第三章「まどろみは解けて、また交わって」1話
「ようこそ、我が宮殿へ」
「まあ、今はもう廃墟も同然だけどねー」
「とはいえ、私達の住処には違いないでしょう?」
この世界には、元の世界の面影は少なくなりつつある。
気味が悪い館に住まうこいつらは、世界に反する存在と言っていいだろう。
「ねぇねぇ、何か言ったら――」
「黙ってろ」
「おー、怖い怖い」
何せ、1つの胴体に、3つの頭があるのだから。
正確には、1つの首からではなく、3つの首があると言った感じか。
「で、統括者殿は、何のご要件で?」
「その階級で呼ぶな、汚らわしい」
そして、昔の知り合いだったりする。
この首のうちの1人(1人と言って正しいのかは分からないが)、鬼を象った兜を被った武者。
「これはすみません、支配者殿。」
「⋯⋯⋯さっさと案内しろ、ノロマ」
「何をお探しなのですか?支配者様」
他の二人は知り合いではないが、元の素性は知っている。
ベールを纏った礼儀正しい方は、一国の姫。
で、あっちの仮面をつけたクソガキは、力なき時代の天才。
本当に、変な集団だと思う。
「最深部に封された、賢者の遺体だ」
「⋯⋯⋯どういう用件で?あの封印は――」
「今の俺なら、封印を解ける」
「「「ッ!?」」」
その瞬間、辺りに流れていた音色が、プツリと途絶えた。
「何だ、不満か?」
「い、いえ、滅相も――」
「ああ、不満だね」
その沈黙の名前は、嫌疑と懸念、そして憎悪。
だからこそ、奴は隠さない。
「自分で封印しといて、何が――」
「今の俺は、馬鹿じゃない。奴を殺す力も手に入れた。何も、心配いらない」
「というお誘いを頂きまして⋯⋯」
「なるほど⋯⋯それは面倒なことになりましたね」
時は少し遡り、北嶺音を襲った“ノヴァ”災害の終日の夜に戻る。
先程秋宮様から頂いたラーミリア共和国へのお誘いをどうするべきか、当主様に判断を委ねたのだ。
ちなみに、遭ったのは偶然であり、相談することを思いついたのも咄嗟の判断だった。
「貴方には、対象の護衛を代わりにお願いしたかったのですが」
「対象?凪様のことですか?凪様は、今どこに――!」
「いえ、彼の消息は、〈SDK〉で掴めていません。恐らく、この街にはもういないかと」
「え⋯⋯⋯」
「何も、死んだという話ではありません。足取りを終えていないだけで、生存は確認されていますから」
その言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。
「貴方に頼みたかったのは、日高雫の護衛です。今は彼女の祖父の元へ避難していますが、不測の事態に陥った時のため、凪の代わりに、と」
「では、やはり、遠征の件は――」
「ですが、秋宮冥の研究が、私達異能者に利益を出すのも事実。貴方にはぜひ、向かって欲しいというのも本音ではあります。ただ⋯⋯」
「⋯⋯⋯ただ?」
突然歯切れが悪くなった当主様に、周囲に人が来たのかもしれないと“ノヴァ”を張り巡らせてみるが、その心配は無用だった。
「人避けの結界を鈴川香菜に張らせています。その点は心配なく。貴方が護衛から外れるとなると、戦力的な意味で、少しきついんです。第九番隊の中でも、異能の出力を高く出来る貴方は、適応力が非常に高くて便――頼りになるので」
今、何か聞こえた気がするが、詳しく分からないので深追いはしないほうが良いのかもしれない。
当主様の噂は、前々から聞かされてきたので。
「お褒めに預かり、光栄です」
「貴方は“ノヴァ”に、どこまでの知識が?」
「⋯⋯体積がない粒子、ということまでは」
“ノヴァ”。
突如として出現した、未知なる物質。
生命、物質、原理の全てを変える、異能の粒子。
そして、それが、私達の運命を歪めた、ということしか。
「やはり、皐月達は同行させたいですね⋯⋯」
「っ、皐月様を?」
何気なく上がった名前に、思わずドキリとする。
だが、動揺は上手く隠しきれた⋯⋯はずだ。
「彼は、〈SDK〉の研究の第一人者です。彼がいれば、研究に進展もあるでしょうし」
「ですが⋯⋯」
「ええ、彼が同行するのは、あまりにも不自然。貴方の付き人として同行するのが楽なのですが、それでは尚更、日高雫の護衛が疎かになってしまいます」
「そ、それなら。当主様が護衛を務めるというのは――」
「私も多忙な身なので。今回の事件、その裏を探る必要もありますし」
「そう、ですよね」
やはり、私は同行しない方が良いのだろうか⋯⋯?




