第一章「少年は、涙の下で。少女は、志の下で。」10話
戦士に、休息は来ない。
戦い続けることを選ぶ限り、死と共に在り続ける。
そして、戦士の大半は、そのことを選択し続ける他ない。
そうしなければ、生き延びることが出来ないのだから。
「すまない、電話だ。少し待っててくれ」
懐のスマートフォンが震えたので、3人に断りを入れ、少しその場を離れる。
「どうした」
「副隊長、隊長より伝令だ。今すぐ、墓場へ向かえ、ってな」
「墓場?」
それはつまり、死ねってことだろうか?
その俺の困惑を、電話越しに読み取ったのだろう。男は、一呼吸置いてから、話を続ける。
「あんたの今いるところから、東に川があるだろ?そこの近くに、墓地がある」
「⋯⋯なるほどな。だが、今、得物は――」
「心配ない。何とかなる」
「はぁ?あ、おい!」
通話が切られた。
任務内容もないまま、収集の知らせだけ。
恐らく、現地には誰もいないだろう。
いや、存在はするか。誰か、が。
「誰からだった――」
「用事が入った。朝奈、梶木、美夢のこと、任せていいか?」
「え、急に?」
「父から電話があってな。美夢のことで、話があるそうだ。だから、申し訳ないが、美夢のことを頼む」
「いやいや、いくら何でも、急すぎないか?」
「なら、梶木、お前が行くか?」
詰められたなら、反撃は残しておくべきだ。
「あ、いや⋯⋯遠慮しとく」
「⋯⋯任せたぞ、美夢」
「はい、お任せ下さい」
静かに彼女に目配りし、背を向ける。
「唄は消え、時は紡がれる」
無意識に、そんな言葉が溢れた。
その言葉の意味も知らずに。ただ、記憶もされずに。
「で、ここが目的地であってるか?」
古びた教会と、その周囲を取り囲む墓地。
そして、とてつもなく濃い、“ノヴァ”の気配。
「到着したか」
「⋯⋯分かってて聞いてるだろ?」
ノータイムで通話がかかってくる。
その声は、まるで凪の位置を完全に把握しているようだった。
周囲に目を配らせるが、視線は感じない。
いや――
あの視線だけは、ずっと付着しているか。
「まさかとは思っていたが、教会に突入しろとでも?」
それは流石に、敵を多く作りすぎてしまう。それだけは避けたいのだが。
「何バカなのこと言ってんだ?気配で感じるだろ」
「は?何の話―――」
最近、不運なことが続けざまに起こる気がする。
眼の前に登場したのは、灰色の大きな熊。
体中は傷だらけで、歴戦の猛者なのは一目瞭然。その山のような巨体には、見覚えがあった。
「焦岩熊⋯⋯」
「今回の対象はそいつだ。くれぐれも無理するなよ?」
「⋯⋯分かってる」
これも、“ノヴァ”の弊害。
人間が異能者なら、熊は焦岩熊となる。
“ノヴァ”を吸収することで、より大きな身体強化を誇ることが可能で、ある記録によれば、軍の一旅団が全勢力を上げて尚討伐することは出来ず、数多の命が土へと還った。
それほど、強力な相手。
まだそれほど強くないが、時間が経つに連れ、今はまだ緩慢な動きは、その質量を感じさせない程速く、今でさえ硬い毛皮は、鋼鉄すらも簡単に弾き返すほどに、今尚振るわれ続ける怪力は、全てを破壊するべく強大になっていく。
そこに、手順は要らない。ただ、時が過ぎるだけ。つまり、時が満ちなければ、倒せる。
それはただし、武器があった場合の話だ。
普通に、熊を倒せる能力がなければ、勝てるわけがない。元のスペックは、熊より強いのだから。
「⋯⋯やるしかないか」
殺すことは、可能ではある。
ここは墓地だ。
探せば、有益な道具はあるだろう。それが致命傷になることはほぼないが、いつも通りやれば、問題ない。
自分からは動かない。
リーチ的に、必ず後手に回る。
なら、元からカウンターに回ったほうが、効率がいいだろう。判斷的に。
「来いよ、怪物」




