第二章「衝動は、その身を焦がす」25話
「へぇ?面白そうなもん、隠し持ってるじゃねえか」
「⋯⋯死人と話すつもりはない」
「はっ、たわけ!俺がお前に負けるとでも?」
「⋯⋯もちろん」
相手の背後に展開されているのは、4本の剣。いや、大剣と称した方が良いだろう。
紅く、禍々しい、鬼炎の怨物。
その炎は血肉を裂き、相手に血の花を咲かせることでも悪名高い。
恐らく、本物だ。
「⋯⋯まさか、霊装で現物を使う奴に会えるとは」
「⋯⋯何の話?」
「いや、独り言だ」
“ノヴァ”の気配が、相手から感じられない。
これほど強力な武装を解放しておいて尚、力がまるで感じられないのは、恐れというより気味が悪かった。
「来ないのか?」
「⋯⋯なら」
俺自身も剣を抜き放ち、受け身の形で構える。
どんなに速い敵でも、一撃は受け止めれる構え。
そして、長年の経験で染み付いた、最高速の反撃。
並大抵の雑魚では、この技を打ち破ることは出来なかった。
ただ、その雑魚が、実力者であったなら別だ。
「へぇ?」
実力者といえど、歴戦の猛者ぐらいなら簡単に仕留められる。勘で避けられたりもするが、避けられたとて、次の攻撃を避けることは出来ない。
だが、相手が天才であるなら、話は変わってくる。
一瞬で間合いは詰められ、2本の刃が頭上から降り注ぐのを紙一重で避け、刃を返して反撃する。
相手が速いのであれば、後手に回るのは危険だ。相手のパワーとスピードのほうが高ければ、勝つ手立ては減ってくる。
間合いを稼ぎ、次の行動を思索したところで、その変化は起こった。
爆発的な“ノヴァ”の増加に加え、周囲に立ち込める殺気が実体を持ち、俺へと襲いかかってくる。
それは最早殺気などではなく、獲物を狩るためだけに研がれた刃。
並大抵の精神力では、一瞬で恐怖に埋もれてしまうだろう。
だが、俺は普通じゃない。もう、その領域には至らない。
「だが、所詮は威圧。幻影に過ぎん」
ならばと、俺も“ノヴァ”を解放し、その黒い剣の力を解き放つ。
周囲の“ノヴァ”は一瞬で消え失せ、周囲から飛来する3本の大剣は俺を品定めするように、一定の距離を取って静止した。
「手品ではなく、技を見せろ。そんな刃では、俺は殺せんぞ?」
「ならッ!」
相手の手で握られた一振りの大剣が光を放つ。
“ノヴァ”を込めて、能力を発動させる気だろう。
だが、そんなことはさせない。させたら、ここら辺り一帯が塵と化してしまう可能性もあるからだ。
相手の得物へと遠くから手を伸ばし、そっと手を握り込む。
“ノヴァ”とは従来、魔力と同じような役割をするものだ。
霊装は“ノヴァ”によって顕現しているわけではなく、本来なら実体を有さない。だが、そこにあるプロセスが絡むことによって、実態を有する凶器となるのだ。
それこそが、この世界の“ノヴァ”の本質であり、俺が知っているのとは違う性質。
ならば、本来の方法で解除することは難しいはずだ。
だが、俺ならば、握りつぶせる。
俺の力は、それを司るから。
「終わりだ」
「〈空紅〉は、市民の救助に専念して下さい」
「救助だけでよろしいのですか?殲滅でも――」
「満身創痍の貴方に重荷を背負わせるほど、私達は忙しくないんですよ?〈熾燕〉達には予め、周囲への探索を行ってもらっています」
セロと呼ばれる女性が去った後、俺は別行動を行うように命じられた。
「〈悠幻〉たちの安否も不明です。せめて、生存確認だけでも取れれば良いのですが」
「俺のデバイスはこの前破壊されましたので。〈霊姫〉なら、連絡手段があるかもしれませんが」
〈霊姫〉とは、鈴川香菜のことである。
美夢と仲がいい彼女であれば、何かしらの連絡手段を残している可能性も少なくない。とはいえ、美夢がデバイスを持っていないことも問題ではあるのだが
「では、研究所の方には、私から連絡しておきます。ですので、〈空紅〉は先に救助を。近くを寄るようでしたら、〈悠幻〉達の救助もお願いします」
「⋯⋯いえ、任務ですので」
「ちなみに、北嶺音附属第一中学校は、こっち側です」
そう言いながら東側を指さす当主の姿に、俺は心なしか頬が緩んでいくような気がした。
「では、行ってきます」
「ええ、健闘を祈っています」




