第二章「衝動は、その身を焦がす」16話
異能者。
“ノヴァ”に適合することが出来た人間を、“彼ら”はそう呼ぶ。
その能力は多種多様。五行に基づく能力もあれば、天変地異を引き起こしうる力の片鱗もある可能性がある。
大抵の場合、それは微力であり、他人に害することは滅多に無いが、それでも使い方によっては大きな力を出すことが不可能ではない。
その異能者の中でも異端である存在、“彼ら”が伐魂者と呼んでいた人間達は、その限りではないらしい。
「護身の手段は?」
飛びかかった狼人を、目に追えない速度で殴り、その勢いのまま外へ投げ飛ばした異能者、柊凪。
彼も、その1人であると、“彼”は言っていた。
伐魂者は、能力の幅が限りなく狭い。それこそ、1つの技以外使えないほどに。
それでも、出力が弱いわけではないのだと言う。能力が強力ゆえ、出力量に限界があり、それ以外の能力が消え失せてしまった、そういうことらしい。
「拳銃ぐらいなら、持っている」
「⋯⋯なら、避難の誘導を。奴らの狙いは、恐らく“ノヴァ”そのもの。衝動によって見境なく動いてるだけであれば、獣を相手にするのとあまり大差ないはずです」
回避、攻撃、防御。
こいつらは、身体的なポテンシャルに物を言わせ、直線的な行動以外を選ばない。
それが集団であるなら、尚更だ。
力なき者を虐げるには十分ではあるものの、統率が取れた部隊を相手にするなら、突破することは難しいだろう。
だが、共和国での部隊の殺戮が本当であるならば、その考えは浅はかと言わざるを得ないはずだ。
恐らくとほぼ確定だが、相手の中に指揮官と同類、もしくはそれ以上の存在がいることは間違いないだろう。
そいつが始源に近い個体であり、捕獲すれば有益な情報を入手することが可能だとは思うが、その個体を殺さずに捕らえるのは、不可能に近い。
「すまない。私がもう少し早く言っていれば――」
「別にいいです。俺だって、こういうのは慣れてるので」
「慣れてる?」
「⋯⋯早く、行かなくて良いんですか?」
屋上の手すりへと足をかけ、眼下に広がる惨状を確認する。
襲われている生徒、獲物を食い殺そうと飛びかかる狼人、生徒を守ろうと盾になる教職員。
既に至る所が血に濡れ、今にも殺されそうな人間が数多くいる。
中庭でこれなら、校舎内も同じ有様なのは想像に難しくない。
異能者であれば対抗するのは簡単だ。だが、それを隠し続けていた人間にとって、人前で能力を使うのは既に抵抗が大きい。例え、命の危機であったとしても。
「ああ、分かった」
理事長が取り出したのは、拳銃にしては小さく、心許ないサイズの黒光りする護身物。
あの威力なら、倒すのは難しいだろうが、牽制程度にはなるはずだ。数発急所に撃ち込めば殺すのだって可能かもしれない。
それを見て、目線を下に戻す。
「早く行って下さい。1人で多く救うために」




