46.私の仕事8
事態が動かずにライゾン様のイライラが募る。
「帰って」
「戻れない」
私と言い合っても無意味。
「考えたのですが、私がここへ向かう途中で賊に襲われることにしちゃえばよかったのでは? よくあることでしょう?」
王子と一緒なら私が連れ攫われても彼の汚点。国同士のことだからそれはできなかったのだろう。
「無茶言うな」
ライゾン様がカウチに座って私のお茶を飲んでしまう。私の部屋だからって気を抜きすぎだなとは思っていた。王子や侍女たちには見えなくても主従関係が逆転するのはよくない。でも腕組みをして考え込むライゾン様が素敵で。私は爪とぎをしながら横目で盗み見た。
そうこうしている間に、私がというよりもライゾン様の素性を王子が突き止める。この国も優秀な諜報員を抱えているようだ。外に連れ出されたときに王子が私に耳打ちする。
「リジー、あの男は君とどういう関係?」
と詰められる。
「執事ですってば」
「嘘はいけないな。教育係は女性のはずだ」
もう裏を取っているのだろうか。出所はどこだろう。私たちの国にとってもライゾン様を擁護する人が多いはず。私欲のために。
「調べたの?」
王子は私の腰に手を回して逃してくれそうにない。
「もちろん。君との接点はわからないがね。彼は僕か、王の命でも狙っているのかい?」
「それはないわ」
殺すチャンスなんて山ほどあった。
「あの男にそそのかされているのでは?」
どうやら私をリジーの偽物であることには気づいていないらしい。ライゾン様が私を好きで追って来たと思い込んでいる。本当にそうならいいのに。
「優しいわ。仕事だって人のためになることばかりしているのよ」
感情的になってはダメ。これは私の仕事。訓練してきたのにライゾン様の悪口だけは許せない。
「あんなおっさんのどこがいいの? しかも違法なことをしている」
ライゾン様のいいところ、数えたらきりがない。人に伝わらなくてもいい。私が知っていればいい。
「君にそんな顔をさせるのはあの悪い男だけなんだろうな。でも残念だけど結婚は避けられない。君の代役をあの男に用意させる?」
なんだ、王子にとっても私でなくていいのか。甘い言葉たちはここに来てくれる女になら誰にでもかけていたのだろうか。ほっとしたようなぶん殴りたいような気持が同時に湧き上がる。
「お安い御用です」
ライゾン様が背後から言った。
「どこにでもいるな、貴様は」
王子は見たことのない苦笑い。
「ではお嬢様をお返しいただきます」
ライゾン様が私の手を取った。
「いいよ。逃がしてあげる」
そう言った王子の顔はちょっと寂しそうだった。いろんなことを諦めてきた人生なのだろう。王子だから冒険者にはなれない。海にだって好きなときに行けない。一緒に見れなくて残念です。
でも、ごめんなさい。私はライゾン様のそばにいたいのです。誰に何と言われても、歳が離れていようと、彼が雇用主でいつも身の危険を感じるようなやばい仕事をしていても、彼の隣りでお昼寝をしていたい。子どものうちだけでもいいから。




