第二章「衝動は、その身を焦がす」22話
「ゼヴっち〜」
「⋯⋯何?」
「帰ろーよー」
「⋯⋯⋯⋯嫌」
「そんにゃ〜!?」
「⋯⋯1人で帰れば?」
「ゼヴっちが冷たい!!」
「⋯⋯⋯用事はそれだけ?」
どうにかして、この茶髪の少女をデレさせたい。
私は、初対面からずっとそれだけを考えていた。
彼女の瞳は紅くなく、私達とは違う存在であると物語っているとしても、私達は同じであると信じている。
だから、これで終わりではない。
彼女がここで死ぬことは、恐らくないだろう。
彼女は、私より強いのだから。
「うーん、どうしたものかー」
「⋯⋯なるほど」
いつも通り、師の口から愚痴を聞かされ、相づちを打つ。
「ゼヴ様は、周囲との接触を好まない方です。恐らく、自らの体質を気にして――」
「ストップストップ!フリューゲル、そうじゃないでしょ!私は!ゼヴっちに拒まれても!デレさせたいの!」
「そ、そうですか?」
「そうそう!私は、ゼヴっちと仲良くしたいの!」
我が師はいつも破天荒だ。
突拍子のないことを言ったかと思えば、実はここに伏線を張っていましたー、なんてこともしばしばある。
だが、師匠の内側は、そうではない。
〈白蛇〉の名を持つように、相手をじわじわと追い込んでいくことに長けている。その策略や智謀は恐るべき才能で、最強の人間であったとしても、生きて彼女から逃げることは出来ない。それが例え、不死身であったとしても。
「そういえば」
「何でしょう?」
「随分前に、面白い子を見つけてさー。ちょっとちょっかい出してくれない?」
「面白い子?」
「そうそう、異能者なんだけど、能力が封印されているって感じ?自分で蓋をしたって言うよりかは、なんかこう、外部的な力による封印っていうか」
「封印、ですか」
世の中の異能者は、その大抵が人混みの中で隠れ、紛れ、息を潜めている。
だから、自分自身の力を解放することがなく衰えてしまい、外に吐き出すことを忘れてしまった。
「フリューゲル」
「は、はい」
「ご飯にしようっか」
「⋯⋯⋯来た」
「ああ、来たぜ?」
扉を開けた先に待っていたのは、“ノヴァ”の気配が一切しない少女であった。
無機質な瞳を除いて、とても一般人でないとは思えない、そんな印象の容姿。
黒い剣を携え、一定の距離まで近づく。
それは、剣の間合いなどではなく、相手の顔を直視することが出来る距離。けれども、俺にとっては一足一刀の間合いの中。
「⋯⋯何の用?」
「用事か⋯⋯そうだな、まあ、間違っていない」
元より、彼女への用事ではないのだ。
これは、彼女の元へ辿り着かせたいための足止めに過ぎない。彼女を守るのが、俺の使命であり、俺の意志だ。
最も、彼女が傷つくことはないだろうが、余計な手間を増やさせたくない。
「別に戦うつもりはない。だが、剣を引かぬと言うならば――」
もう、何度目だろうか?
目の前の少女みたいな人間に、こうして剣を向けるのは。
そして、その結果はいつも変わらない。
覚悟は、疾うの昔に決まっているのだから。
「そうか」
それが、君の選択だというのなら、拒みはしない。
「かかってこい、猛獣」
俺は、何度だって。
戦い続ける。




