第9話 ちょっと寄り道
ガイリアからインゴルスタまで八日くらいだ。
ジークフリート号の俊足を考えればかかりすぎな気もするけどこればっかりは仕方がない。
北部は浮遊列車用の走行レーンが整備されてないから、普通に街道を走るしかない。全速力でかっ飛ばしたら、そこら辺の旅人たちをみんな撥ねちゃう。
といっても、歩きの旅なら一ヶ月近くかかるからね。
それと比較したらずっと速い。
「とはいえ、車窓を過ぎていく宿場を眺めるとつらいものがありますわ。いくつの名産を食べ逃したことでしょう」
嗚呼、と、やたら芝居がかった仕草で嘆くのはメイシャ。
彼女のいう旅とは宿場ごとの名産に舌鼓をうち、景気などを眺め、ときに寄り道などをしながら歩むものなのだそうだ。
高速で駆け抜けるジークフリート号は単なる移動であって旅ではないと普段から主張している。
「せっかく宿が用意してくれた食事をとらないで寝ているという方もおりますが、旅人の風上にも置けませんわね」
「そんなもんじゃろうか」
「至高神だってお許しになりません」
「そんなに心狭くないだろ」
くだらない話をしているうちに、四日目の逗留予定地であるサーシャンの街壁が見えてきた。
リントライト王国時代から交易の中継地として栄えてきた街で、王国崩壊後は一時的に苦しくなったらしいけど、新生ガラングランの勃興に伴って活気が戻ったという。
まあガラングラン以外にもロンデンだのガイリアだの大国があるし、もっと南に目を向ければマスル王国だってある。
商売相手には事欠かないだろう。
「サーシャンといえばタマネギですわね」
リントライト王国崩壊後、都市国家となったサーシャンはタマネギの一大産地として有名なのである。
季節になると、ものすごい量のタマネギを満載した『タマネギ馬車』がリントライトの各都市に向けて走ったものだ。
「けどメイシャよく知ってたな。タマネギは肉じゃないぞ」
「ネルママはわたくしをなんだと思ってるのですか? 野菜だってちゃんと好きですわよ」
ぷんすかと怒る。
まあこの娘、好き嫌いはまったくないからね。
「どちらかといえば肉の方が好きなだけですわ」
そういうことらしい。
何でも食べる子元気な子、ということでいいのだろうか。
ミリアリアもこのくらい食べればなあ。あいつはとにかく食が細いから。
「それに、サーシャンの名産はタマネギだけじゃありませんわ。鶏肉もなかなかのものです」
寒い地方だからトリも肉付きが良くて脂ものっており、大変おいしいのだという。
「となると今夜はトリ料理かな。楽しみだ」
メイシャがみつけてくる飯屋にハズレは存在しないからね。
薄付きの衣をつけてからっと揚げた鶏肉。そいつに刻んだタマネギと卵黄とビネガーのソースをかけて食べる。
「こいつはなかなかうまいな」
「でしょう」
さっくりジューシー。そしてソースの酸味とタマネギの辛み。
くせになりそうだ。
アスカやメグ、食の細いミリアリアも喜んで食べている。
インゴルスタの客人たちもね。
さすがメイシャが選んだ飯屋だ。間違いがない。
「とはいうものの、もうすぐこの料理も出せなくなるんですよ。王様」
褒め称えると、料理人が寂しそうに笑った。
町一番の養鶏場と、町一番のタマネギ農家が仲違いしてしまい、絶対に取引するもんかという大げんかに発展しているらしい。
で、両方の食材を使った料理屋にも影響が出ている。
あいつのところの食材を仕入れるなら、うちはもう卸さないからな、と。
「ありがちだけど、めんどくさい話スね」
メグがやれやれと両手を広げた。
花街なんかでも似たようなことは多いらしい。あそこの店に出入りしているような客はうちに入れない、みたいな感じで。
客を取ったとか、仁義を欠いたとか、ひとつの店の中でもトラブルに発展したりもするんだって。
なかなか面倒な話だけど、こればっかりは人間関係だから仕方がない。
冒険者だって色々あったしね。
「それは許されませんわ!」
決然とメイシャが席を立つ。
うん、こうなるような気がしていました。
おいしいものを食べるためなら、平気で至高神の教えすら曲解してみせる娘だもの。
食べられなくなるなんて話を聞いたら、そりゃあ放っておけないですよね。
「仕方ないね! メイだからね!」
元気に協力を申し出るのはアスカ。まあ、仕方ないねで済んじゃうのは、アスカのバトル好きもミリアリアの研究好きも一緒だから。
「まあ、会ってみるか。農場主と養鶏場の主に」
人間関係というか、感情的な対立って面倒なんだけど、放置すると迷惑を被る人も多そうだからね。
こんなしょーもないこで、店を閉める飯屋が出てきたら、笑うに笑えない。
「でたスね。ネルダンさんのお節介」
やれやれと肩をすくめるメグだが目が笑っている。
なにさ。
言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。
「言っていいんスか?」
「おう。なんでも言ってみろや」
「困ってる人がいたらほっとけない。こういうお人だからオレは好きになったんだろうな、って再確認したんスよ」
「ぐっは……!」
突然の告白にのけぞってしまう。
他の娘たちがクスクスと笑っていた。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




