雨の中
………なんなのよ。
………なんなのよ。
雨の中、闇雲に走り立ち止まった時には既に全身ずぶぬれになっていた。
絶対怒られるよね。
まぁ、いいや。
どうせわずらわしいとしか思われてないんだから。きっとあと2年で解放されると思って我慢してたのよ。今更よね。だって、あんな風に黙って結婚してろなんて。なんて………なんて酷い。
ーーーーご飯食べてるときもわずらわしかったのかな。朝起こしてくれるのも、勉強教えてくれてるときも、送ってくれてるときも………。
怒るのは本当に煩わしかったからかな。
だからあんなにいつもキツい事言ってたのかな。
変なの。私は楽しかったのに。
いざ、本当に煩わしいと思われてたと分かると切ないなぁ。
家に帰りたくない。
まだ雨にうたれていたい。
ーーーーロンなんて大嫌い。
自然と足は屋敷と反対の方向に向かっていた。
普段は決して通らない道をどのくらい歩いただろうか、雨はやむことはなくひたすら降り注いでいる。
雨にあたりずっとずぶ濡れでいたため寒くてしかたない。自業自得とは言え今更だ。
震える手足を何とか動かし近くの木下に潜り込んで体を縮めた。震える唇や手足が少しでも温まるように。
ーーーー寒い。
何やってるんだろ私。
やっぱりバカなんだわ。
頬を伝う涙だけは温かく、自分が泣いていた事にきづかされる。雨の中では気づかなかった、私泣いてたんだ……。
その時後の藪がカサカサっとゆれた。少し怖くなって更に体を縮めて息を殺していると藪の中から雨具を羽織った男がでてきた。フードを深く被ってはいるけども体格からは男だとわかる。
怖い。
自分の感が警告している。この男から離れなくては。立ち上がろうとしてかじかむ手足がもつれて転んでしまった。そんな様子をみてか男はいきなり覆い被さってきた。
怖い。
感は当たっていた。男はアイネスに覆い被さると、両手を力ずくでおさえてきた。
……っ!
怖い。
怖いのに声がでない。
「へへへ。こんな所でこんな格好でウロウロしているって事は好きにしていいんだろう。さっきから見てたんだよ。」
耳もとで荒い男の息遣いが聞こえる。
いや!!!怖い!!
男はペロリとアイネスの耳から首筋へと舌を這わす。その舌の生暖かいざらついた感触が恐怖を掻き立てる。
ーーーー気持悪い!
それなのに恐怖に支配された体は身動きどころか、声すらあげることが出来ない。ただ、小刻みに震えるだけ。
男はアイネスの怯えている様子に満足したのか、片手でアイネスの両手を押さえつけ片手は太股に這ってきた。雨で体に張り付いたワンピースの抵抗むなしくいとも簡単にワンピースはたくし上げられてしまった。
怖い怖い怖い怖い!!!!
唯一出来る抵抗は堅く目を閉じるだけ。
タスケテ!!
ーーーー雨音で音は掻き消されている。誰もこの状況に気付く人はいないだろう。
思い浮かぶのは黒に包まれたあの男の顔
もはや完全な絶望につつまれそうになったとき、男は小さなうめき声とともに再びアイネスに覆い被さってきた。
ただし、今度は覆い被さったきり全く動かない。
ゆっくり、ゆっくりと震える瞼を少し開けるとフードの男は覆い被さったまま気絶しているようであった。
……………た………すかっ……た……の?
そう思った矢先ドカッと言う音とともに覆い被さっていた重みがなくなった。
ゆっくりとおそるおそる全ての瞼を開け起き上がってみれば、そこにはまた一人男が立っていた。その男は黒いスーツにつつまれ、漆黒の髪を滴らせ顔を歪ませてずぶ濡れの格好で息を切らしていた。
ーーーーロンだ。
「……っ!このっ……バカが!!!」
ロンは近づくと手をのばしてきた。その手がロンの手だと分かっていても、先程の男の手を連想させ体がビクリと震える。
怖い。
伸ばされた手は一瞬ためらいを見せたが、引っ込められることはなく逆に強く私を抱き締めた。
「良かった………。良かった…無事で……。」
ロンが消え入りそうな声で私に呟く。
耳もとで囁かれた声は初めて聞いた消え入りそうな声ではあったが、ロンが居ることを改めて教えてくれた。そして、抱き締められたロンの腕の中はずぶ濡れなのに温かかった。その温もりが急に安心感に変わり、私は大泣きしてしまった。
ーーーー怖かった。本当に怖かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
まだもう少しだけ雨は降ります。
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