16.ミランとお化粧のレッスン
「あんなスケコマシのなにがいいの?」
その日はミランに最新のお化粧や流行りの服や帽子、髪型を習う。ご令嬢役が多いから自分でする必要もないのだけれど、これもいざというときのため。
素顔を晒したら子どもだと一目瞭然。
「スケコマシ?」
初めて耳にする言葉だ。ミランの話の感じからいい単語ではなさそう。
「わからないならいいの」
だって、ライゾン様が女の人を招くのは仕事の一環。他言無用のことだから自分で嫌々やっているのかもしれない。
「ミラン、こんなに派手なお化粧が流行りなの?」
アイラインは濃いしアイシャドーも赤紫。
「頬もこうするとこけて見えるでしょう?」
まるでオバケのよう。ミランからはいつも香水の匂い。ライゾン様のおば様とは違ってさっぱり系だが、どちらも得意じゃないものの鼻は慣れてくる。
ミランはいつも恋をしている。惚れっぽいのだ。そしてすぐにフラれる。それでも楽しそうで、ちょっと羨ましい。
「恋をたくさんしたら耐性がつくのかしら」
ちゃんと恋をしていないから私にはわからない。
「好きな人がいるのに他の人に目がいく?」
ミランはそう言うけれど、彼女だって恋人がいるのに他の人を好きになって揉めたことがあることを知っている。
「恋を知りたい」
私は言った。
「あなたはもう知っているわ」
そうなのかしら。ライゾン様への気持ちは憧れに近いものだと思っていた。もしくは、親愛。
仕事が絡まなければライゾン様は私を家に置いたりしないのかもしれない。私だって独り立ちしたら彼を必要としないのかもしれない。つまり、愛じゃないのかもしれない。
「キリーナちゃん?」
涙が頬を伝う。
「私、なんで?」
しょっぱい。
「いい女はこんなところで泣かない。無駄な涙を流さないで」
ミラン、そんなの無理よ。確かに涙は女の武器だと思ったことはある。でも流れてしまう。止めたくてもあふれ出る。
「欲深いのかしら、私」
ライゾン様に愛されたいわけではないのに。
ミランは涙をハンカチで押さえてくれた。
「お化粧しているときに泣いたらこうするの。拭くとぐちゃぐちゃになっちゃうからね。覚えておきなさい」
「わかったわ」
こうして私はちょっとずつ大人になってゆく。私だけでなくシャーロットさんにまでお化粧を施すとミランは満足したように帰って行った。
「毎度、不思議な方」
とシャーロットさんが鏡の中の自分を見ながら言う。
「シャーロットも料理して気を晴らすでしょう?」
「ええ、そうですね」
私もそういう気晴らしを見つけなければ。
「シャーロット、いつもよりきれいよ」
「新しい頬紅って言ってましたね。買おうかしら」
私も自分のお化粧くらいできるようにならなくちゃ。




