39.私の仕事1
風の強い夜だった。風ががたがたと屋敷の窓を叩き、ぎゅっと目を閉じて私は眠る寸前だった。不穏な感じがして、なんとなくこういうときは眠れそうにない。
ドンドンドンドン。ドアを直接叩くなんて礼儀がないってない。ノッカーの意味がないじゃない。
もしや、ライゾン様が捕まるのではないかと自室で耳を澄ませてもおじさんの声が聞こえるのみ。怒鳴り声でも金切り声でもない。
スティーブが対応し、ライゾン様を起こしたということは客人なのだろうか。気になるけど部屋を出るのも怖い。
部屋とか家って守ってくれているように思う。壁一枚、ガラス一枚なのにおかしな話だ。壊そうと思えば斧やトンカチで一撃なのに風を除け雨も凌いでくれる。
話し声から想像するに客人は少人数のようだった。滞在はわずか数分。警察ではないようね。あちらも外部に知られたくない用事だからこんな夜更けに訪れたのだろう。部屋に時計がないから何時かはわからない。しかし真っ暗な夜に来るなんて迷惑極まりない。常識を問いたいが、そんな相手じゃないのだろう。
ライゾン様に面倒な仕事を押し付けているに違いないわ。お金になるお仕事ならライゾン様は快諾するのかしら。明るくなる前に客人は帰ったようだった。お金持ちの人って夜に走らされる馬の気持ちになったことがないのかしら。
「昨晩、誰かいらっしゃったわよね?」
そ知らぬふりをして、朝食を口に運びながら私はライゾン様に尋ねた。
「ああ」
王命らしく断れないと申し訳なさそうに私に頭を下げた。隣国の王子と結婚するはずの公爵令嬢が明日から向こうの国で行われる王妃教育を嫌がって逃げたそうだ。結婚まであちらで暮らす長丁場。生活を慣らしながら毎日勉強漬け。
「15歳の女の子が逃げようなんて一人では無理でしょう?」
私は言った。きっと誰かが糸を引いているはず。
「誰も心当たりがないらしい」
王子の婚約者に他の男の影などあってはならない。
「それで、私の出番なのね」
呑気に朝食を食べている場合ではなかった。ここで食べる最後の朝ごはんかもしれない。もっと味わうべきだった。だから後悔なんて言葉が存在する。
「隣国にまで行かせるのは危険だが」
さすがのライゾン様でもこの数時間では妙案が思い浮かばなかったよう。しかも隣国では動かせる人間のツテもない。しかしこの王命を断れば今後の仕事にも影響が出る。
「王命ならしょうがないわ」
断れないんだもの。そうとなれば、私は一刻も早くその令嬢になりすまなくては。どんな女の子なのだろう。おとなしい? 派手? 高飛車? なんでも演じられるわ、今の私なら。あなたのためなら。
「いってきます、ライゾン様」




