第二章「衝動は、その身を焦がす」23話
「並大抵の軍人では、奴らを食い止めることは出来ないでしょう」
もう、すっかり変わってしまった。
この街で、抗う術はない。
純白の壁は血に飢え、それは破壊を防ぐ術を知らない。砂塵は宙を舞い、荒廃を拒むことは出来ない。
「有効であるとすれば、対異能者の武装でしょう」
だが、そこの住人がいなければ、どんな廃墟でも同じだ。どんな道を進もうとも、生命あるものを探すことは出来ない。
「皮肉なものです。私達に向けられる武装を、私達が扱うのですから」
この風景は、今では珍しくとも何ともない。
焦岩熊のような魔獣が現れれば、街の1つや2つ、滅んでしまうことも多い。
軍隊が駐屯するような大都市なら襲撃を防ぐことも出来るが、大抵の場所にそんな軍隊は存在しない。
「やはり、私達も同じなんでしょうね」
滅ぼすか、滅ぼされるか。
進化に対応できるか、道を違え歩みを止めるか。
「私達も、怪物で間違っていないのかもしれません」
「それは違います」
「⋯⋯根拠はあるんですか?」
異能者。
この環境で生き抜くには持って来いではあるが、戦場からかけ離れた場所では迫害されるだけだ。
守る力はあっても、守る人が拒否すれば、生きる意味を失う。
「だって、生きたいでしょう?」
あの時、そう言われたから。
「生きたいか、少年」
「俺達は、生き抜く。そして、証明して見せる」
「⋯⋯それは、認められたいから、ですか?」
「そう、かもしれません」
ですけど、俺達は戦えます。まだ、生きてる。
罪のない人々が傷つけられるのは赦されない。それは綺麗事だ。
俺達はもう、この世界から離れることは出来ない。
怯えているのかもしれない。憎んでいるのかもしれない。
戦場から離れれば、俺達は何を生きがいに生きていくのだろう。
別に、殺しが楽しいとは思わない。吐き気がするというのもあながち間違いではない。
でも、生きるにはこれしかなかった。
自分たちが生きるには、戦うしかない。
なら、戦うことを知らない人たちには、そのままでいてほしい。
彼らには、幸せがある。居場所がある。
例え、その姿が偽りだったとしても、怯えてばかりでは生きていけない。そう気付くだろう。
「どこまでも、行けますから」
「⋯⋯どういう意味です?」
「さあ。どういう意味だったか、もう覚えてません」
「覚えてないって――」
「来ますよ、〈魄雷〉」
その点、俺は幸福とは無縁の人間で良かったと思っている。
いつかは立ち止まる時が来るだろう。
その時に、俺がどうなっているかは分からない。この世界にいないかもしれないし、もっと違う心境の変化なのかもしれない。
だが、生きる理由を見つけるために、俺は戦う。
戦う術しか知らないから、戦い続ける。
一般人が何百何千と笑う間に、俺達は何百回も嗤う。何千何万回と幸福に浸る間に、何千万回もの絶望を感じ、命を散らす。
「⋯⋯ええ、分かってます」
それでも、自分ではない誰かのために、俺達は戦い続ける。
守りたいものなんてないかもしれない。救いたいものがもう消えてしまったかもしれない。
でも、俺達が止まれば、何も変わらない。
戦える人間は減っていき、奴隷以下の家畜に成り下がる。
それだけは、絶対に御免だ。
「行きます」
「やはり、知能は弱いようですね。囲んだところで、波状攻撃すら仕掛けてこないなんて」
「始祖たる狼人が、こちらに意識を割いていない可能性が高いです。統率が取れているなら、俺達に攻撃を仕掛けないこともあるはずですから」
先程から、妙に周囲が騒がしい。
数は減らしていると思っているが、どうにも気がかりだ。
まるで、街中の狼人が、この一帯に集合しているかのような。
「先程ヘリが飛んでいきましたが、避難が完了していたのですか?」
「⋯⋯分かりません。ですが、俺がいた学校では、逃げ果せた教職員と生徒は一部といった感じでした」
「なら、彼女も大丈夫なのですね?」
「そのヘリが、彼女を乗せているなら、ですが」
聞いた所、街の西側、川を挟んだ場所には既に防衛拠点が置かれているらしく、狼人の襲撃を防ぐことに成功したらしい。とはいえ、こちら側に住宅街が密集していたことから、街としては追い詰められたも当然だろう。
これが誘導作戦だとすれば、襲撃は完璧だ。
「あと、〈悠幻〉の居場所は?」
「⋯⋯まだ、連絡が」
「⋯⋯そうですか。〈熾燕〉にも探索をさせています。彼女ほどの実力者であれば、この状況で押し込まれることはないはずです。それが例え、誰かを守るためであっても、能力を使うことを惜しみはしないでしょう」
確かに、美夢なら極限下での能力使用は戸惑わない可能性が高い。
問題は、アイツだろう。
「⋯⋯やはり、“ノヴァ”に当てられて寄って来ているみたいですね」
「ええ、そんな気がします」
先程より、明らかに数が多い。
道の端まで敵の姿がビッシリと映っているのだ。学園を襲撃してきた数と比べても、大差ないのではないだろうか?
「当主の“ノヴァ”に寄って来たのでは?」
「⋯⋯いえ、私より、もっと大きな力を持っている存在が、この場所にいます」
その時、辺りを照らしていた光が途切れる。
空を見上げれば、そこに見えるのは、俺達が太陽だと思っていた存在。
先程まで、周囲を照らすほどの“ノヴァ”を放っていた存在。
翼こそ生えていない、陽炎を纏った天使が君臨した。




