第二章「衝動は、その身を焦がす」14話
「なぁ、凪」
「⋯⋯梶木か。何だ?」
「最近なんか、静かじゃね?特に争いもないっていうかさー」
「何だ、争いが好きなのか?」
「いや、そういうわけじゃねえけどよ。鬼灯先輩も不登校気味っていう噂だし」
あの接触以来、鬼灯絢愛はこの場所に姿を見せなくなった。
探った限り、自体に引きこもり続けているようだが、特に気にする必要もない。あの人にも、抱えているものがあるだろうから。
「何か、面白いことねーかなー」
「そんな簡単に見つかるわけねぇだろ⋯⋯」
周囲に“ノヴァ”の気配は薄い。特に何かが起こることはないだろう。
窓から校庭を眺め、梶木に気付かれないようにため息を吐く。
その時だった。
教室の中にチャイムが響く。
授業始めの予鈴ではない。もう既に放課後なので、呼び出し以外の何事でもないだろう。
「1年2組柊さん。職員室まで来てください」
嫌な予感がすれば、それは現実となる。
いや、普通におかしいだろ。
「凪、なんかやらかしたのか?」
「⋯⋯残念ながら、身に覚えがない」
だが、アナウンスの声から、何となく察しはつく。
「行ってくる。先に帰っててくれ」
「いや、待っとくよ。今日は夕菜の帰りも遅いらしいし」
「⋯⋯そうか、ありがとう」
「っ!⋯⋯良いってことよ!」
「急に呼び出してすまないな、柊凪」
「理事長。何の用ですか?」
職員室の最奥の机。
そこに数多の資料を並べて待っていたのは、秋宮冥だった。
黒髪だが、先端に行くほど白さが目立つ、特異な体質の持ち主。
決して染めているとかではなく、“ノヴァ”の影響による肉体への変化であり、だからといってこれと言った悪影響はない。
無火川校長から陛下と呼ばれていた理由は未だ不明だが、遠目で見れば結構なオーラ的なものを感じるのも事実だ。
「これは――」
「それは、仕事の資料だ。触らないでもらえると助かる」
“ノヴァ”に関する資料だろうか?不用心に置かれていたにしては結構機密情報だと思うが。
書類を片付けるのだろうと高をくくって待っていると、理事長は立ち上がり、職員室の扉の外へと歩き出していた。
「ちょ、どこ行くんですか?」
「ここで大々的に話しても構わないが、君はそうは如何ないだろ?」
「⋯⋯そうですね」
特にここに留まる理由もないので、そそくさと部屋を出る。
終始、職員室内で好奇の視線に晒されていたが、当然のように無視した。
「ここは⋯⋯屋上、ですか?」
「ああ、その通りだ」
理事長の後ろを追従して、階段を登りきった先では、厳重に閉ざされた扉の前が待ち構えていた。
その鍵を全て開け、屋上の扉が開かれる。
理事長は歩みを止めることなく、手すりに近づき、肘を預けた。
「1人になりたい時は、よくここに来る。悩んでる時も、ここが1番だ」
生憎の曇り空に、一陣の風が駆け抜ける。
少しずつ暑くなってきている今日此の頃、この風は爽やかで、気持ちの良いものだった。
「柊凪、君には悩みがあるか?」
「悩み、ですか?」
「思春期特有の悩みでも良いが、他にも色々あるだろ?そうだな⋯⋯」
そう言って理事長は、少しずつ高度を下げている太陽の法をぼんやりと眺め、口を開いた。
「鬼灯絢愛の行方、とか」




