26.公爵家のパーティ2(ライゾン目線)
「じゃあライゾン様、私たち行くわね」
キリーナが表情を変える。伏し目がちに俯いて、内向的を装う。
「いってらっしゃい」
フランクもちょっと猫背で部屋を出て行った。
「私も帰るわ」
ミランが化粧道具を片づける。
「パーティに出て行かないのか?」
「知り合いに見つかったら困るもの。あなたもでしょう?」
確かにそうだ。
「スコーンでもどうだ?」
紅茶もある。
「ライゾン様、寂しいの? いいわ、付き合ってあげる」
ミランとの付き合いも長くなった。
「いずれ、キリーナが困ったらミランのところで助手として雇ってくれ」
「心配ならちゃんとした結婚相手を見つけてあげなさいよ」
と言いながらスコーンを口に運んだ。
「そうだな」
「そんな悲しそうな顔しないで。キリーナちゃんに好きな人ができたらどうするの? もうそういう年頃でしょ?」
「そのときは、自由にしてやるさ。もう充分すぎるほど仕事を手伝ってくれた」
「本音?」
イエスと答えたい。
「あと5年は手元に置きたい」
使い勝手がいいとはミランにも言えない。ミランですら俺を裏切るかもしれないと思うときがある。使用人のシャーロットがうっかり口外するかもしれない。スティーブはどうだろう。
疑ったらキリがない。その点、キリーナは俺を裏切らない。そう思わせているだけかもしれない。女は怖い。
「いい子だものね、キリーナちゃん」
ミランが意味ありげに微笑む。
「便利なだけだ」
用意されたスコーンと一口サイズのサンドイッチを粗方食べ尽くすとミランは帰って行った。元は女優志望で、それなのに銀行の頭取の愛人になり手綱を握っていたつもりが有頂天になり足元をすくわれ捨てられたところを俺が拾った。素性を隠すために化粧がうまくなった。
ミランだっていつでも解放してやるつもりだ。だが彼女は密かに世の中に恨みを晴らそうとしているようだ。そのために金を貯めている。
人を雇って金を稼ぐなんて、楽だ。歳を取ったらわざわざ自分がこんなところに出向かずに、人を動かして金だけ稼ぐんだ。その金はどうするのだろう。あっちの世界には持っていけない。だから金持ちってのは大概奇行に走るのだろう。
キリーナが今のままならあげてもいい。しかし彼女も変わる。
「ああ、疲れましたわ」
そう言って戻って来たキリーナはぐびっとオレンジジュースを飲んだ。
とても令嬢には見えない。いつもなら注意するが今日は許そう。
「ご苦労様」
人を利用することに心が痛まないわけじゃない。でも君はオレンジジュースを飲み干してにっこりと笑った。




