第27話 名前をおぼえないでください
半町(約五十メートル)ほどもありそうな巨体がみるみる縮み、俺たちにとっては見慣れた少年の姿となる。
すごく、すごく嫌だけど、ジークフリート号を降りて対峙した。
娘たちが全員揃っていたのは僥倖と言うべきだろう。
「……こなくて良かったのに」
「つれないことを言うなよお母さん。すごく急いだんだぜ。途中でアザトースのうんこ野郎に追い越されちゃったけど」
邪神ハスターがフレンドリーに笑う。
とりあえず、お母さん呼びをやめてもらって良いですかね。
「積もる話もいろいろあるけど」
「ないない。まったくない」
「さっそく始めようか」
「話を聞けよ」
軽口を飛ばしあいながらも、俺たちは戦闘態勢へと移行する。
一度は共闘したハスターだけど、人類の敵である悪魔だという事実はまったく動いていない。
いつか必ず戦い、倒さなくてはならない相手なのだ。
前衛はアスカとサリエリで前者が右側。
中衛は俺。
後衛に左からユウギリ、ミリアリア、メイシャ。
メグは遊撃の位置につく。
「うんうん、こうでないとね。こうして戦える日を心待ちにしていたんだ」
ハスターの両腕が鋭利な刃のようなカタチになった。
これ、触手みたいに伸び縮みするし、曲がったりもするから注意が必要だ。
「さあ存分に死合おう!」
言うが早いか、ハスターの姿が消える。
次の瞬間、俺の目が捉えたのはアスカと鍔迫り合いをしているハスターだった。
どっちの位置も、最初に立っていたところから五間(約十メートル)も移動している。
きぃんという甲高い音は、遅れて聞こえてきた。
と思ったら、ハスターがとんぼを切り、彼のいた場所を炎剣エフリートが通過する。
つまり今の一瞬の攻防って、斬りかかったハスターをアスカが受け止め、動きを止めたところを突いてサリエリが攻撃したってことか。
で、アスカと斬り合いを続けるのは危険と判断してハスターが距離を取った、と。
目で追えないから、想像するしかないんだけど。
「と、とにかく援護を!」
とんでもない次元の攻防に一瞬だけ自失してしまったミリアリアが魔法で援護しようとする。
速すぎて狙いが定められないという経験を一度しているため、いくつか方法を考えているらしい。
初めて会ったときから、ミリアリアは必ず戦訓を拾うのだ。
失敗した、では絶対に終わらない。
どうすれば次はうまくいくのかをすぐに模索する。
ドラゴンゴーレムとの戦いから巨大な敵との戦い方を考え出したし、バァルやアスタロトとの戦いから、とんでもなく速い相手と戦う方法を編み出す。
俺がミリアリアを賢いと手放しで褒めるのは、本番に弱いという欠点を自覚して、その穴を埋める努力を惜しまないからだ。
どうせ自分なんか、という諦めとは、うちの娘たちは対極にいる。
「けど、君たちがそういう人間であることを、私はもう知っているんだ」
ハスターが笑った瞬間、ピヤーキーが何機か後衛に向かってきた。
三本の足を動かしてなにかを投射してくる。
「対消滅弾!? まずいです!」
謎の焦りを見せたミリアリアがフェンリルの杖を振れば、闇色の光としか表現できないようななにかが打ち上がり、ピヤーキーが投げつけたなにかと衝突して、何こともなく消える。
なんだそりゃ?
「へえ。物質と反物質を解明できたんだ。さすがは大賢者ミリアリアといったところかな」
「……名前を憶えないでください。忘れてください」
自らの身体を抱くようにして嫌がる。
判るわ。
悪魔に顔と名前を一致されるって、本気で嫌すぎるよ。
「大丈夫、『希望』のことは、全員ちゃんと判ってるから」
にこやかに邪神ハスターが告げる。
何が大丈夫なのか、さっぱりわからない。
「ただ、私は闘神アスカと勇者サリエリと満足いくまでお見合いをしたいんだ。それまできみたちの相手はビヤーキーたちが務めるよ」
ハスターの言葉に呼応するように、七機のビヤーキーが迫ってくる。
操縦している者はいない。
自動で動くものなんだな。
そして、『名状しがたき教団』が使っていたときより、はるかに動きがいい。
「……やりますね」
次々に放たれるユウギリの矢をアクロバチックな動きで回避する。
上に人がいないから平然と宙返りとかできるんだな。
なかなか非常識な機動で距離を詰めてくる。
そして散発的に対消滅弾とやらを投射してくるから、ミリアリアは相殺するのに手一杯だ。
「反撃はできないのか?」
「無理です。あれ一発でも当たったら、直径一町(約百メートル)くらいが消滅しますよ」
「なにそれこわい」
俺の記憶がたしかなら、あなたヒノモトで使おうとしていたわよね? それ。
とにかく、魔素爆発なみにやばいってのは判った。
「それなら!」
ユウギリの周囲に十本矢が遊弋し、同時に放たれた。
それは不規則な軌道を描き、やはり不規則な動きで逃げるビヤーキーを追い詰める。
「ちょこまかと!」
「本来は宇宙戦闘機だから大気圏内では時速百キロくらいしか出ないけど、それでも弓矢で狙って当てられるほど遅くはないよ」
アスカと切り結びながらハスターがアドバイスしてくれる。小憎らしいったらありゃしない。
ユウギリの矢はピヤーキーを追い詰めることができるが、決め手にならない。クリーンヒットしないのだ。
もっと早い攻撃でないと。
と、俺が思った瞬間、どおんと腹に響く音が鳴り、ピヤーキーが空中で四散した。
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