第二章「衝動は、その身を焦がす」36話
「⋯⋯私を、ご存知でしょうか?」
その手紙は、そうやって始められていた。
「私は、どうしても成し遂げたいことがありました」
インクが滲み、文字を綴る手が一瞬鈍る。
「どうやっても、私達には壊せない壁があって。でも、逃れることは赦されなくて――」
書き殴った文字の下に、血が滲む。
それは、私のものであって、私のものではない。
「だからこそ、貴方に託したい」
私に出来なかったことを、彼女が成し遂げられるとは限らない。
でも、もうそれ以外に、方法がなかった。
せめて、■■ちゃんだけの負担にはしたくない。彼女だけが、背負って良い贖罪ではない。
この罪を償うことが出来るなら、どんな罰でも受け入れよう。
それが生き地獄だとしても、彼と一緒なら、きっと―――
「■■■ちゃん!ここにいいた――」
「⋯⋯⋯⋯もう、時間みたい」
「⋯⋯誰と話してるんだ、■■」
きっと、私達には分からない。
この物語の結末は、誰も知ることが出来ない。
今はまだ、この世界では――
「軛が、そろそろ外れるかもしれない。さっさと始めるぞ」
「ええ、了解。■■■■」
「む、無理はしないで下さい!■■■ちゃんの体調が崩れれば――」
「大丈夫。ありがとう、■■ちゃん」
「で、でも」
「それより、問題なのは■■■■の方ですよ?」
「いや、俺は別に――」
「能力の発動限界、とっくに超えてますよね?」
「⋯⋯⋯さあ、どうだかな」
「⋯⋯私、決めた」
「⋯⋯⋯?」
「フリューゲル、手、出して?」
「ちょ、何を――」
「バァーッン!」
「うわっ!?」
これが、私の日常。
弟をからかって、そして叱られて。
毎日が幸せだとは思わない。
でも、この道に辿り着いてよかったとは思ってる。
もちろん、アイツを許すことなんて出来ないが、それでも、憎しみ以上の感情はない。
見つければ殺すが、命の天秤にかけられれば、私は間違いなく奴を殺さない。それぐらいの価値だ。
「そういえば、彼女の件、何か聞いた?」
「彼女⋯⋯?」
「〈水馬〉」
「水、馬⋯⋯ですか」
「あ、イルカとかじゃないよ?」
「それは海豚――」
「この反応、本当に知らない感じだね⋯⋯」
「え?」
道を妨げる。
それだけで、私の敵に成り得るのに。
私しか覚えてない。
でも、私は――
誓われた道へと向かう。
その先に、かつての未来があると信じて。
「おい」
「⋯⋯?」
「涼介、お前な⋯⋯」
「別に、やりすぎではないと思いますが?」
「いいや、やりすぎだ」
「ですが――」
「お前は、あの人を知らないから出来るんだ。今の俺でも、流石に出来んぞ?」
「貴方が⋯⋯ですか?」
「ちなみに、セロも同じ意見だと思う」
「セロ様も!?」
「そんなに驚くことでもないだろう。⋯⋯とにかく、あのバカ野郎の回収に行ってこい。どうせ、お前の尻拭いしてやってるんだろうからな」
「し、尻拭いって――」
「ほら、さっさと行ってこい。アイツが自責の念で潰れてしまう前に、な」




