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Oneilos de jarg

殴られた。当たり前だ。それ相応の罰。いいや、こんなものじゃ足りない。罰として不釣り合いだ。ティルアと約束し、そして彼はそれを破った。シャルムを守る。ただその約束さえも。


「あぁ畜生。解ってるさ。私はお前をぶん殴る権利なんて持ち合わせちゃいない。現状、シャルムを守れるのもお前しかいない。だからこれは八つ当たりなんだ。解ってんだよ」


「いや、俺にはぶん殴られる道理があります。今の一発は当然の報いです。守ると約束した、この身が滅ぼうとも。けどその唯一の約束さえ俺は……っ‼」


「うじうじしてんじゃねぇよ気持ち悪い。見合ってないなら、お前にもう一度チャンスをやる。私がルティアを預かる。だから。シャルムと一緒に迎えに来い。お前単体で来てもルティアは返さん。私が一生を掛けて愛でる。良いか。これは約束なんて低俗な物じゃない。誓え。今ここで。シャルムを助けだし、そして、お前も生きろ。それでようやく本当の罰をお前にくれてやる」


 ティルアの情けという訳でもない。今この現状を変えれるのは彼のみ。無名の少年ただ一人。ふざけている。英雄にはそれ相応の名前が与えられる。けど彼にそれは無い。何せただの平民だ。彼に語るべき名も物語も無い。だってそうだろう?どれだけの力を持っていたとしても彼の地位は変わらない。財力も、知恵も関係ない。必要なのは功績ただ一つ。守るべき約束を果たせなかった。


「行ってこい」


 ティルアはそういい、門を閉めた。これより先は本当の意味で、彼の物語となる。夢害への復讐或いは叛逆。負ける訳にはいかず、死ぬ訳にもいかない。


「今すぐに迎えに行く」


 そう呟き、彼は地面を蹴った。魔力による身体強化には限界がある。それ以上やれば身体が破損するという限界点が。しかし、彼はその現象を乗り越える事が出来る、形成魔術は想像による物だ。つまり、彼は想像のみで最強へと至れる。その域は最早アルス・マグナの領域なのだ。魔術の最奥ともいえるその錬金。解釈は違えど、彼の力はそれに等しい。

 街を拘束で駆け抜け、夢害を見つける。あれは一つの巨大な悪だ。見た目に惑わされちゃいけない。それに、あの球体からは、彼女の魔力を感じられる。救うにはどうすれば良いか。そんな事は考えなくていい。アイツを倒す。ただそれだけでいい。するべき事は一つだけ。


「Over de Iron farm『満たせ、我が鉄にも劣らんその願望』」


 効率化された魔術は、その球体へと走る。それは幾本にもなる剣と、複数の火矢。撃ち落とす為だけに形成されたそれを彼は躊躇いも無く、放つ。加減なんて必要ない。ここで決める。


「チィ。仕留める事は出来ないか。これまでで一番の強度なんじゃないのか!?」


 彼地面を蹴り、来るであろう攻撃を未然に躱す。あんな球体に意思があるとは思えない。自動追撃装置の様なものだ。あれは機械。故に感情は無い。敵を見逃せば、それは大きなロスになるはずだ。


「セヤァアァアアァッァアアァアアッ‼‼」


 彼の全力の雄たけびは、剣を振り下ろした時に発したものだ。グッグィンッ‼‼と嫌な音が響く。が、彼は再び、剣を形成する。そしてそれを足元に突き刺した。


「Began『起動せよ』ッ‼」


 短い詠唱と共に、剣を起点とした、半径十メートルあたりの土地は爆発する。座標を計算するのが難しければ何かを起点とすればいい。幸い、起点となるものは無限に作り出せる。


「なんだよ。お前はダイヤモンドか?傷一つ付いてないじゃねぇか」


 彼はまだ余裕がある。魔力の量になんら問題は無い。が奴は些か硬すぎる。

 彼は再び地面を蹴り、球体へと前へ出る。しかし球体はその形状を変化させる。イルアを取り込んだ時に見せた行動だ。彼は空気の障壁を形成する。それにより、球体は彼を取り込むことは出来ない。


「シャルムを返せ」


 ただその一言と同時に放たれた剣戟は、彼のボディを崩す事は出来ない。薄くなったはずの装甲も球体の時となんら変わり無い。どういう原理で動いているのかさえ解らないが理解する必要もない。彼に求められるのは理解なんてそんな物じゃない。奴を淘汰する為の力。想像力に伴う精神力だ。けど、それはもう十分にそろっている。シャルムを救うという一つの目標は彼の精神力へとなり替わっている。シャルムを助け出したい。たったそれだけの目的で彼はその境地へとたどり着く。それほど彼は彼女の事を愛しているから。


「そうだ。それだけ良いんだ。俺達が営んできた平和という日々が夢だったというのなら確かにお前達は夢害だ。元が人間だろうと関係ない。赤の他人に慈悲を掛ける程俺は優しくない」


 大量の武器が空中へと形成され、固定化される。それはさながら戦争における銃弾の数。


「俺は正義の味方だとか、ヒーローとかなんかじゃないさ。解ってる。俺みたいな奴がヒーローなのなら、俺の周り全員がヒーローになっちまう」


 最後に再び一つの剣を形成した。それはシャルムに渡したそれともまた違う。それよりももっと凶悪なそれを彼は握る。


「なぁ」


 と言葉が通じるかも解らない様な相手に言葉を投げた。


「お前は一体何の為に存在しているんだ?」


 ただその言葉に意味があったというのなら、きっとそれが真実に値するものになるのだろう。


「これは最早戦争だ。人類はこれを以てお前達夢害に勝利を収めよう。行くぞ」


 それと同時に大量の武器が、球体へと戻った夢害へと一直線に飛んでいく。そのほとんど武器が神話上に出てくる、彼の想像した武器や概念だ。ならば届く。届かせる。誰に?そんなの決まっている。シャルム以外の誰でもない。過信しろ。それは力になる。それら一本一本、神話性を持つ。彼の読んだ本に描写があった物全てだ。そのどれかに奴を倒すに至る力を所持しているものがあるはずだ。


「ハァアアッァアァアッァアァァアッァアアッ‼‼」


 全て使ってでもいい。魔力を回せ、ここで果てようと構わない。彼女を救えないんじゃ生きる意味も無い。いや、ルティアが居るな。だが、それでは、ルティアは幸せになれるのだろうか。ただの不安でしかない。不安であれば種を潰す他ない。


「シャルムゥゥゥゥウゥゥゥゥッゥウゥゥウッゥウゥウウゥゥウッゥウウゥウウゥウウウッッッ‼‼」


 叫び、剣を振り下ろす。ゴッバァッ‼と轟音が響く。それはまるで増水した川の流れる音の様。様というよりも実際にそうだ。球体からは、先ほどの形状変化から考えられないような黒く、そして赤い水が流れ出たのだ。その水は彼を飲み込んだ。

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