24.朝(ライゾン目線)
「頭がぐらぐらする」
屋敷に着き、馬車を降りるなりキリーナがふらつく。睡眠不足だろうか。
「おいっ」
倒れる前に抱えられてよかった。マリアのことが一件落着し、ほっとしたのかもしれない。こういうところはまだ子どもだな。苦悶の表情でないからわかるのだ。
「ライゾン様、私が」
スティーブが手を差し出してくれるがぎっくり腰がひどくなったら困る。
「大丈夫だ」
もっと前はこんな穏やかな顔で眠ることはなかった。悲鳴をあげたり泣いて目を覚ますこともあって、今までどんな人生を送って来たのかと哀れむことしかできない。
キリーナを部屋まで運び、ベッドに寝させる。随分と重くなったものだ。
「寝ているだけですわ」
シャーロットが布団をかけながらキリーナの呼吸を確認する。一定だ。
「マリアが心配で寝られなかったのだろうな。少し休ませよう」
「はい。私がついていますのでライゾン様もお休みになってください」
「いや、しばらくついている」
こうなったのは仕事のせい。つまり、俺のせい。
「わかりました」
シャーロットがドアを少し開けたまま出て行った。そんなに警戒しなくてもキリーナを女だとは思っていないよ。
眠いが、大人だから我慢できる。キリーナはもうすぴすぴと寝息を立て始めた。よほど気を張り詰めていたのか。こんな仕事をさせて申し訳なさもある。
あまりにもキリーナの呼吸が一定でこちらまで睡魔が襲う。ベッドは広いし、ここへ連れてきたばかりのときは幾度か共に眠った。足の間に挟むと落ち着くのか、猫のような子どもだなと思った。俺の屋敷の俺が与えたベッドで横になってはいけない法律はないはず。
化粧をしていなくても睫毛が長い。そんなところが気に入って近くに置いているわけではない。
寝返りを打ってもキリーナは起きない。横向きで、俺に抱きつく格好になってしまった。
「キリーナ、眠ったか?」
寝顔だけは子どもだな。いや、柔らかい部分が当たってる気がする。知らぬ間に本当に成長しているんだな。
これは困った。どんどん大人になる。それは止められない。最近、この小娘が女に見えるときがある。化粧のせいだ。小さいときから囲って守って来た。己の仕事に役立つからだ。それ以上の感情はない。
こんな仕事をする自分は大事なものを持たないほうがいい。
「キリーナは命がけで仕事をしているように見える」
と秘書のフランクも言う。キリーナだって生きるために仕方なくしている。俺だってそうだった。養子に行った先の家が没落し、仕方なく商売を始めた。養子先の親は親戚を頼っていなくなり、俺を連れて行ってはくれなかった。家族ではなかったのだ。学校に出してもらえたことに感謝はしている。おかげで戦争で亡くなった級友がこんな仕事をしたいと話していたことを実現できたから。あいつならばもっとうまくやれているのだろうか。
今回は厄介な仕事だった。方々に手を尽くしたが、最後はキリーナに助けられた。もう全部やめてしまいたくなる時がある。しかし、そんなことをしたら今回のマリアのように尻拭いができなくなる。キリーナが機転を利かせてマリアにメモを渡したそうだが、なかなかできることではない。メイドとして屋敷に潜り込むことにだって尻込みする者もいる。キリーナは堂々としている。嘘は大罪だ。それを多くの人につき続けさせているのだから出来得る限り守ってやらなければ。
しかし、あんなことがあった直後でよくこんな無防備に眠れるものだと感心する。
「ライゾン様」
キリーナの声がした。寝言のようだ。どんな夢を見ているのだろう。
少し笑っているようにも見える。おっと、これは谷間ではない。横向きになっているから肉が寄っているだけだ。断じて胸の谷間などではない。
「眠れん」
まさか、俺がこんな子どもに反応するわけない。もう少し襟ぐりの開いていない服を着させないと。
明るいと眠れないのは昔からだ。キリーナのせいじゃない。




