第二章「衝動は、その身を焦がす」37話
「皐月、あそこ!」
「っ!」
探し人は、すぐに見つかった。
見覚えのある“ノヴァ”を感知したのもあるが、大声で叫んでいる人間がいたのが要因だろう。
「どうする?知り合いっていう態で――」
「いえ、正体を隠して接触します。下手に刺激して、攻撃されたら溜まったものじゃないですから」
「それでいいの?」
「⋯⋯ええ、もちろん。美夢さんも、意識がないようなので」
「そ」
皐月がそう判断するのなら、私に異論はない。
ただ、少し寂しそうな目をしているのは、気の所為ではないはずだ。
私達には、失うものが多すぎるから。
「で、どうするの?接触したとしても――」
「身柄を引き取るのが1番ですが⋯⋯」
「無理、だね」
恐らく、彼らは美夢ちゃんの学友。意識がないとはいえ、いや、だからこそというべきか、その身柄を回収しようとすれば、徹底抗戦に転じるのは目に見えている。
私も皐月も、交戦向きの能力ではない。何なら、戦わないことに重きをおいていると言っても過言ではない。
彼らのうち、1人は完全に異能者。もう1人は、“ノヴァ”こそ帯びているが、まだ潜伏状態。
戦闘経験はこちらのほうが豊富であるだろうとはいえ、これを突破して彼女を救出するのは、流石に荷が重かった。
「彼らごと、どこかに避難させましょう。そろそろ敵は鎮圧される頃だと思いますが、軍人が突入してきたら面倒なので」
「⋯⋯まあ、それもそうね」
なら、周囲から探られないほうが良い。
軍部関係者にも、異能者はいる。隠しているか、公表しているかは置いておくが、その索敵が今までに用いられていたケースも少なくない。
この壊滅した街中で“ノヴァ”の気配がすれば、それは狼人だと思うのが普通だ。
遠距離から狙撃される危険性もあるので、それは避けたかった。
「ちょっと待ってね⋯⋯」
足元から“ノヴァ”を放出させ、地面に術式を織り込んでゆく。
この術式は、何者にも感知されることはない、陰の紋様。妖が纏う、人目を忍ぶ術。同じ目を持った者でなければ、その術式に包まれた物は疎か、この術式すらも認識することができないだろう。
「周囲に人影はなし。敵影もね」
「結界は?」
「強烈な揺らぎでもない限り、維持できる」
「じゃあ――」
「人間か?」
声を張り上げて叫ぶ夕菜の正面に突如として現れた、2人組。
もう日は昇っているというのに黒いフードに身を包み、怪しさ満載のオーラを発するその姿。
不審者なのは間違いないが、不思議とこちらに敵意があるように感じられなかった。
「もう一度問う、人間か?」
闇を帯びながら、光を発する。深淵を纏いながら、輝きを放つ。無理やり発したような低い声に、どこか背筋がゾクリとした。
「に、人間だ。お前たちこそ――」
「人間ではない。完全なる創造主に近づくため、進化した人類だ」
「か、完全なる⋯⋯何だ?」
「四の五の言わず、問に答えよ。人間か?」
「だから!」
どうやら、話は通じないらしい。
今は敵意こそないが、選択を間違えれば、俺達は危険に晒される。
そんな予感がして、咄嗟に夕菜の襟を掴み、こちらへ引っ張った。
「どうした」
「⋯⋯俺達に、何のようだ?」
先程から、周囲の“ノヴァ”が見えない。
そこにあるのは分かるのに、見えない。感じられない。
「お前たちが人間であるというなら、保護する。人間だと嘘を言うなら――」
途切れた言葉の先を予想して、思わず喉がゴクリと鳴った。
「私達は!人間、です!見たら、分かるでしょっ!」
「ちょ、お前――」
「マサくん!」
黙っていろと言わんばかりに、夕菜が俺を手で制する。
いつも猪突猛進に突っ込むのが夕菜の悪いところだが、こういう危なっかしい場面でも、力ではなく、正面から言葉によって堂々と勝負するところは、俺から見てもかっこいいと感じてしまう。
最も、保護者として危険が迫れば、守ってやらなければならないのだが。
「なら、別にいい。俺達に、お前らを襲う意志はない」
言うが早いか、気配が一転した。
張り詰めた緊張が解けたと言うか、主に夕菜の表情が明るくなったのが理由だろう。
「というわけで、しばらくの間、よろしく頼む」




