第二章「衝動は、その身を焦がす」11話
「僕が今開発している、完全自律式浮遊デバイスについて、お話をさせてもらっても構いませんか?」
完全自立浮遊デバイス。
その名の通り、外的な補助を一切受けずに浮遊しているように見える装置。
実際は、“ノヴァ”に反応して操られているので、自立しているのかと言われると怪しいが、簡単な命令だけなら予めセットすることが出来る。
“ノヴァ”は永久機関であり、消えることはないとされている。それどころか、“ノヴァ”が活性化することによってその総量は増え、無限に生み出すことすらも可能かもしれない。
そこに目をつけたのが、犯罪組織や悪徳会社だ。
“ノヴァ”を動力にする機械を作れれば、生産コストは激減する。なんせ、“ノヴァ”を増幅できる異能者さえいれば、本人が死なない限り動力源が存在するわけだからだ。
だが、その現実を変えるために、皐月はこのデバイスの開発に取り掛かった。
確かに、“ノヴァ”を必要とする。
ただ、そこに必ずしも異能者がいる必要はない。
この世界が“ノヴァ”に侵食されている今、“ノヴァ”なんて空気中に漂っているからだ。
とはいっても、空気中の“ノヴァ”だけでは、今のところそこまでの燃料にはならない。かと言って、電気など他の燃料を使うのも効率が悪い。
30年後には、この世界の“ノヴァ”の総量は50倍にも増え、生態系に大きな打撃を与えるだろうと言われている。
だが、その時まで待つには、時が永すぎる。
「⋯⋯⋯魔甲炉の開発だな?」
正式には、“魔力錬成型甲式循環炉”と言う。
「ええ、その通りです。魔甲炉の開発についてなんですけど」
そこからの話は、構造を知っている人間以外には退屈だったに違いない。第九番隊所属の人間ですら、その内容が分かったかどうか怪しいものだ。
魔甲炉は、2つの特性を持つ。
起動と停止という、装置である以上外すことが出来ないことに深く関連するそれは、この世全ての人間が異能者ではないために引き起こされた弊害でもあった。
起動条件は、“ノヴァ”が注入されること。
周囲の“ノヴァ”を吸収することも可能だが、そのエネルギーには他の動力源が必要となる。完全に“ノヴァ”に依存することはできないのだろう。
そして、停止することが出来ない。
一度起動されると、燃料が切れるまで動き続ける。回路をイジれれば別だが、“ノヴァ”自体が未知なる物質なのでそれも難しい。まあ、扱うだけなら簡単なのだが。
異能者であれば、自動的に“ノヴァ”の奔流を止めることも可能だったであろう。魔甲炉は、異能者以外が使うように作られていないが、異能者以外にも使うことが目的とされている。
この矛盾こそが、魔甲炉の完全な完成が40年後と言われている理由なのだろうか。
「生憎、俺は“ノヴァ”を注入できなくてな。協力はできないぞ」
「いえ、僕が助力を乞いたいのはそこじゃありません。もっと単純な設計の問題です」
「設計?」
「魔甲炉は本来、何かの機械に組み込まれ、従来の装置と同じ動作を促すように作られてきました。ですが、今までの試作機はどれも、その条件を満たすことが出来なかった」
「⋯⋯⋯大きさ、か」
「その通りです」
“ノヴァ”を凝縮する技術が不完全なため、この装置はどうしてもサイズが大きくなってしまう。
あくまで部品として組み込むのだ。それでは、今までの装置と比べて使い勝手が悪くなってしまうだろう。
「だが、尚更何故俺に?」
「それは⋯⋯」
一瞬美夢と鈴川さんに視線を走らせ、確認するような目で皐月は俺を見る。
2人が知らないこと。そして、知らないほうが良いかもしれないこと。
思い当たることはある。
だが、それは俺にとって、どうでもいい、些細なことだった。
構わないと頷くと、皐月はどこか安心したように頬を緩ませ、けれども、少し重そうに口を開いた。
「凪先輩が、〈SDK〉“ノヴァ”研究の現在の第一人者だからです」




