表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/105

本音

私は管理局の屋上に立っていた。


 風が、髪を揺らす。


 空は、青い。


 でも、私の心は――少しだけ、曇っていた。


(ねえ、ポン吉いま2044年だよね)


《ん、そうだけどどうした?》


(そうするとさ、この時代の私って今10歳だよね)


《ああ、そうだな》


(半魔に、なってるのかな)


《……どうだろうな。お前の時と同じなら半魔になってるだろうけど》


 私は、空を見上げる。


 雲が、ゆっくりと流れていく。


(確認したい)


《確認?》


(遠巻きに見れば分かるよね? 多分、向こうのポン吉もいるだろうし)


《……お前、大丈夫か?》


(大丈夫だよ)


 私は、笑う。


(ただ、気になるだけ)


《何かが違って、半魔になってない可能性もあるぞ》


(そっか)


 私は、呟く。


(でも、そうだったら良いなぁ)


《ったく。んじゃ、明日にでも確認だけしに行くか。確認だけだぞ?》


(ありがと! ポン吉)


 翌日、私は車で住んでいたアパートに向かった。


 住所は、覚えている。


 何十年経っても、忘れるはずがない。


 車を停めて、少し離れたところからアパートを見る。


 変わっていない。


 そして――。


「パパ、早く早く!」


 駐車場で女の子が飛び出してきた。


 黒髪のロング。


 明るい笑顔。


 それは――私だった。


 10歳の、私。


「はいはい、待って」


 その後から、男性が出てくる。


 父だ。


 私の、父。


(……生きてる)


《おい、大丈夫か?》


(生きてる……父さんが、生きてる)


《……ああ、そうだな》


 父は、笑顔で私の頭を撫でている。


 10歳の私は、嬉しそうに笑っている。


 その光景が、眩しかった。


(もしかしたら)


 私は、思う。


(魔物被害で死んでしまっていたのかもしれない)


《そうかもしれないな。だとしたら》


(私が、それを未然に防げていたのかもしれない)


《お前のやってきたことが無駄じゃなかった証明が出来たな》


(私、知らないうちに自分を救ってたんだ)


 少し複雑で、でも少し嬉しかった。


 その時、二人の会話が聞こえてきた。


「パパ、今日はどこ行くの?」


「秘密。でも、すっごく楽しいところだよ」


「やったー!」


 10歳の私が、跳ねる。


「ママは?」


「ママは、家でゆっくりしてもらうんだ」


「そっか」


「だから、昴は思いっきり楽しんで、お土産話聞かせてあげないとね」


「うん!」


 二人は、車に乗り込んだ。


 そして、走り去っていく。


(お父さんは、家族思いの人だったんだ)


 私は、呟く。


(私、お父さんの記憶は6歳までしかないから、ほとんど覚えていなかった)


《娘には楽しみを。妻には休息を》


(父親の理想だね)


 素敵な人だったんだ。私の、父は。


 そして――。


(母さんに、会いたい)


《おい》


(今日明日は、父さんと私もいないみたいだし)


《会ってどうするんだよ》


(わかんない)


 私は、正直に答える。


(でも、会いたい)


《未来のお前じゃ見て、わかるはずないんだぞ》


(わかってる)


 私は、歩き出す。


(でも、会いたいんだ)


《ほんと我儘なお姫さんだこと》


 なんだかんだ言っても、ポン吉は許してくれる。


 気づけば、アパートの部屋の前に立っていた。インターホンを押すか迷う。


(どうしよう)


《迷うくらいならやめとけって》


(でも……)


《あーもう好きにしろよ!》


 その時――。


 扉が、開いた。


「あれ、どちらさ……」


 母が、立っていた。


 そして――。


「……昴?」


 母が、私の名前を呼んだ。


「ごめんなさいね、そんなはずないのに」


 母が、笑う。


「なんだか、成長した昴に見えて」


(え……?)


 私は、固まる。


(なんで……)


「……かったの」


 私の声が、震える。


「え?」


「なんでわかったの」


「どういうこと?」


「私が未来の昴だって、なんでわかるの」


 涙が、溢れ出る。


「会わないって、帰ろうって思ったのに」


 母が、驚いた顔をする。


 でも、すぐに優しい顔になった。


「よくわからないけど」


 母が、私の手を取る。


「あなたが昴なら、お家に入りなさい。ゆっくり話聞かせてちょうだい」


 その言葉に、私は泣き崩れた。


 リビングで、私は母に全てを話した。


 紅茶を淹れてくれた母は、黙って聞いてくれている。


「今の昴と違って、私は6歳で半魔になったの」


「……半魔?」


「人間と魔物の、中間みたいな存在」


 母が、頷く。


「お母さんと、うまくいかなくて」


 私の声が、震える。


「話が、できなかったの」


「……」


「16歳の時、お母さんが魔物になったの」


 母の目が、少し悲しそうになる。


「でも、仲間ができた」


 私は、続ける。


「世界一大事な人が、できた」


「……そう」


「でも、全員死んじゃった」


 涙が、また溢れる。


「なんとかするために、過去に戻ったの」


「今よりもずっと昔」


「半世紀、頑張ってきた」


 私の手が、震える。


「でも、また同じことを繰り返してしまったらって、不安なの、怖いの」


「……」


「大好きなあの子に再会して、また好きになってもらえなかったらって」


 私は、顔を覆う。


「なんとか取り繕ってるけど、人の上に立つなんて私向いてない」


「……」


「もう全部投げ出して、やめたくなる」


 私の声が、かすれる。


「でも、そうしたら乙葉に会えないから」


「乙葉……?」


「逃げられないの」


 私は、泣き続けた。


 母が、私を抱きしめてくれた。


「よく頑張ったね」


 その言葉に、私は声を上げて泣いた。


「よく、頑張ったね」


 母が、私の頭を撫でる。


「辛かったね」


「……うん」


「苦しかったね」


「……うん」


「でも、よく頑張った」


 母が、優しく言う。


「あなたは、偉いよ」


 その言葉に、私は涙が止まらなくなった。


 何十年も、誰にも言えなかった。


 何十年も、一人で抱えてきた。


 でも――。


 母は、全部受け止めてくれた。


「ありがとう」


 私は、呟く。


「ありがとう、お母さん」


「こちらこそ」


 母が、笑う。


「話してくれて、ありがとう」


 私は、母の胸で泣き続けた。


 子供のように。


 しばらくして、私は落ち着いた。


 母が、また紅茶を淹れてくれる。


「ねえ、昴」


「……うん」


「その乙葉ちゃんって子、どんな子なの?」


 母が、優しく聞く。


 私は、少し笑う。


「すごく可愛いの」


「そうなの?」


「うん。ふわふわで、ぽやぽやで」


 私は、乙葉のことを思い出す。


「いつも笑ってて、優しくて」


「……」


「でも、寂しがり屋で」


 私は、続ける。


「一人でいるのが、嫌いなの」


「そっか」


「だから、いつも一緒にいたかった」


 私の目から、また涙が溢れる。


「でも、守れなかった」


「……」


「私のせいで、死んじゃった」


「昴……」


「だから、今度こそ」


 私は、拳を握りしめる。


「今度こそ、守りたいの」


「……そう」


 母が、私の手を握る。


「なら、頑張りなさい」


「……え?」


「あなたなら、できるよ」


 母が、笑う。


「だって、もう半世紀も頑張ってきたんでしょ?」


「……うん」


「なら、あと少しだけ頑張りなさい」


 母が、私の頭を撫でる。


「その子に会うまで」


「……」


「そして、幸せになりなさい」


 その言葉に、私は涙が溢れた。


「……ありがとう」


「頑張ってね」


「……うん」


 私は、頷いた。


 そして――立ち上がった。


「もう、帰らないと」


「そう」


 母が、玄関まで送ってくれる。


「また、来ていいかな」


「いつでも」


 母が、笑う。


「いつでも、待ってるから」


「……ありがとう」


 私は、母を抱きしめた。


 そして――家を後にした。



 車の中で、私はポン吉に話しかける。


(ねえ、ポン吉)


《ん?》


(ありがとう)


《オレは、反対してただけだぞ》


(でもいつも最後は背中押してくれるじゃん)


《……それがお前の決めたことなら協力するしかねぇだろ》


 ポン吉は、いつもそうだ。


《オレはお前のなんだ? 相棒様だぜ?》


(ふふ、そうだね。最強無双の相棒様だもんね)


《おう、頼むぜ最高無敵天才美少女》


(もう67歳の美少女だけどね)


 私は、前を向く。


 道路が、まっすぐ続いている。


《ロリでは無いから、ロリババァでは無いよなぁ》


(16はロリでも良いんじゃ無い?)


《んじゃ最高無敵天才美少女ロリババァだな》


(なんかめっちゃ強そうで、物語終盤で仲間庇って死にそう)


《お前は死なない。オレが守るから》


(アウトじゃねそれ)


《んま、最強コンビは負けねぇから大丈夫だ》


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ