第二章「衝動は、その身を焦がす」32話
「夜明け、ですか」
光が昇っていく荒廃した土地で、ある者はつぶやく。
その言葉は風となり、砂塵を舞い上げ、空へと羽ばたっていく。
「美夢ちゃん!大丈夫!?」
「ええ、問題ありません」
籠城していたはずの倉庫は大破し、所々が衝撃によって砕かれているのも見間違いではないだろう。
でも、守り切ることが出来た。
それもこれも、あの人のお陰だろう。
この銃剣がなければ、私はここで死んでいた。いや、私達全員が、だ。
「さっきすごい衝撃がしたけど⋯⋯」
「衝撃?」
何のことだろうか?
地震というわけでもあるまいし、第一そのような揺れに見に覚えはない。
「え?さっき、ドッカーン!って」
「⋯⋯何のことですか?」
「えぇっ!?」
私の、友達。
私が異能者であることを知っている人。
そして、彼女のお兄さんも。
「夕菜、大丈夫か?なんか、大きな声が聞こえてきたが⋯⋯」
彼女の義兄、梶木誠黒さん。
私が外に出るのを引き止めてくれた、そして、危ない時に助けてくれた優しい人。
でも、この人は優しすぎる。
いざという時に、私の近くにいれば巻き込んでしまう。
彼らのような優しい人は、死んではいけない。良いはずがない。
だから、ここは、私の本当の居場所ではないのだろう。
「ええ、梶木さん。大丈夫ですよ」
私は彼らの友人だ。
それで、守りたくて――。
でも、近くにいたら傷つけてしまうかもしれなくて。
「美夢ちゃんッ!?」
そんな葛藤を胸に、私の意識は暗転した。
「姉さん、結界の状況は?」
「破られてる気配はないので、まだ大丈夫そうです」
「了解」
ワラワラと行く手を阻む有象無象を睨みつけながら、僕は唸った。
どうにかして、この状況を打開しなくては。
先程、当主様から連絡があった。
美夢さんの消息が絶たれたので、探してほしい、と。
そして、破損したはずの凪さんのスマホから、一通のメールが送られてきたのだ。
「なら、期待に答えるしか、ないです、よねっ!」
近接戦闘は嫌いだ。
どうしても手足が思うように動かなくなる。
ならば、遠距離から確殺するのが正解ではないのだろうか?
装着したガジェットを同時に展開し、トリガーを引き絞る。
照準は敵の足元。敵に打てば避けられる可能性はあるが、地面に当てれば逃げられない。
そういう意味も込められて開発されたのが、このガジェットだ。
元々は壁などを破壊するためのものなのだが、その破壊力故、集団を殲滅するのには高い力を発揮する。
機械を戦闘には使いたくないが、緊急事態なのだ。ここは美夢さんを優先する。
「皐月、そこの路地なら近道になるかも」
「敵は?」
「地上より屋上の方に密集してる」
「なら⋯⋯姉さん、掴まって!」
足のデバイスを起動させ、右手に携えた小型殲滅式噴進砲を構える。
後ろから肩に手が回ったのを確認して、僕は思いきり跳躍した。
異能者には、5つの力が備わっているとされている。
操作、探知、変換、発生、加護。身体強化や“ノヴァ”への感知、“ノヴァ”による能力の全てが、これらが合わさったものであると仮定されており、能力が発現しにくい、もしくは微弱である異能者は、それらの力が著しく低いからだと考えている。
そして、凪先輩のような異能者は、それらが1つしか備えられておらず、能力の幅が異常に小さく、一点特化という点では優れているみたいだ。
データ自体は少ないけど、希少というわけではない。
ただ、異能者としてのちからが微弱なので、気付いていないだけなのだろう。
このデバイスは、その力を応用したものだ。
操作の能力を極限まで使いやすくし、“ノヴァ”が扱える異能者であれば、誰でも使えるような簡単で、安全の高い機械。
そして、殺傷能力という一点は絶対に解除されている。
まあ、まだ試験段階なのだが。
今回のデバイスに内蔵されているのは、跳躍。
宙を駆け上がり、あっという間に屋上の上まで辿り着くことに成功した。
「皐月!」
「分かってる!」
右手を前にかざし、狙いをつけ、“ノヴァ”を込める。
デバイスの装甲がパージされ、無数の小型ロケット弾が姿を表し、全てが同時に放たれた。
上空に放たれた尾を引く爆薬。
だけど、その着弾を見届ける前に、僕たちはその場を後にした。




