第二章「衝動は、その身を焦がす」9話
「―――なるほど。内容は把握しました」
「別に何も、協力しろというわけではない。しばらくの間、空き部屋を使わせてほしい」
別に隠すつもりもないが、俺は〈武天鷺〉に配属される前は、この第九番隊に所属していた。
昔から機械いじりは好きだったが、銃器は自身の能力を最大限まで引き出すことが出来ないと思い、そこまで使ってこなかったのだ。
今開発中の武装も、能力を全て引き出せるものではなく、その応用という分野を武器にしている。
「⋯⋯なら、条件があります」
「条件?」
どこか歯切れの悪い回答に眉をひそめる。
「⋯⋯⋯すみませんが、平城さん。少し席を外してもらえませんか?」
どうやら、部外者に聞かれては、都合の悪い話らしい。
「分かった。美夢、部屋に先に向かっていてくれ。皐月も、それで良いだろ?」
「⋯⋯そうですね。平城さん、部下に案内をさせます。先に部屋でくつろいでおいて下さい。何か必要なものがあれば、部下に何なりとお申し付け下さい」
一瞬、美夢が不安そうにこちらを見る。
その視線にゆっくりと頷くと、納得した様子で了承した。
「―――では、柊凪さん。貴方には、聞きたいことがあります」
「⋯⋯それは、〈SDK〉元当主として、か?」
鈴川皐月。
俺と同い年で、卓越した技術の持ち主。
異能者でありながら、“ノヴァ”を自由に扱うことが出来ない、俺と同じ人種。
そして、俺より後にこの世界に来た、被害者の1人。
彼自身は決して、この世界を牛耳る統治者の1人ではなかった。
「⋯⋯いえ、今は、〈神対〉として、質問させていただきます」
〈神対〉。
これは、前当主のコードネームだ。
当主がコードネームで名乗る時、それは、統治者でありながら、今はそうする気がない場合が多い。
つまり、この質問は、あくまで一個人としての、ということだ。
「全ての人間が、異能者を認める世界が、いつか訪れるのでしょうか?」
「それは―――」
〈SDK〉は、異能者を保護する目的で動いている。
だが、異能者関連で被害を受けるものは、当事者以外にも結構な数いた。
彼らを保護することはかなり難しく、〈SDK〉の隊員は8割が異能者だと言う。
保護するタイミングも、大抵が後手に回ってしまい、被害が出てからになってしまうのが要因の1つだろう。そうなれば、当事者以外を回収するのは極めて危険で、厄介極まりない。
もちろん、〈SDK〉の一枚岩ではない。
一般人に対して、少なくとも良い感情を持っていない隊員だって、数多くいる。
それでも、自分たちが虐げられていた側であったため、この考えが根付いてしまっていた。
「――異能者と人間のいう境界線がある限り、訪れることはないでしょう」
「っ!」
この力は、“ノヴァ”の力は、本人にとっては体の一部のようなものだ。
だが、他人はそうは思わない。
例えば、温度を操れる異能者がいたとしよう。
本人は、夏や冬など、温度を自由に変えることで、快適に過ごすことが出来る。ただ、それだけの能力だと考えている。コーヒーを早く冷ましたり、水を早く沸騰させたり、様々な場面で役に立つことは多いだろう。
だが、周囲の人間はどうだろうか?
その恩恵に肖れず、少しでも妬みや憎悪の感情を抱いてしまったら?
炎を操れる能力者は、放火魔などになり得る。それだけの能力がある。
本人がどう使おうと、能力があることには変わりない。例え、使わなかったとしても、それは本人の自由だ。何かの弾みに、都市全体が大火災なんてこともあるかもしれない。
そして、全ての異能者に共有して言えるのは、身体強化を扱えることだ。
効果は人それぞれで、“ノヴァ”の出力を変えることで、強化の効果も違ってくる。
俺も多少は使えるが、刺されたりすれば重傷は負う。その程度だ。
だが、全力で人を殴れば、殺すことだって可能かもしれない。
「俺達には、確かに普通じゃない力がある。でも、それは、足が早いとか、頭が良いとか、そういうものと殆ど変わりません」
「だけど、それは後天的な話だ。先天的才能である異能者は――」
「――俺みたいに、後天的な異能者だっていますよ」
後天的な異能者。
きっかけは分からない。
突如として“ノヴァ”を操ることが出来るようになり、異能者としての才能が開花する者。
「だから、俺は思うんです。もし全員が、異能者であったなら、この惨状は出来ないのではないか、と」




