44.私の仕事6
「なに懐柔されてるんだ?」
モノクルなんてかけて、いかにも執事の格好でライゾン様が登城した。
「仕方ないじゃないですか」
私は自分が生きるために味方にできる人はするし、楽に生活ができるのであればそれに越したことはないという思考。お城では王子に愛されていたほうが使用人たちも私に対して意地悪しない。
「令嬢の居場所がわかった」
ライゾン様の話では原因不明の病にかかり、婚約を辞退することもできずに侍女と山の診療所に匿ってもらっていたそうだ。
「リジー、従者を紹介しておくれ」
ブラッド王子はいつものように私の頭を撫でながら言った。
「ロベルフですわ」
「思っていたよりも若い。しかも男か」
王子が明らかに嫌そうな顔をする。
「若そうに見えておじさんなんです。私が生まれたときから家に使えてましたのよ」
私の咄嗟の嘘も言葉になれば真実になる。
「リジー様の教育係をしておりましたロベルフと申します」
ライゾン様、執事姿も素敵ね。
「顔合わせのときに見かけたことはなかったが?」
「ブラッド王子に嫉妬されてはクビになりかねませんから」
うちは代々リジー様の家に勤めてまして、話は曾祖父にまで遡ります。ライゾン様も滑らかに話す。あなたが嘘つきだって知ってる。嘘つきというより嘘が得意。詐欺師が職業ではないが今までのライゾン様の人生で培われてきたことなのだろう。そしてそのついた嘘を忘れないことも大事。あとで自分の首を絞める羽目になる。
困ったのはライゾン様が私から離れない。眠るときも同部屋。それに王子が焼きもちを焼く。
「リジー様は悪夢を見がちなので」
の言い訳は苦しい。
「一緒に暮らしていたときだって同じ部屋で寝てなかったのに無理があるわ」
王子がしぶしぶ引き下がったあとで私はライゾン様に言った。
「王子の年齢を考えてみろ。何かあったら困る」
「何かって?」
私の問いかけにライゾン様は顔を背けた。
来てくれたのはいいけれど停滞。先に進めない。解決方法なんてあるのかしら。今のままで平和なのだからごちゃごちゃしかきまわさなくても。
「私みたいのが王妃になれるのよ。ある意味、夢物語よね」
ライゾン様が来てから侍女たちは身支度をすると部屋を出てゆくようになった。結果、私はいつもライゾン様と部屋に二人きり。お勉強のときは専門の講師が来てくれる。が、ライゾン様はそれも断っているよう。
「やっぱり年齢が近いほうは話が合うか?」
とライゾン様が私に聞く。
「ミランにも言ったけど、今まで私たちがしたことを考えれば私だけ途中放棄などできません」
幾人もの人生を変えてきた。今も他の人の人生を生きている。自分で望んだ人もいるし逃れられなかった人もいる。今も真実が露呈することに怯えながら暮らしている人もいるに違いない。私だってそう。こっち側の気持ちを知ることも大事。
「すまない」
「ライゾン様のせいじゃないわ。違ったわね、ロベルフ」
私の身の回りのことをしてくれるライゾン様は本当に従者のようで、でもきっとこの状態になってもずっと一緒にはいられない。運命なのだ。




