第二章「衝動は、その身を焦がす」1話
「狼狽えるな、進めっ!」
部下に指示を出し、自らもサブマシンガンを構える。
眼前から押し寄せるは、死者の軍前。
その体は既に変異しており、腕は硬質化、足は獣人化という、異形の怪物と化していた。
恐らく、狼人と呼ばれる化物だろう。
「隊長!右翼が壊滅しました!」
「チッ」
奴らは、その醜く肥大した硬い腕を盾として、鉛玉を恐れることなく突っ込んでくる。
「防御を固めろ。使えるものは、全て使っていけ!」
それでも、元は単なる人間だ。
筋肉や骨には限界があり、人間の限界を超えることは、出来ないはずだ。
こちらには、グレネードランチャーや手榴弾など多数の銃火器がある。
あの化け物どもも、これには耐えきれないだろう。
そう思いつつ、破片手榴弾を敵陣へと投げた。
「⋯⋯く、そ――」
物陰に隠れて、呼吸を整える。
みんな、死んだ。容赦なく、食い殺された。嬲り殺された。惨殺された。
あの爪と牙からは、逃れることは出来なかった。
「⋯⋯せめて、本部に報告だけでも」
拠点にさえ戻れれば、常駐部隊と他の武装も数多くある。そして、本部にも報告して、何か対策を打ち立ててもらうことだって出来るはずだ。
「グルゥゥウァァァァア!」
どうやら、バレてしまったらしい。
「クタバレ、化物!」
その獣特有の低い姿勢で突っ込んでくる敵の頭に、ショットガンの銃口を向ける。
そして、気づいた。
「グレイッ!?なんでお前が――」
「シュラアアアアァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
「ガハッ!?」
その顔は、部下のものだった。
何とか銃身で爪を受け止めるが、その威力を殺しきれずに、木の幹に直撃してしまった。
反動で、ショットガンが手元を離れ、どこかに消えてしまった。
「グレイ!俺だ!分かるか――」
「グゥラァァアアア゙ア゙!」
顔面を押さえつけられ、必死に藻掻く。
「グレイ!俺だ!シモンだ!お前の――」
「シュラアアアアア゙ア゙!」
喉が、熱い。
外に、何かが流れ出している。
痛い。
痛い。
痛い痛い痛い。
いタいイタいイダい゙いたい゙。
イ タ イ。
イ タイ。
ク イ タ イ。
「――というわけで、すみません。編入当日に、妹が登校できない状況を作ってしまって」
「⋯⋯いえ、そういう事情でしたら、大丈夫です。ですが、当日、ちゃんと連絡を下さいね?」
「それは⋯⋯」
「もちろん、午後ではなく、午前中に、欠席連絡と同時間帯に、お願い致しますね?」
「⋯⋯分かりました」
朝。
俺は、北嶺音附属第一中学校の校長室に来ていた。
「妹を、美夢を、よろしくお願いします。もし何かあれば、俺に連絡下さい。協力致しますので」
「⋯⋯分かりました。こちらこそ、お願い致します」
学生とはいえ、今の俺は、1人の家族としてこの場にいる。
だからこそ、信頼関係は必要だと考えた。
「美夢さんは、本当に優秀な生徒になると思っています」
唐突に切り出した校長に対して、俺は眉をしかめる。
「⋯⋯それが、どうかしたんですか?」
こちらの怪訝そうな雰囲気を感じ取ったのだろう。校長も少しだけ表情を固めて、俺の目の奥を見つめながら話し始めた。
「成績は極めて優秀。彼女ほど秀逸な生徒はこの学校で、今後も存在しないことでしょう。それほど、編入試験の結果は素晴らしいものでした」
「⋯⋯⋯⋯」
「ですが、私も貴方と同じ側の人間。彼女の正体にも、気付いております」
その回答に、思わず眉を上げてしまった。
「ですので、その時、どういう事が起こるのかも、存じております」
「⋯⋯⋯なるほど。つまり、その際の対応をどうすればいいか、ということでしょうか?」
「話が早くて助かります」
この校長、意外と人情派なのかもしれない。
「対応、といいますと、どこまで介入することが出来るのでしょうか?」
「⋯⋯介入、ですか」
「正面切って全面的に介入することは、学校の評価を落とすことに繋がり兼ねません。それは、御校としても避けたいはず」
「本当にそうか?」
「⋯⋯は?」
思わず、呆けてしまった。
気配はなかった。
とは言っても、誰かが扉の前に立っていたことには気付いていたし、その人物が女性であることにも勘付いていた。
それでも、この場に参戦することは考えていなかった。
「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ない。柊凪。私は、この学校の副校長を努めさせていただいている、秋宮冥だ」




