第28話 石火矢
びっくりして振り返ると、メグがなんと石火矢を構えていた。
立ち上る白い硝煙。
なんであなたが石火矢もってるの?
「こんなこともあろうかと何丁かパクっておいて正解だったスね」
「どんなことだよ! あと、王妃ともあろうものが盗みをすんな!」
思わず突っ込んじゃった。
戦闘中なのに。
新トレントにいったとき、よくメグがふらっといなくなってたんだよね。
工房に忍び込んでは石火矢を持ち出してジークフリート号に隠していたってことか。
とんでもねえ野郎だな。
ヒエロニュムスとケイに言って、在庫数の確認を徹底させないとダメだなこりゃ。
「でも、役に立ったスよ。愛しのダンナさま」
ぱっちんとウインクする。
くっそう、言い返せねえ。
メグが持ち出した石火矢は、戦況を変えるだけの力のある切り札だ。
「ユウギリが弓矢で追い詰め、とどめはメグ。二人で連携してビヤーキーの数を減らしてくれ」
「判りました」
「了解ス」
ユウギリが放つ矢によってビヤーキーの動きがコントロールされる。
なにしろ彼女は、この戦闘機の弱点は後部にある磁力機関フーンであることを知っているから、そこを狙って射撃してくるのだ。
ビヤーキーは食らうわけにいかない。
すると避ける方向が限定され、メグの石火矢の餌食になる。
一機、また一機と火球に変わっていく。
「驚いたね。きみたちの文明レベルで、まだ銃器は生まれないはずなのに」
アスカやサリエリと危なげなく戦いながらハスターが感心する。
よそ見をする余裕があるんだよ、こいつ。
アスカもサリエリも、一言すら発しないで集中してるってのに。
「さすが私のお母さんだ。想像を軽々と超えてまくれる」
楽しそうだ。
すごく楽しそうだ。
でもハスターさん、石火矢を作ったのは俺じゃないんですよ。あと、あなたのお母さんになったおぼえは、まったくないですから。
そこんとこよろしくね。
ビヤーキーの数が減れば減るほど、投射される対消滅弾とやらの数も減る。
すると、迎撃しているうちの大賢者さまにも余裕が生まれるんだ。
いずれ攻撃に加わることができるだろう。
「ママ……」
ふらりとよろめいたメイシャを支える。
それより問題はこっちだ。
戦闘開始以降、切れ目なく遠距離回復を飛ばし続けているのである。
アスカもサリエリも、斬り込むたびに傷を負うから。
ちょっとでも回復が途切れたら、そのまま一気に敗勢に追い込まれる。そういう次元の戦いなのだ。
アスカにロングヒール、サリエリにロングヒール、アスカにロングヒール、サリエリにロングヒール、と、まるで永久機関のように使い続けていたのある。
さすがに疲労も限界だろう。
俺は隠しから携帯食料を出そうとしたが、メイシャがその手を押しとどめた。
食べている間に詠唱が途切れる、と目で訴える。
一拍の回復の遅れが致命的な敗因になる。そういう話なのだ。
「わかった。せめて俺にもたれて、少しでも楽な姿勢を取るんだ」
メイシャの肩を抱き、体重を預けさせる。
彼女が回復できない以上、わずかでも消耗を少なくする方法をとるしかない。
もしこちらに攻撃が飛んできたら、俺がメイシャを抱えて避ける。
それしかないだろう。
どんどん加速するアスカの七宝聖剣。
応えるようにハスターの動きも速くなっていく。
剣と剣型触手がぶつかり、魔力が過負荷の悲鳴をあげて火花が散る。それが連鎖して、二人の顔がまるでフラッシュライトを浴びたように輝く。
ただの殺し合いなのに、どこまでも美しい。
人が神にどこまで迫れるか、あるいは超えるのか。
問いかけと答えみたいだ。
「……それにしてもバケモノだな。邪神ハスター」
やつの相手はアスカ一人ではない。
絶妙としか表現できないタイミングでサリエリが攻撃に加わるのだ。
アスカの攻撃を避けた瞬間に、絶対に回避も防御もできない間合いでのサリエリの攻撃。
並の相手だったら、百回以上は倒している。
なのにハスターは、絶対に避けられないはずの攻撃を避け、それどころかアスカとサリエリにしたたかな一撃を加えるのだ。
メイシャの回復がなければ、二人ともとうに倒れていただろう。
千日手めいているが、追い詰められているのはアスカたちの方だ。
永遠に回復魔法を使い続けることはできない。むしろすでに限界が近いのである。
もう一手、なにかもう一手あれば戦況を変えることができるかもしれないが、その手を俺の頭ははじき出すことができない。
俺ごときが戦域に入れば邪魔になるだけ。
かといって皓月千里で狙うには三人の動きが速すぎる。
ビヤーキーが全滅すれば、ミリアリアとユウギリが攻撃に加われるから、あるいは違う手が撃てるかもしれないが……。
それはハスターも判っているだろう。
どんどん攻勢を強めている。
アスカより、まずサリエリを片付けようとしているのかな。
僅差だと思うけど彼女の方が弱いし、嫌がらせ攻撃に徹するいやらしさもある。自由に動かれて、より厄介なのはサリエリだ。
攻撃の比重が変わったことに、サリエリ自身が気づいたのだろう。目が猫のようにすぅっと細まり、バックステップで距離をとろうとする。
ちゃんと迎撃するために。
だがそれは悪手。
無策の後退を許すような相手じゃない。
「だめだ! うかつすぎる!」
俺は思わす声を出してしまった。
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