48.キリーナ2(ライゾン目線)
仕事が順調で休めなかった。休まなかったというほうが正しい。キリーナを視界に入れたくない。嫌いなのではなく、気まずい。少し前までは違った。
実際に行動してしまったせいで、知らなかった感情が浮き彫りになる。いや、押し殺していたのかもしれない。
さすがに休まないとスティーブに笑われそう。いつまでも逃げ回ってもいられない。大人げない。
「ライゾン様、お出かけする時間よ」
「ああ」
今日はキリーナと栗拾い。しばらく放っておいたら膨れっ面で、
「お出かけしてくれなきゃ嫌いになるわよ」
と約束を漕ぎつけられた。栗拾いは毎年のこと。一緒にいる間にこういう決まりが増えてゆくことが怖いことのようにも思う。本当にキリーナを手放せなくなりそうで。彼女が幸せなら、家族としてそちらを優先するべきなのにできなかった。
栗拾いは山のふもとの知り合いの領地内。
「手、ケガするなよ」
「そんなに子どもじゃないわ」
と手袋をしながらキリーナが頬を膨らます。たぶん、俺にだけに見せる表情だ。誰かに成り代わっているときには意識的にしない。
栗のイガって人が作ったものでもないのに本当に針のように痛いのだ。
「あっ。待って。だめよ、私の」
キリーナがイガからはずした栗がコロコロ転がって、拾う前にリスに奪われる始末。
「ははっ」
「ライゾン様、笑ってないで手伝ってよ」
カゴに入れては蓋をして、キリーナは若いからいいが、こっちはその動きを見ているだけで腰が痛む。
「知ってると思うが俺は栗が嫌いだ」
甘く、パサパサして口の水分が奪われる。シャーロットはパイにしたそれがキリーナは好物だ。茹でただけのものも喜んで食べる。
「一番面倒なのは栗の皮を剥くことでしょう?」
茹でて剥いて面倒な食い物だ。
「社長が手を切ったら社員が困るだろ?」
「はいはい」
こうしているとキリーナの観察をしているようで自分でも気味が悪いから、
「しゃーない」
と重い腰を上げる。少しでもイガから栗が顔を出しているほうがまだ取りやすい。けれども虫食いもしていやがる。
「見て、ライゾン様。こんなにきれいなのが3つも」
キリーナの笑顔を見るとほっとする。本人には言わないけど。たぶん、一生。
しかしこの作業は飽きる。イガを足で踏んでたまに指先を痛めながら栗を取り出す。そうしている間にも、ぽん、ころころころと頭上から落ちてくるものもある。きっと熟してうまいのだろう。かごに入れてしまえばシャーロットが一緒くたに茹でてしまう。
「休憩」
キリーナに声をかけたが首を左右に大きく振った。なぜこんな作業を楽しそうに続けるのだろう。俺のほうが根気はないのかもしれない。それとも栗を取ったあとの楽しみをキリーナのほうが想像できているのだろうか。
持ってきたポットからお茶を飲む。そろそろ昼だろう。パンもあるのだから休めばいいのに。ああ、退屈だ。
布を広げて、そこに寝そべる。
「ライゾン様、そんなふうに横になっていると栗のイガが落ちてきますわよ」
とキリーナはまた嬉しそうに笑った。




