第二章「衝動は、その身を焦がす」13話
「凪様、よろしかったのですか?」
「ん?何がだ?」
「あまり、乗り気ではありませんでしたよね?」
帰り道。俺は美夢を乗せて、家へと向かっていた。
「本当に良かったのですか?皐月様の研究に協力して」
そう。俺はあの後、迷うことなく、あの計画に助力を申し出た。
別に、心変わりとかではない。
元より、協力する気でいた。それは、遅かれ早かれ決まっていたことだろう。
「美夢こそ、協力して良かったのか?」
「え、え?そ、それは」
何故か明らかに動揺している美夢を不思議そうに見つめた後、俺は視線を前に戻した。
信号が、青に変わる。
「美夢は、将来やりたいこととかあるのか?」
「ど、どうして急に?」
「別に、急ではないだろ」
「急ですよ!」
「⋯⋯で、あるのか?」
話をそらされそうだったので、路線から外れないように追い詰める。
「⋯⋯特には」
「じゃあ、俺が〈SDK〉に刃を向けたら、どうする?」
「っ!?」
俺の一言で、車内に緊張が走った。
だが、その空気も一瞬で、どこか疲れたように美夢はため息を吐いた。
「凪様、おふざけも大概にして下さい。真剣な雰囲気を醸し出しておいて――」
「冗談じゃない、って言ったら?」
「っ!凪様!ご冗談も――」
「――冗談じゃ、ないさ」
異能者として生きてきた。
だが、この世界ではそれが間違いだった。
確かに、他の異能者と違って、後天的な力だ。苦しんでる時間は違う。
「俺は、誰かのために生きてきたわけじゃない。自分の意志で、自分のために生きてきた。それは、今でも変わってない。でもな。少しでも、苦しんでる人が減ればいいとは思ってる。俺は善人じゃない。偽善者と言われても、否定できない。だが、俺にだって、守りたいものがある」
誰かは、生まれてきた世界を間違えたと呟いた。
誰かは、生きる時代を誤ったと嘆いた。
誰かは、自分が世界を変えると嘯いた。そして、散った。
あの人だって、世界を救うために闇を駆け、闇に狩られた。
「世界なんてもんはどうでもいい。俺は、自分の周りの人が普通に暮らせれば、それでいいと思っている」
過去の俺が聞いたら、戸惑い、理解に苦しむだろう。
それでも、俺の隣には、いつも信じてくれる人がいた。
そして、守れなかった。
「だから、美夢。これだけは聞いておきたい」
「⋯⋯⋯」
ゴクリとつばを飲み込み、緊張した面持ちで次の言葉を待つ美夢に、俺は微笑みかける。
「命と世界、どっちが大切だ?」




