第一章「少年は、涙の下で。少女は、志の下で。」5話
「―――私は最強だから、か」
帰り道。先程の言葉を思い出す。
「何だ、急にどうした?」
その横で、梶木が不思議そうに首を傾げる。
前から照る夕日に輝いた黒髪が、風に揺れた。
「⋯⋯いや、さっきの――」
「――絢愛先輩のことか?」
「⋯⋯ああ」
武術の腕前は、確かに一流だ。
ならば何故、異能者の能力が使えないのか。
「あの人、かっけえよな。潔いっていうか、恐れ知らずっていうか」
「⋯⋯そうか?」
「あくまで、俺は、だな」
そう言って、どこか遠くを見つめだす梶木。
「凪⋯⋯お前は――」
「あ、いたいた!おーい!」
「げっ、夕菜!?」
「もう!探したよ、マサくん!」
正面から駆け寄ってきたのは、北嶺音学園の学生服ではなく、セーラー服を着た少女だった。
「お前なぁ⋯⋯」
「もう、マサくんが遅いからだよ!お義母さん、待ってるんだよ?」
兄弟だろうか?それにしては、あまり似てないように見える。
「あれ?貴方⋯⋯マサくんの知り合いですか?」
「⋯⋯いや、赤の他人だ」
「嘘つけ!」
無視してやり過ごそうとしたら、怒られた。
「夕菜、紹介する。俺の大親友の、柊凪だ!」
「ご紹介預かりました、梶木誠黒さんの知り合いの、柊凪です。それでは、これで」
「待ってよ!」
そのまま立ち去ろうとしたら、今度は少女に襟を掴まれてしまった。
「マサくんの友達なら、そんな遠慮しなくていいよ!私、朝奈夕菜って言います!柊さん、よろしくお願いします!」
そのまま、手を差し出された。
「⋯⋯⋯?」
「握手、してください!」
何故、握手をするのだろうか?
そんな事を考えていると、更にぐいっと距離を詰められた。
「凪さん――」
「夕菜、それぐらいにしておけ。すまんな、凪。迷惑かけた。夕菜!さっさと帰るぞ!」
「えー!?私、もっと柊さんとお話し――」
「いいから!じゃ、また明日な、凪!」
「あー!?柊さん、また会いましょう!あ、ちょっと、マサくん!?息、苦しい!首締まってる」
朝奈と名乗った少女の襟を掴み、引きずるように退場していく梶木の背を、ただ呆然と見つめる。
「⋯⋯俺も、帰るか」
彼らの背中を一瞥すると、踵を返し、自らの影へと歩みを進める。
彼らも、見つめる先は同じ。
なら、手を取り合うことぐらい、可能ではないだろうか?
失敗は、人の記憶に爪痕を刻む。その爪痕が深ければ深いほど、その人にとって、その失敗は苦いものであり、もう二度と間違いたくないものとなるだろう。
この時は、知る由もない。
あの日の過ちを、繰り返そうとしていることに。
でも、知らないからこそ、人は歩みを、進む先を、恐れずに入れるのではないだろうか?
この結末は、あまりにも残酷で、繰り返して良いものではない。
だから、俺が、導くことになるのだ。




