第二章「衝動は、その身を焦がす」5話
頂点に君臨するものには、様々な玉座がある。
全知全能の、全てを成し遂げる者には、神。
世界のために立ち上がるのは、勇者。
憧れすらも届かない、遥かな実力を持つ、皇帝。
万物の長たらんと、圧倒的な力を振るう、覇王。
誰かを救うために、夢を叶えるために征く、英雄。
そして。
自らこそが頂、全ては糧であると豪語する、破天荒な実力者。
その名も――
「〈暴君〉⋯⋯冴島相馬」
「ほぉ?俺のことを知ってるのか」
「そりゃあ、有名人だからな」
外見を見ても、分からなかった。
最初に出会った時と、今の外見は、あまりにも違いすぎる。
まるで、別人でもあるかのように。
「⋯⋯何が目的だ?」
「おいおい、そんなに警戒すんなって。俺は、1つ交渉しに来ただけだからよぉ?」
「⋯⋯交渉、だと?」
2階から落とし、その上殺しかけてきたくせに、よく言える。
「来年、妹をこの学園に入学させろ」
「嫌だと言ったら?」
「潰す。⋯⋯いや、お前の憧れのアイツを、徹底的に嬲る」
「憧れだと⋯⋯?」
まさか、隊長の存在が?
そうだとすれば、こいつは俺の正体に――
「聖女サマだよ、聖女サマ」
「⋯⋯⋯⋯は?」
何を言い出すのかと思えば、突拍子もないことを口にし始めた。
「俺の情報網を舐めるなよ?お前が、アイツの信者であることぐらい、当然知ってるぜぇ?」
「⋯⋯⋯はぁ」
何にしろ、日高雫を傷つけるのなら、排除しなければならない。
〈暴君〉は、異能者の敵だ。この前の光景を見ていれば、異能者に牙を剥くことを予想するのは容易い。
だが、コイツ自身も異能者だ。何の理由があって迫害させようとしているのかが分からない。
「分かった分かった⋯⋯とでも言うと思ったか?何が目的だ?」
「言うと思うか?」
「言わないなら、この交渉は無しだ」
恐らく、会ったこともないだろう。美夢自身に、大した目的を持っているわけでもない。
なら、何が目的なのだろうか?
「今日のところは、顔合わせって感じだけだ。そんなに心配すんな」
「⋯⋯なら、とっとと去れ」
「へいへい、そうしますよー」
あれだけ脅してきて、急に素直になった。
というよりかは、ちょっと前の感じに戻っただけか?
もう姿がない〈暴君〉に、俺は何とも言えないモヤモヤを抱えていた。
「凪!大丈夫か!?」
しばらく経った後、梶木が駆け寄ってきた。
何でも、さっきまでチンピラっぽい連中に絡まれて、動けなかったらしい。
それが、ついさっき、急にどっかに行ったとのことだ。
やはり、〈暴君〉の手下で間違いないだろう。
「2階から落とされて、よく無事だったな⋯⋯」
「無事でもないさ、背中痛いし」
「いや、普通助からねえぞ!?」
ここで、他者に俺が異能者であることがバレるのは面倒臭い。梶木も、例外ではない。
どう誤魔化したものか。
「下に人がいてな。運良く助けられた」
「⋯⋯⋯え?下敷き?」
「違う。キャッチと言うか、何というか⋯⋯」
「お姫様抱っこ?」
「そう、それ」
「⋯⋯⋯そうか、凪にもそういう趣味が――」
「いや、違う。断じて違うぞ」
作り話とはいえ、俺の印象がヤバイ奴になりかけてしまっている気がする。
「とはいえ、よく下の人も受け止められたな」
「俺も同感だ。男1人なんて、決して軽いもんじゃないが⋯⋯」
身体強化を施しているのであれば、別にそこまで難しいことではないが。
「ムキムキマッチョだったのか?」
「いや、そんなに」
「⋯⋯⋯⋯その人は、〈暴君〉?」




