第二章「衝動は、その身を焦がす」2話
「秋宮冥だ」
隙がない。
それが、彼女への第一の印象だった。
そして、その印象も、すぐに塗り替えられることとなる。
「陛下、お久しぶりでございます」
「久しぶりだな、校長」
「⋯⋯陛下?」
この国は、一応現在、王政によって成り立っている。とはいえ、そこまで権力が強いわけではない。
だが、名前ぐらいは知っている。
その中に、秋宮という名字を持つ者も、メイと名が近い者も、誰一人として存在しなかった。
「柊様、ご紹介します。こちら、“ノヴァ”の研究の第一人者であり、この学校の副校長を努められ、柊様が通う北嶺音学園の理事長を努められております、秋宮冥様です」
「⋯⋯はへぇ」
思わず、変な声が出てしまった。
聞いたことがある。
“ノヴァ”を普通の人間でも使えるようにならないか、“ノヴァ”の研究を進め、その頂へと登り詰めようとした、1人の女。
その天才的な頭脳と、“ノヴァ”の暴走者を沈めるほどの戦闘力を持っていることから、ついた異名は、女帝。
「へぇ?うちの学園の生徒だったんだ?何年生?」
どうやら、俺の名前は知っているのに、それ以外は知らないらしい。
「新入生です。お初にお目にかかります、秋宮理事長」
ここでは敢えて、学園の生徒という立場で名乗り出る。そうした方が、コネクションが作りやすいからだ。
「私の名は、どこで聞いたことがあるのでしょうか?」
「いや、何。さっきまでの会話を聞いていたからね。分かって当然だよ、当然」
自慢するでもなく、それが出来ないほうが可笑しいといった態度で、会話を進める。
「君も、普段の喋り方に戻したらどうだ?私は仮面が嫌いなんだよ」
「⋯⋯なるほどな」
恐らく、自分より遥かに上の立場の人間だ。
〈SDK〉で精鋭部隊の副隊長を務める俺より、よっぽど優秀で、世界に貢献できる存在。
そんな相手に、タメ口で話すのは抵抗があったが、こちらにしないと、恐らく会話が進まないだろう。
よって、自然体で話す。
「柊凪は、妹さんがいる。その妹さんは、異能者だ。ここまでは間違いないかい?」
「ああ、間違ってない」
「そして、無火川は、異能者への対応で困っている」
「ええ、その通りです」
両者の主張を被せ、リスクとリターンを探していく。
「真正面から介入するのは、バカのやることだ。でも、人間はバカでねぇ?バカが何しても、バカには分からないんだよ」
この人、価値観がとち狂っている気がする。
どんな環境で生きたらこうなるのか。
「介入するには、大義名分が必要だ。そして、私はその2つを持っている」
どこに‘その’が掛かっているのかは不明だが⋯⋯いや、文章がよくわからないことを言っている気がする。
「1つ目は、いじめなどの対処として、容疑者を一掃する。これは、理由としては強いけど、そこまでの効力は有さない。集団にも効きにくいしね」
ついにこの人、容疑者とか言い始めちゃったよ。
「2つ目は、私が、観察対象として見張りを立たせ、実験を行っている体で、卒業まで乗り切る。こっちは、理由としても強いし、効力も結構あるはずなんだけど、ここを卒業してから、ずっと続く可能性もある」
「⋯⋯なるほど」
「両立は難しいだろうね。他に意見は?」
この場の支配者は、間違いなく彼女だ。
そして、その頭脳に対抗できるほどの人材は、この場にはいない。
「⋯⋯特にはない」
「だろうね」
正確には、他にもある。
ただし、前例付き。
それ故、結果が分かりきっている。これは、覆せない。
「どれを選ぼうと、君たち次第だ。君の妹さんに、どこまでの覚悟があるのか。それに限るね」
それともと、話を続けようとする彼女の言葉を、俺は遮る。
無論、空気が読めないとかではない。何を言うのか分かった上で、口を開いた。
「俺は、美夢が幸せであることを望みます。異能者であったとしても、普通の人間と変わりないので」
我ながら、綺麗事を言っている自覚はある。
でも、決して間違っていないはずだ。
「そんな答えはない、あるとすれば、地獄だけ、そう言ったら?」
「⋯⋯覚悟は、ずっと前から決めてます」




