、覚えておいてくれ」
「あの人より弱い俺のことなんか、尊敬していないかも知れない」
どこか悲しげな表情で、〈熾燕〉は乾いた笑みを浮かべる。
「それでも、これだけは覚えておいてほしい」
「キミは、キミの道を征け」「お前は、お前の道を往け」
「っ!?」
まだ、覚えている。
あの時の、光景を。
憶えているからこそ、拒んでしまう。
「明日、日が沈むと同時に、人を送る」
「⋯⋯⋯」
「精々、仲良くするんだな」
今はまだ、知らない。
彼女が、世界の中心へと辿り着く、最初で最後の鍵なのだと。




