第8話 インゴルスタの使者
「なんというか、軍師すげえな。よくもまあもっともらしく嘘を並べたもんだよ」
アレクサンドラが感心する。
「誰のせいで、ない知恵を絞ってると思うんだよ」
ほんとね、勘弁してくださいよ。
こいつがガイリアに駆け落ちしてこなければこんな苦労はなかったんだ。
なーんでうちにきちゃうかなぁ。
「じんとくぅ?」
息をするように俺の内心を読み、のへのへっとサリエリが笑う。
せめて疑問符をはずせや。
「あとはぁ、これを吟遊詩人たちに広めさせればいいねぇ」
そう言って執務室を出て行く。
メグが指導している斥候たち、『ガイリア王国軍諜報部』に仕事を頼むためだ。
「俺ができるのはここまでだぞ。アレク、ミゲル」
「持つべき者は頭の切れる親友だな!」
がはははと笑うアレクサンドラと、恐縮して低頭するミゲル。
これで好き合ってるんだから、世の中は不思議と不条理に満ちてるよなぁ。
一ヶ月ほどして、インゴルスタからの使者がきた。
情報工作が彼の地まで浸透したのである。
「ニーニャ。久しぶりだな」
「このたびは、うちのアレクさまが大変ご迷惑をおかけしました」
ふかぶかと頭を避けるのは、俺たちとも縁があったニーニャだ。
彼女が使者である。
「良い感じのシナリオまで考えてもらって、ピリムさまも胸をなで下ろしてました」
「もうこりごりだけどな」
俺は肩をすくめてみせた。
なにが悲しくして、他国の重臣の結婚事情に首を突っ込まないといけないんだって話だよ。
「すみませんねぇ、うちのアレクさまが」
もう一回いって、揉み手などするニーニャ。
「なあニーニャ、あたし下げられすぎじゃないか?」
「だまらっしゃい。理解があるライオネルさまのところに逃げ込んだから事なきを得たんですからね?」
ぴしゃりとアレクサンドラが叱られた。
まあね、俺は彼女を政治的に利用するつもりはないけど、他の国もそうだとは限らない。
インゴルスタの弱みを握ったと喜ぶ可能性もあるのだ。
「今回の骨折りに対して、ピリムさまが自らお礼を言いたいそうです」
「判った。それならアレクを送りがてらインゴルスタに赴こう」
「ライオネルさまご自身が?」
「俺以外にジークフリート号を動かす資格を持ってないんだよ」
我がガイリア王国にとって、最も強力な『兵器』であるフロートトレインは、俺が車長席に座したときのみ動かせる、というルールにした。
正妃たちも、大将軍にも参謀総長にも資格は与えない方が良いとキリル参謀に言上されたのである。
切り札だからね。
で、まさか身重のアレクサンドラを徒歩で帰らせるわけにいかないだろ。
「それに、即位の挨拶もまだだったしな。この際だから首脳会談としゃれこもうじゃないか」
「ライオネルさまがそれで良いなら、私たちに否やはないです」
こくりとニーニャが頷いた。
勝手に決めちゃっているけど、彼女は特使。全権代理なので問題ない。アレクサンドラもいるしね。
四名臣のうち二人が揃ってるわけだから、勝手なことをって本国の人たちは怒れないんだ。
「ですが、ガイリアのことはよろしいんですか?」
即位して一年も経ってないのに国を留守にして良いのかという問いである。
そういう質問が浮かぶくらいまでニーニャは成長したんだね。
グリンウッドの城で雑役をしていた娘が。
感慨深いよ。
「後事は官房長官とサリエリに任せて問題ない。いっそ俺よりうまく統治できるんじゃないかまである」
のろけではなく事実だ。
官房長官のジェニファと、副将格のサリエリ。それから侍従長のアニータがいれば、まったく問題なくガイリアを回せる。
で、一緒に行くのはアスカとミリアリアとメイシャとメグの四人。
「嫁を連れて挨拶ですね。色男さん」
「人聞きが悪い」
近衛隊長、宮廷魔術師、筆頭神官っていうのは随員としてまったくおかしくないから。
そして斥候役のメグは外せないでしょ。常識的に考えて。
「その四人が全員嫁だってのが常識的ではないって話ですよ。ライオネルさま」
にひひひと蓮っ葉に笑うニーニャ。
このへんは変わってないなあ。
そして出発の日である。
「じゃあいってくる。後のことは頼んだぞ」
「わかりました。置き去りにされた嫁たちは、悲しみに泣き暮らしますね」
「すぅてられぇたのぅ~」
「兄上がいない間に玉座を奪ってやろうぞ」
ジェニファとサリエリの腐れ演技はともかくとしても、ケイの発言は不穏当過ぎるから勘弁して欲しい。
王妹ってことで唯一の血縁だからね。
本気で洒落にならんのですよ。
「奪っても良いけど、そのあとちゃんと統治してくれよ」
「それはめんどくさいから、奪わないでおいてやろう」
「助かるよ」
などとくだらないやりとりをしてから、ジークフリート号に乗り込む。
操縦室には、すでにアスカ、ミリアリア、メイシャ、メグの四人が待っていた。
操縦席はアスカ、観測席はメグ。あと二人はべつに役割がないんだけど、なんとなくみんな操縦室に集まってしまう。
昔からそうだよね。
インゴルスタからの客人たちは三号車。先頭からも最後尾からも遠いこの車両を、なんとなーく貴賓室として使ってる。
前にスペンシルに行ったときは、メアリー夫人たちに使ってもらったね。
「母ちゃん! 準備できてるよ!」
アスカの声に軽く頷き、車長席に座る。
「ジークフリート号、発進!」
「「あいあいさ!」」
俺の号令に娘たちが唱和した。
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