第二章「衝動は、その身を焦がす」29話
「⋯⋯出てこないでって、言ってる」
私は、未だに痛む左腕を擦りながら、そうぼやいた。
目が、痛い。
身体が、重い。
一刻も早く、休みたい。
長時間の戦闘を経て辿り着いたこの場所だったが、ヴァイパーの言う通り、途中で帰ればよかったと後悔している。
「⋯⋯やっぱり、クールダウンの時間が必要だった」
突然現れた男のせいで無駄打ちをする羽目となったが、その男を退場させることには成功した。
もう、光学粒子砲拒める人間はいない。
それに、近距離でも使えるように改造されているらしい。なら、問題ないと思う。
再びあの男たちが現れなければ、仕事は完了できる。
「俺の可愛い部下をやってくれるとは、覚悟、出来てんだろうな?」
「っ!」
背後を取られている。
とはいっても、間合いの外。警戒するにはまだ早い。
「おい、何か言ったらどうだ?暇つぶしぐらいにはなるぞ、多分」
「⋯⋯何の用?」
「さっき言っただろ⋯⋯仇討ちだってな」
言葉とともに現れたのは、2本の剣を腰元に携えた男。
若い風貌だが、その目は幾度となく死線を潜り抜けてきたことを感じさせる。
確かに、さっきの奴よりは強そうだけど、ワタシの相手じゃ――
「おせぇ!」
「ッ!?」
気がつけば、目の前に飛び込んできている。
慌てて霊装を展開するが、防ぐことはできないだろう。
私ならば。
「あァ!まだァ!足りなァイ!」
「っ!?なんちゅう腕力してんだ――」
先程とは気配が打って変わって、より禍々しく、狂気に満ちた空気が広がる。
「もっとォ!もっとォ!まだァ!喰イタリナァァイ!」
至近距離で攻撃を弾き返され、一瞬宙に浮くが、何とか体勢を立て直すことに成功したが、それでも困惑を隠すことは出来なかった。
「あァ!喰ライタイ!喰ライ足リナァイ!もぉっとォ!」
先程から似たような言葉を繰り返している敵は、まるで人格が変わったかのように動きが変わっている。
直線的ではあるものの、ステップによって軌道が読みづらい。だが、目標は俺だ。それが分かっていれば、防御は間に合う。
相手の手には、炎の紋様が刻まれた一振りの大剣。相当な業物には違いない。それでも、防ぐことは出来るはずだ。しかも、相手は粒子砲を左手に下げている。相当戦いづらいに違いない。
「少しは――」
「キてぇ!ワタシのチカラァ!」
「っ!?」
突如として空中に閃光が奔る。
咄嗟に、体勢を沈め、右手に握る剣で空を斬り払う。
防ぐことは出来た。
想定外だったのは、その攻撃が実体を持っていたことと、その威力が思ったより高かったことだ。
「もっとォ!」
「クソがっ」
追撃は防げない。なら、避けるしかない。
横に身体を投げ、相手の攻撃を観察する。
降っていたのは、相手の手元にあるものと同じ大剣。サイズも形も全く同じもの。
それが3つ、空中を漂って、俺の心臓を穿たんと飛来してくる。
全てを防ぐのは、俺の手では無理だ。ジリ貧になれば、どこかで間違える。
ならばと、俺は前に繰り出した。
「仕返しだ、バカ野郎」
膝をついた状態では、目の前に迫る攻撃を避けることも防ぐことも出来ない。
だが、先程までの俺なら、だ。
俺の背後から飛来した剣が、迫りくる脅威を相殺する。
「⋯⋯結構ムズいな、これ」
使用する能力の難易度に唸りつつ、冷静に相手の攻撃を弾き返し、相手を攻撃する。
「ワタシのチカラ⋯⋯もっとォ!」
飛んでくる剣が早くなる。
だが、量は変わらない。
〈魄雷〉様の能力――冰嵐よりも、威力は高いかもしれないが、量で劣るのであれば相殺することは可能だろう。
まあ、俺の力では、高火力の攻撃だろうと無力だが。
「壁とキャッチボールして、何が楽しいんだ?」
「喰ラウ!喰らう喰ラう喰らウ喰ラウ喰ラウ喰ラウ喰ラウ!」
更に攻撃が苛烈になるが、それすらも意味をなさない。むしろ、俺としては好都合だ。
「まだァ!アナタのぉ――」
「遅ぇ!」
懐に潜り込み、至近距離で連撃を叩き込む。
標的を、俺から俺が操る剣に移していた相手は、その反応に遅れた。
どうやっても、避けられる距離ではない。
今度こそ、取った。
「――――ア」




