第10話 墓石と仲直りしたって仕方ない
だだっぴろい敷地で、思い思いに鶏が遊んでいる。
元気そうに丸々と肥えたやつが多いね。
どいつもこいつも美味そうだ。
「……母さん。一羽くらいパクってもバレないかな? とか思ってませんよね? 念のために訊きますけど」
「ミリアリアは俺をなんだと思ってるんだ。ちゃんと代価を払うつもりだったぞ」
「食べる気は満々じゃないですか」
はぁぁぁ、と呆れるミリアリア。
いやいや、こんなに健康的で美味そうな鶏を見て、食欲に直結しない方が問題だって。
「ぐぐぐぐぐ軍神ライオネルさま!?」
来意を告げると、農場規模に相応しいでかい屋敷の奥から、こけつまろびつ主が飛び出してきた。
血色の良い中年男で、禿げ上がった頭が良い感じに光っている。
「ちょっとハイデンさんに似てるね」
こそっとアスカがささやきかけてきた。
農業従事者特有の日にやけた肌と禿頭から連想したんだろう。
顔立ちはまったく違うのに。
「とつぜん押しかけてすまないな、シトリン。昨夜街でお前さんのところの鶏肉を食ってな。あまりにも美味くてこいつは礼を言わねばなるまいと思ってな」
「恐懼の極みでございます……!」
平伏しようとするのをミリアリアとメイシャが微笑みながら止める。
プライベートだからと。
ガイリア王として訪ねるなら、サーシャン王に話を通してからじゃないと筋が通らないからね。
あくまで個人として礼を述べにきたって体でないと。
「で、ちょっと気になる話をきいてしまってね。農場のモンドルとケンカしてるんだって?」
「…………」
ばつが悪そうにシトリンが黙り込んでしまった。
その仕草で、対立が根深いものではないと俺は悟る。
心の底から憎んでいるとかいうケースだったら、相手に対する罵詈雑言がまず飛んでくるからね。
黙り込んじゃうってことは、自分も悪かったとまでは行かなくても大人げないかなくらいは思ってるってこと。
「お節介だと判ってるんだけど、和解の手伝いができないかと思ってな」
「……なんでそこまで……」
他人事でしょうに、と。怪訝な顔をするシトリン。
そうなんだけどね。
だけどさ、しょーもない対立から始まって、最後は命を取り合うという決着しかなかった例もあるんだよ。
そうなる前に引き返せるなら、それにこしたことはないさ。
「なあシトリン。墓石と仲直りしたって仕方ないだろ。墓すらないなんてケースもあるしな」
「……『落日に舞う蝶』ですか、ライオネルさま」
「あれほとんど作り話だけどな。最後、俺とルークが殺し合わないといけなかったのだけは本当のことなんだ」
ちょっとだけほろ苦い表情で言う。
どうせ作り話なら、ハッピーエンドにしてくれれば良かったのにな。
最後はルークが自分の非を認め、真人間になるとか。
そういう結末にしてくれたって良かったのに。
「……わかりました。軍神ライオネルにそこまで言われて、なお我を張ったら私も男が立ちません」
頭を下げましょう、と、シトリンが言ってくれた。
立派な御仁だね。
まあ、鶏たちを見ればプライドを持って仕事をしているのが判る。仕事を見れば人間性が判るってやつの好例だろう。
そしてジークフリート号にシトリンを同乗させ、その足でモンドル農場へと向かう。
余談だけど、『機械の勇者』ジークフリート号に乗れることに大興奮だったよ。なんか、俺たちに会ったときより興奮していた。
メアリー夫人もそうだったけど、ジークフリート号大人気である。
「シトリンに頭を下げられ、聖女メイシャ様にお願いまでされたら、突っぱねられませんよ。こっちが大悪党になっちまう」
大農場の主、モンドルが頭をかいた。
まあこの人も、深刻にシトリンを憎んでいたわけじゃない。
聞けば、農場主たちの寄り合いであったちょっとした口論が原因らしい。
その場で「ごめん言い過ぎた」って謝れば済んだ話だったのに、こじれてしまった。
本当に良くある話だ。
ありすぎて胸をちくりと棘が刺す。
俺にはあのとき、出て行くという選択肢以外にもあったんじゃないかと。
「は! 天啓がありましたわ!」
互いにばつが悪そうに和解するシトリンとモンドルを温かく見守っていたメイシャが声を上げる。
またかよ。
ぜったいろくな天啓じゃないよ。
いちおう俺、敬虔な至高神の信徒だけどさ。メイシャへの天啓だけは首をかしげること多いもん。
「おふたりの絆によってこそ輝く鶏料理。『絆のからあげ』と名付けるとよろしいですわ」
ほら、やっぱりろくなもんじゃなかった。
料理名の提案だったよ。
からっと揚げた鶏肉だからからあげ。そこに絆のソースをかけて『絆のからあげ』なんだってさ。
本気でどうでも良いな。
「良いですね。しっくりきます」
「出発前にもう一回食べたいね!」
ところが、ミリアリアやアスカにはすごく好評だ。
「絆、か」
「照れくさいが、私たちがケンカするたびに、英雄たちに出張らせるわけにはいかんだろう」
「まったくだな。シトリンさん」
「なんかあったら、その場でちゃんと言おうな。モンドルさん」
中年男たちが、がしっと手を組んだ。
まあ、これはこれで良かったのかな。
一日の寄り道しちゃったけど、無駄な行程ではないよね。
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