第三章「まどろみは解けて、また交わって」3話
「⋯⋯眩しい」
「そうですか?暗くてジメジメしてる気がしますが⋯⋯先輩って、猫みたいですよね」
「そうじゃなくて⋯⋯後、私のことは絢愛でいい。対して尊敬してないのに、敬語で話されるとイライラする」
「そうで、いや、そうか。なら、絢愛先輩。ここはどちらで?」
俺達が辿り着いた先は、街の一角などではなく、薄暗い地下の遺跡のような場所だった。
壁に埋め込まれた発光石が、黄色の紋様を描いて一定の頻度で揺らめく。
足元にサークルがあることから、ここが最奥であることは間違いないだろう。
「ラーミリア」
「⋯⋯⋯え?」
「ここは多分、ポータルの経由地点だから⋯⋯もう少し歩く、かも」
「⋯⋯⋯確かに、出口はなさそうですね」
音の反響から、ポータルとポータルを繋ぐ狭間って認識で間違っていないんだろう。
だが、“ノヴァ”を探ろうとしても、発光石に阻まれ、それより先のことは分からなかった。
「先輩って、ラーミリアに何か縁があるですか?」
「⋯⋯あると言えばある」
「それはどんな――と聞くのは愚問ですよね」
「⋯⋯⋯分かってるなら、話が早い」
「なら、今から向かう場所は、それに関連する場所ということで間違いないですか?」
絢愛先輩ほどの異能者だ。さぞ、大物が絡んでいるに違いない。
ただ、日高雫のことが気がかりだ。
理事長に託したとは言え、護衛を外れていることには変わりない。美夢や皐月はいるが、強敵相手が来た場合に、何もアクションを起こせないのは結構来るものがある。戦って勝てないとしても、戦うことができないのとでは、話が違ってくるから。
「⋯⋯そろそろ着く」
「え?意外と早いんですね」
「ここは⋯⋯次元の狭間だから」
「それはどういう?」
曰く、ここは世界から独立しているから、元の世界との時間の進み方が違うらしい。
ポータルがどのようなものか原理が分からないので、詳しいことが分からないのだが、恐らく逸脱するというのは間違っていない。
「柊凪、武具は持ってる?」
「⋯⋯いえ、今は」
「なら、頑張ってもらうしか無い」
足元が突如として光り始める。
いや、反応していなかった発光石に、“ノヴァ”が込められたのだろう。
その描かれた紋様を目に収め、構造を読み解こうとする。
だが、その前に視界全体が光によって覆われた。
「雫くん、入るよ」
「り、理事長?どうぞ」
突然、部屋にノックが鳴り響く。
不意を突かれたように私はソファから勢い良く立ち上がった。
「もう2日も経ったが、気分はどうだい?」
「おかげさまで、だいぶ落ち着いてきました」
「そうか、なら良かった」
「⋯⋯?」
「今、幸三さんに話してきてね。君に相談があるんだ」
「相談、ですか⋯⋯?」
珍しくどこかそわそわした様子で告げる理事長。
怪しいと言えば怪しいが、お祖父様が許可を出したのであれば、別に断る必要もないということだろう。
「来週、ラーミリアへ用事があってね。君も同行してくれないだろうか?」
「え、私が、ですか⋯⋯?」
突然のことに、私の頭は真っ白になった。
「君は、我が国が誇る財閥令嬢。そして、どうにもラーミリアには、私の研究を避難する輩が多くてね。ならいっそ、国を上げて後押ししてもらおうというわけさ」
要するに、日高の名前を借りて、研究の助力を仰ぎに行きたいのだろう。
確かに、理事長が行っている研究は、私達にとっても有益なことだ。
利用されるという形になっているのは少し納得行かないが、お祖父様が許可を出しているのであれば、私が断る理由もない。
何より、こんな私でも、誰かの役に立ちたかったというのが大きいだろう。
「了解、しました」
「すまないね、このような形を取ってしまって。本来ならもっと前から話をつけているのだが、今回に限っては、急な話だったものでね。納得いってもらえたようで何よりだ」
「いえいえ、そんな。命を救ってくださった方の頼みを、無碍に断れませんし⋯⋯」
「ははっは、やはり君は、優柔不断だね。それが君の魅力であり、短所でもあるのだが」
「魅力、ですか⋯⋯?」
「いや、気にするな」
先程とは打って変わり、完全にリラックスした様子の理事長は、ドアノブに手をかける。
「君の他にも同行者はいるが、彼女は出発する時に紹介しよう」
そして、どこか懐かしそうに、彼女は呟いた。




