第二章「衝動は、その身を焦がす」7話
「おはようございます、凪様」
「あーおはよう、美夢」
朝食を作っていたら、美夢が起きてきた。
別に、珍しいことではない。
毎朝、早く起きたほうが朝食を作ることになっており、平日は俺が、休日は美夢が作ることが多いのだ。
ただ、休日に俺が作るのはかなり久々な気がする。
「もう走ってこられたのですか?」
「いや、まだだぞ」
毎朝、近所の山まで行って、そこを走るのが俺の日課であり、訓練である。
もちろん、所有者には許可を取っており、条件付きで使って良いことになっていた。
舗装された道などなく、道と呼べるかすらも怪しい獣道だ。崩れているところも多々あり、決して安全と呼べるものではない。
なので、太陽が昇った直後、光源がかなりあるタイミングを狙って、ランニングを済ませることが多いのだ。
朝食を作ってから家を出ることがほとんどだったが、休日はほぼ同タイミングに起きることが多い。よって、美夢に朝食を任せて、その間に走ってくることが多かったのだ。
「もう少し待ってくれ。すぐに準備する」
「⋯⋯分かりました」
仕事を奪ってしまったのは申し訳ないが、最近は良く寝れているため、目覚めが早いのである。
「ほい、出来たぞ」
「ありがとうございます」
トーストを齧り、サラダを頬張る。
料理はさほど得意な方ではないが、何せ一人暮らしをしている期間が長く、否が応でもそれなりの出来にはなってしまう。まあ、トーストやサラダで対して料理の腕は出ないのだが。
ちなみに、俺は部隊で訓練を受けていた時も一人暮らしだったが、美夢は兵舎で大人数の暮らしをしていたらしいので、彼女の家事スキルは努力の賜物だったりする。
「そういえば、暇な時って何してるんだ?やっぱり、読書とか?」
「⋯⋯どちらかといえば、掃除など、動くことの方が多いのですが。読書もたまにします」
「いや、暇なのに掃除するの?というか、そんなに汚かった?」
「はい。特に、凪様のお部屋が」
「⋯⋯⋯え?」
「いくら何でも、散らかし過ぎです。誰かに見られたら――」
「⋯⋯ちょっと待て」
「?」
掃除が趣味になるのもどうかと思う⋯⋯というか、こいつ、ワーカーホリックになりかけてるというか、もうなってるよな⋯⋯。
義妹の人間性を心配しながらも、先程の言葉をもう一度飲み込む。
「部屋に入ったのか?」
「⋯⋯?はい、そうですが」
「⋯⋯⋯あのなぁ」
俺の記憶が確かなら、部屋に入ることはやめろと念を押したはずだ⋯⋯念は押してないかもしれないが。
それは何故なら――
「あの部屋、危ないだろ?」
刃物や複雑な機械が部屋中に散乱しており、自分でさえどこに何を直したのかさえ分からない。
特に、変な機械は俺でさえ用途が分からない物が多く、下手に触れば、爆発したりするかもしれない。
「銃火器や刃物の扱いは、慣れておりますので」
「そういう問題じゃない。あそこにある武装の1つに、まだ開発中のがある」
「机の上に置かれてる銃剣のことですか?」
「ああ。正確には、銃剣ではなく、銃だな。あれに近接要素は少ない」
俺にしか使えない武装ではあるものの、意外と状況的な汎用性は高くなりそうな気がしている。
「あれは、“ノヴァ”に反応する。お前みたいな異能者が近づけば、どうなるか分かったものじゃない」
「⋯⋯⋯」
「俺は“ノヴァ”を扱えない。⋯⋯いや、使えないわけではないが、俺にその力はない。俺の纏う“ノヴァ”の波長を覚えさせているだけで、“ノヴァ”を込める必要もない」
生まれながら、俺には才能がなかった。
異能者としても不完全で、でも決して普通の人間とも呼べなくて。
だからこそ、何が長所か、その長所をどうやって使いこなすのか、それをひたすら考えて、生き抜いてきた。
「とはいえ、“ノヴァ”を込めれば、暴発する恐れもゼロではない。使い方を学ばなければ、あそこにあるのは爆弾と同じだ」
そこまで危ないものではないかもしれない。
美夢ぐらいになれば、それぐらいの見分けぐらいはつくだろう。
でも、そうはならない時もある。
少し前まで置いていた武装には、対異能者制圧爆弾がある。“ノヴァ”を感知して爆発する、結構な危険物だ。
俺は“ノヴァ”を放出しているわけではないので、危険にはならないのだが、異能者が近づけば、当然起動してしまう可能性がある。
「⋯⋯⋯いっそ、研究所の部屋借りるか」
「研究所、ですか?」
「ああ、こっから少し行った場所にあってな。〈SDK〉の武装開発なんかをやってる」
「⋯⋯なるほど。第九番隊の管轄の施設ですね」
第九番隊。
支援を主に任されており、他の隊との結びつきが最も強い部隊と言っても過言ではないだろう。
後方支援と言わないのは、前方支援も出来るためであり、‘使えるものは全て使う’がモットーらしい。
「今日でも行ってみるか⋯⋯美夢はどうする?」
「お供します」




