第30話 課題だらけの勝利
「逃げちゃったってことはぁ、世界のどっかにはいるってことなんだよねぃ」
炎剣エフリートを鞘に収め、のへのへとサリエリが首を振った。
改めて見ると、かなりぼろぼろの姿である。
胸当てもショルダーガードも、もう防具としては役に立たないだろうってレベルで壊れているし、体中傷だらけだ。
間断なくメイシャのロングヒールが飛んでいたのにこの状態か。
アスカも似たようなもの。
うちのエースアタッカーとセカンドアタッカーをここまで追い詰めるなんて、本当にとことんバケモノだな。邪神ハスター。
「充填完了。二人とも近くに来てくださいな。ちゃんと回復いたしますわ」
俺の腕の中からぽんと立ったメイシャが手招きする。
戦域に入らないでの回復って、結局ロングヒールしかないんだって。
でもそれって、上位の悪魔を相手取って戦ってるときにはいかにも力不足だよなぁ。
かといって、いくら戦闘訓練を受けているとはいえプリーストのメイシャが前線に出るのは自殺以外のなにものでもない。
詠唱する時間すらなくバッサリやられて終わりだろう。
「もうちょっと食らわないで戦ってくださいな」
「無理!」
なぜか胸を張ってアスカが答える。
「こんくらい踏み込み浅かったら当たらないし! でも踏み込んだら食らっちゃうんだよ!」
人差し指と親指で半寸(約一センチ半)ほどの隙間を作ってみせる。
おいおい。そんな距離感で見えないほど高速の攻防をしてんのか、こいつら。
死ぬわ。
俺だったら確実に死ぬわ。
「アスカっちはぁ、計算じゃなくて本能だけどねぃ」
「本能じゃないもん! 経験と読みだもん!」
きゃいきゃい騒いでるのは、なんとか強敵を退けた安心感からだろう。
どっちに転んでもおかしくなかった。
本当に、前線に飛ばす回復に関してはなにか考えないといけないな。
メイシャが永遠にロングヒールを使い続けないといけないってのは、他の支援魔法が使えないってこと。
けっこう死活問題だ。
「全力で戦ってピヤーキーを四機撃墜。ひどい戦果ですね」
落ちている矢を拾いながら、ユウギリがため息をついた。
前にビヤーキーを駆る『名状しがたき教団』と戦ったときには、二十機もいるような大編隊だったのである。
今回は、たったの七機。
なのに戦果は大きく異なる。
「放った矢は三十以上なんですけどね」
「しかたないスよ。あいつら速すぎるス。あと石火矢の命中精度が悪すぎス」
やれやれと肩をすくめるメグ。
ユウギリがたくさんの囮矢を使ってピヤーキーを誘導しても、肝心の石火矢が外れてしまうらしい。
一発で使い捨てるしかない虎の子の必殺武器なのに。
「射角が十度から二十五度くらいの間でランダムに狂ってるってのは、さすがに勘弁して欲しかったスよ」
嘆いている。
ていうかむしろ、そんなもんを使ってよく四機も墜したなってレベルだ。
一丁ごとに狂い方が違うって、なんの拷問だよ。
しかもビヤーキーは速い。
ハスターは大気圏内だと百キロくらいって言っていた。それがどの程度のスピードを指しているか判らないけど、正直狙って当てられる速さじゃないと思う。
ということは、どういうルートで飛ぶかを予測して、進んだ先に石弾が到達しないといけない。
この予測の部分がユウギリの腕の見せどころで、ここに逃げるしかないって場所に追い込んでくれるわけだ。
ところが肝心の石火矢の斜線が狂っていて外れてしまう。
これはさすがにしょんぼりだよな。
「せめて対消滅弾の投射がなければ、私も攻撃に加われるんですが」
ミリアリアも悔しそうだ。
フレアランスやアイシクルランスみたいに、当たらないならほっとけば良いって攻撃ではないらしいからね。
確実に相殺しないといけないんだと。
つまりさ、対消滅弾とやらを撃たれている限り、ミリアリアはその処理に忙殺されるってことなんだ。
「これも問題だよな」
いまさら言うまでもなく『希望』の最大火力は魔法使いのミリアリアだ。
魔法は詠唱時間があるから弓矢みたいに融通は利かないけれど、一発が大きい。
ミリアリアの場合は、スリーウェイアイシクルランスクァドラルってのが一番強い。つまり十二本のアイシクルランスだ。
オーガーを十二体、一撃で氷像に変えることができるって考えたら、たった一人で一つの騎士団より強いかもってレベルだよ。
「ミリアリアがいないパターンの戦術を考えろってことだよな……」
俺はガリガリと頭をかいた。
できるかなぁ。
『希望』の初期メンバーだから、これまでいるのが当然で作戦を組み立ててきた。
メイシャもそうなんだけどね。
この二人が機能しない状態での戦いって、普通に考えたらしんどすぎるな。
「母さんが前に出れば良いってのは却下ですからね?」
「わかってるよぅ」
何も言ってないのにミリアリアに釘を刺されちゃった。
「しかたないスね。ネルダンさんが余裕で勝てる相手って、オークがせいぜいスから」
にひひとメグが笑う。
どうだ? 月光があるんだし、牛頭や馬頭みたいな魔人とも戦えないかな?
むうと腕を組んで考える。
なぜか娘たちが大笑いした。
と、そのときである。
新トレントの方から土煙が見えた。軍団が動く独特の気配も伝わってくるから、たぶんケイが軍を動かしてくれたんだろう。
定刻に到着しないってだけで、すぐに危機を察知して出撃を命じる胆力はさすがだよ。
ただまあ、遅きに失してるんだけどね。
ハスター逃げちゃったし!
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