第二章「衝動は、その身を焦がす」28話
「バースト」
その呟きが、何の合図だったかなんて関係ない。
“ノヴァ”が収束したその瞬間に、俺は弾かれるように左へと転がり、地に伏せる。そうするのが、正しいと思ったからだ。
爆発的に放たれた“ノヴァ”とともに、光の濁流が俺の網膜を焼き焦がす。
それが、どれほどの時間続いたのかは分からない。気づけば、音もなく全てを消し去っていくその奔流は消えていった。
恐ろしいほどの威力を持ち合わせた、光学武装。いや、最早兵器か。
俺が先程まで立っていた背後の壁には大きな穴が空き、そこから遥か後方の空を視認することが出来る。それほど、長距離まで届く攻撃。
この威力は、防ぎようがないであろう。今の技術で作られたもの程度では、どんなものにも風穴を開けることが出来てしまう。
まさしく、破壊のためだけに生み出された光学砲。
周囲の“ノヴァ”の気配が揺らぎ、もう一度空を穿たんと光学砲へと収束する。
その一撃を防ぐ術を、俺は知らない。
避ければ、更に被害が出るだろう。
どうにかして、再装填している間に仕留めなければ。
でも、何故だろうか?足が、動かない。
一歩踏み出そうとするのに、足が上がらない。
「恐怖を覚えてしまったのであれば、もうそこまで。臆病者に負けるほど、私は弱くない」
「臆病者」
幻聴が、聞こえた気がした。
いつの記憶だろうか?あの時も、俺は――
気づけば、俺は敵の正面に突っ込んでいた。
拳を振りかざし、相手の顔を殴り飛ばさんと勢いのままに飛ぶ。
「⋯⋯感情的」
空中でクロスした2本の剣に行く手を阻まれ、進撃が止まる。
拳が大剣の平に命中し、後方へと弾き飛ばされるが、その途中で何とか体勢を立て直すことに成功した。
「⋯⋯目障り」
今度は、自分の能力を解放し、高速で相手には波状攻撃を仕掛けてみる。
相手の4本の剣によってその全てが防がれるが、俺の狙いはそこではなかった。
恐らく、この剣は“ノヴァ”によって操られているだけ。そして、同時に2本以上を操ることは出来ないはずだ。使う感覚としては、双剣に近いのだろう。
なら、どうにかして裏を掻くしかない。
それならばと、歩調を戻し、相手の懐へと飛び込んだ。
当然のように進路を阻まれ、また間合いを開かれる結果になるが、既に、目的は果たした。
「こっち向いてて、大丈夫か?」
「⋯⋯⋯⋯あ」
相手は俺の方を向いている。俺の後ろにあるのは、川。
少しずつ橋の中腹辺りへと誘導し、陸地から足を離れさせたのだ。
確かに、あの剣を抜けて相手を殴るのは難しいだろう。
だが、どんな橋であろうと、“ノヴァ”が込められているわけではない。橋を殴れば、容易く割れる。
相手の照準は、川へ落ちそうな位置にいる俺だ。俺が川に流されれば、たちまち標的を失ってしまうだろう。
まあ、方向転換は可能なのだろうが、俺が言いたいのはそこじゃない。
川の中で暴発させれば、地上への被害は少ないのではないだろうか?流域面積が広いここなら、真横に撃たない限りビルにぶつかることもないだろう。第一、勢いがある川の中で撃っても、照準が定まるとは思えない。
「砕けろ――」
あらん限りを込めて、拳を下へと振り下ろす。
この間合いでは、重い武装を持つ彼女に――
「甘いッ!甘すぎるッ!!」
「は――」
突然、視界が横に流れた。
そして、一瞬で身体の自由を奪われる。
息ができない環境で藻掻きながら、俺はやっと今起こった現象を理解することが出来た。
殴られた。
それも、能力によって動体視力が上昇していた俺が、見えないほどの速さで。
しかも、武装を置かずに。
息ができない恐怖よりも、相手への恐怖が上回り、呼吸を死に水面に浮かぶことがより一層困難になった。
⋯⋯いや、待て。
なら、浮かばなくて良いのではないか?
潜れば、良いのではないか?
視界が黒く染まっていく。
息が苦しい。
もう、無理だろう。
俺は、水の奔流の中へと沈んでいった。




