第一章「少年は、涙の下で。少女は、志の下で。」4話
強い。
それが、彼女を初めて見た時の感想だった。
そして、それを証明するかのような、その光景に釘付けになる。
「弱いのに、手を出すからそうなる」
彼女――鬼灯絢愛に絡んでいた数人の男は、一瞬にして返り討ちにあっていた。
「次は容赦しない」
受け流して、そのまま力を付与して投げる。
組討格闘術にしては、あまりにも単純で、受け身に回る技。
その初歩の投げ技でさえも、彼女がこの場の雰囲気を支配するには十分なものだった。
「くそっ!?異能者がこんなことして、赦されるとでも――」
「先に手を出したのは貴方。これは、正当防衛」
再び、静まり返る男たち。この正論に、何も言い返せなくなったのだ。
だが、悪魔は突如として降臨した。
「お前ら、何の騒ぎだ?――なるほどな、絢愛」
「⋯⋯何?私は、正当防衛をしただけ――」
「確かに、そうかも知れないな。だが、お前は異能者だ。力を使えば、どうなるか分かってるはずだ。異端者のお前は、その境界線に侵入した」
異能者。
数十年前、突如として誕生した、人間の亜種。
普通の人間と、大した差はない。
1つあるとすれば、“ノヴァ”を扱うことが出来る、ということだけだ。
人によって、その能力は異なる。
ある人は、炎を操り、ある人は風を起こす。
ある人が雨を降らせれば、ある人は空を翔ける。
そして、共通するのは、“ノヴァ”を纏うことが出来る。所謂、身体強化が出来るのだ。
「お前達異端者は、善良な一般市民を虐げるべく、その力を振るった。この事実だけが、歴史に刻まれるんだ。分かるか、異端者」
「⋯⋯違う」
「はっ、違わねえんだよ!お前達が、人間じゃない限り、異端者なんだよ!」
これが、この世界の真理。
一般市民には出来ない、“ノヴァ”を操ることができる異能者。
その力は計り知れず、力を持たぬ者が恐怖するのも無理はない。
そんな中、異能者1人が、その能力で犯罪を起こしてしまったら?
能力には個人差があるが、そんなことは重要ではない。異能者という集団が、異端者として吊し上げられる理由としては、十分なものだった。
「⋯⋯私は、人間」
「なら、いつから人間は、破壊をもたらす力を持つようになったんだ?」
「私達に、そんな力は――」
「あるだろ?」
それ故に、異能者を批判する勢力は、少しずつ拡大するようになっていた。
「俺達にはない力が、お前達にはあるだろ?使う使わないとかいう話じゃねえんだよ!」
「前提が違う。私に、そんな力はない」
「はっ、どうだか?異端者は、悪魔と同じだからな、何を隠してるか分からん」
「⋯⋯⋯」
「おっ、図星か?」
「⋯⋯⋯」
「どうした、だんまりか?」
「――弱い犬は、吠えない方が良い」
鬼灯絢愛。
武術の名家、鬼灯の家の名の通り、鬼灯道場の一人娘で、近接戦闘での実力は非常に高い。
後天的な異能者にして、能力は不明。“ノヴァ”の放出量は薄いが、常時能力が展開され続けている可能性が高い。
結われた長い黒髪と、氷のように冷たい、怠惰にも見える無表情、そして、彼女の素性と能力からついた二つ名は、〈邪寂〉。
正義を行使するのではなく、正義を虐げるための、夜叉。
どこまでも残忍で、その余韻すらも恐ろしいという意味を込められた、忌み名。
「おっと、怖い怖い。〈邪寂〉様はやっぱ、恐ろしいねぇ?」
「〈暴君〉、黙ってて。白々しい」
「反撃のつもりか?生憎、俺は結構気に入ってるんだぜ?」
そんなことよりと、今度はいつの間にか周囲を囲んでいたギャラリーに対して、言葉を続ける。
「お前らはどうだぁ?こんな危険で何するか分からない人間を、放置しておいて良いのかっ!?」
「いや、排除すべきだ!」
群衆に潜んでいたであろう、〈暴君〉の仕込みの1人が、声を上げる。
「アイツラは危険だ!」「人間じゃない!」「卑怯者!」「奴らを赦すな!」「悪魔の子を排除しろ!」「少し強いからって、図に乗りやがって!」「チート野郎!」「異端者!」
いくつかの仕込みが続いた後、堰を切ったかのように、ギャラリーから罵倒が爆発する。
「お前みたいな異端者、居ても誰も幸せにならないんだよ。この世界から消えてくれないか、なあ?」
「⋯⋯⋯」
周囲からの嘲笑う声、どこか見世物を見るかのように観衆が見守る、残酷で冷たい空気。
その中心で俯いていた人物は、突如として、その仮面に微笑を浮かべた。
「貴方達がいくら言っても、私を虐げることは不可能。だって――」




