表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/105

恋愛脳の半魔たち

 今日は2041年の春。窓の外には桜が咲き誇り、新しい季節の始まりを告げている。


 私は管理局の局長室で、今年のスケジュールを確認していた。デスクの上には半魔候補者たちのファイルが並んでいる。一人ひとりの過去、そして未来を知っている私にとって、この作業は特別な意味を持つ。


(えーと、2041年だから、今年に加入するのは……)


《いろは、誇、依里だな》


(そうだった。ありがとう)


 私は、壁にかかったカレンダーを見る。赤いペンで印がつけられた日付が、いくつか並んでいる。それぞれが、誰かの人生が変わる日だ。


(ってか、私、昴ぴちぴちの64歳!)


《ぴちぴちって。お前、見た目16のままだろ》


(でも64歳だよ? すごくない?)


《すごいの意味がわからんけどな。お前の場合、中身も16のままだからな》


(ひどい。毛むしってやる)


《お前のが酷いぞそれ!?》


 私は、ため息をつきながら笑う。ポン吉との掛け合いは、何十年経っても変わらない。この変わらなさが、時々救いになる。


 そして、三人の資料を開く。一番上にあるのは、艶見いろはのファイル。写真には、まだ少女の面影が残る彼女が写っている。


(いろはさんは、ビッチ化して女とやりまくって虚しくて色欲へ)


《言い方よ》


(え? 間違ってないでしょ?)


《間違ってないけど、言い方!》


(細かいなぁ)


 私は、次の資料を手に取る。高城誇。十二歳の少年の写真。まだ幼さが残るが、すでに凛々しい顔立ちをしている。


(誇さんは、一家離散したけど、自分だけでも依里ちゃんを守り抜くって言う、子供ながらに傲慢な考えから半魔に)


《起源がもうシスコンだもんな》


(シスコン貫く人生……全然かっこよくねぇわ)


《かっこよくしようとしたけど無理だったな》


 最後のファイルを開く。高城依里。六歳の少女。ツインテールの髪が可愛らしい。


(依里ちゃんは、テレビで兄妹は結婚できないって知って絶望して憂鬱へ)


《六歳で、想い人と添い遂げられないって知って絶望するって、一体……》


(マセガキってこういう人のこと言うんだね)


《今日はやけに口が悪いな》


(この三人は、恋愛脳で半魔化した人らで、未来で結ばれる人に出会ってるからね)


《それは……》


(だから羨ましい)


 私の声が、少しだけ沈む。ポン吉が、何も言わない。


 静寂が、部屋を包む。


 窓の外では、桜の花びらが舞っている。


 私は、資料を閉じる。


(もうさ、高城兄妹はさ、半魔で人間じゃないし、くっ付ければいいよね)


《倫理観どこやったよ》


(えー、やり直す前だってエッチしてたし、もういいじゃん)


《言い方! 俺以外には気をつけろよ、ほんと》


(当たり前じゃん? ポン吉にしかしないって。特別な相棒だもん)


《お、おう》


 私は、いひひと笑う。楽しくなると、自然と笑いが出るようになった。


(でもさ、二人は本当に愛し合っていたんだよ?)


《それはわかってる》


(だったら、いいじゃん)


《……まあ、半魔に関してはお前が絶対的な権限あるからな》


(うん)


 私は、立ち上がる。椅子がきしむ音が、静かな部屋に響く。


(んで、明日、いろはさん半魔化するから迎えに行くけどさぁ)


《ああ》


(私が行ったら、絶対惚れるじゃん?)


《すげぇ自信だけど、否定できねぇ》


(でしょ?)


《お前、ほんと自己評価高いな》


(だって本当のことだもん)


《……見た目は最高に可愛いからな》


(だから、根倉きゅんに行ってもらって、射止めてもらおう)


《射止めてもらう?》


(そう。根倉きゅんなら、いろはさんを惹きつけられるでしょ)


《お前、根倉のこと買いすぎだろ》


(だって、未来でもいろはさん惚れてたじゃん?)


《まあ、そうだけど》


(でしょ?)


 私は、窓の外を見る。桜が綺麗だ。新しい命が、また生まれる。それが、春というものだ。


 翌日、根倉きゅんがいろはを連れてきた。


 会議室のドアが開き、二人が入ってくる。いろはは、長い茶髪に色白の肌。グラマラスな体型で、オフショルダーのワンピースを着ている。まさに、色欲の半魔という感じだ。でも、その目には深い悲しみが宿っている。


「いろはさん、よろしくね」


 私は、笑顔で迎える。作り笑いじゃない。本当に、嬉しいんだ。


「こちらこそ」


 いろはが、笑う。その笑顔は、どこか寂しそうだった。きっと、まだ心の傷が癒えていないんだろう。


「ここでの面倒は、根倉きゅんが見てくれるから、思いっきり甘えていいよ」


「根倉きゅん……?」


 いろはが、根倉を見る。興味深そうな目だ。


「おじの魅力に気づいちゃうかもね」


「局長、三十七になってきゅんは、やめてくださいよー」


 根倉が、顔を赤くする。面白い。


「えー、でも、恋人も全部失った直後に私に惚れちゃった根倉きゅんだしなぁ」


「ちょ、それ、ほんとにやめてください」


 根倉が、慌てる。いろはが、クスクスと笑う。良い雰囲気だ。


「えー? 今は好きじゃないの?」


「素敵な人だとは思ってますけど、自分には勿体なさすぎます」


「そっかぁ。まあ、私、男とか無理だしね」


「……え?」


 いろはが、驚いた顔をする。その目が、少しだけ輝いた気がした。


「まぁ、いろはさんはそうでもなさそうだけど、ね」


 私は、ウインクする。いろはの頬が、少し赤くなる。


「こんな感じでゆるいところだから、気負わずやってね」


「は、はい」


「なんでも根倉きゅんが助けてくれるから」


「よろしくお願いします」


 いろはが、根倉に頭を下げる。根倉が、優しく笑う。その笑顔は、本当に優しい。


「こちらこそ」


(うん、いい感じ)


《お前、ほんとに世話焼きだな》


(だって、二人お似合いだもん)


《強制はしてないしなぁ》


 私は、満足そうに頷いた。二人の未来が、少しずつ形になっていく。




 数日後、私は高城兄妹を迎えに行くことになった。


 車を運転しながら、ポン吉に話しかける。春の陽気が気持ちいい。


(ぶっちゃけさー、子供の時の誇さんとか想像できんし、どういうスタンスでいけばいいん?)


《もうさ、依里と誇に結婚したい? させてあげるよとか言えばいいんじゃね》


(それだ!)


《はあ? 冗談で言ったんだが》


(完璧だよ、ポン吉。二人はもう魂レベルで好き合ってんだから、それで良いんだよ!)


《お前、ほんとに倫理観どうなってんだよ》


(いいじゃん、二人とも幸せになるんだから)


《もうさ、仲間になるならなんでも良いとか思ってね?》


(ちょっとね)


 私は、車を停める。目の前には、古いアパートがあった。外壁は剥がれ、階段は錆びている。ここに、高城兄妹が住んでいる。


(さあ、行くか)


《ああ》


 私は、車を降りる。アパートの階段を上る。一段一段が、きしむ音を立てる。


 そして、ドアをノックする。


「はい」


 中から、少年の声が聞こえた。警戒しているのがわかる。


 ドアが、ゆっくりと開く。そこには、十二歳くらいの少年が立っていた。黒髪の短髪。切れ長の目。すでに、凛々しい顔立ちをしている。でも、その目には疲れが見える。


「高城誇くん?」


「……はい。そうですが?」


 少年が、警戒した目で私を見る。知らない大人に対する、当然の反応だ。


「私、鏡昴と申します。八罪管理局という組織の者です」


「……何の用ですか?」


 少年の声は、年齢に似合わず低い。


「君と、妹さんを迎えに来ました」


「妹を?」


 少年の目が、一瞬で鋭くなる。妹を守ろうとする意志が、そこにある。


「妹に何かあったんですか?」


「いえ、大丈夫です。ただ――」


 私は、笑う。できるだけ優しく。


「君たち、大きくなったら結婚したいでしょ?」


「……は?」


 少年が、呆然とする。予想外の質問だったんだろう。


「結婚。君と、依里ちゃん」


「……何を言ってるんですか」


「だって、君たち、お互いのこと好きでしょ?」


「……」


 少年が、黙る。その沈黙が、全てを物語っていた。否定しない。できない。


「いいんだよ、隠さなくて」


 私は、優しく言う。この子たちを、責めるつもりはない。


「君たちは、半魔だから」


「半魔……?」


「人間じゃないの。だから、人間の法律に縛られる必要はない」


「……」


「結婚できるよ。ってかさせてあげる。私がそうする」


 少年の目が見開かれる。


「本当……ですか?」


「本当」


 私は、頷く。嘘じゃない。絶対に、この約束は守る。


「だから、来て。私たちの組織に」


「……」


 少年が、部屋の奥を見る。


「依里、出てきて」


 奥から、小さな女の子が出てきた。六歳くらい。黒髪のツインテール。可愛らしい顔立ちだ。でも、その目には不安が宿っている。


「お兄ちゃん……」


「大丈夫だ」


 少年が、女の子の手を握る。その手は、震えていない。


「この人は、俺たちを助けてくれる」


「……本当?」


「本当だ」


 少年が、私を見る。その目は、決意に満ちている。


「お願いします。俺と依里を、連れて行ってください」


「もちろん」


 私は、笑った。心から、嬉しかった。


「二人とも、歓迎するよ」


(よし、成功)


《お前、ほんとに……》


(いいじゃん、二人とも幸せになるんだから)


《もはや悪魔だな》


 私は、二人を車に乗せた。二人は、小さな荷物だけを持っていた。それが、全財産なんだろう。


 そして、管理局へ向かう。車の中で、二人はずっと手を繋いでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ