La für Julune
気を失っていたのだろう。彼が暗い場所で目を醒ました。あの夢害の水に飲まれて数秒が経過した。彼の意識は朦朧としていたが、直に冴えてくる。忌々しい夢害に彼は取り込まれた。というか、ここは奴の中なのか?それにしては、身動きがしやすい。それに魔力も通る。巨大なハンマーを形成すると、思いっきり地面を叩く。ズンッ‼と重い音が響き、彼の手がじんじんと痛む。だが、これと言って動きは無い。夢害の中であれば、今の攻撃は夢害にも訊いたはずだ。水の中という事でもない。それにあの夢害は今までの夢害とまるで違う。異質と言えば異質だが、まるで機械の様だった。
「クソ。ここから出るにはどうすれば良い?」
彼の頭は高速で思考に入る。
「シャルムはこの空間に居るのか?奴からシャルムの魔力を感じたのはそういう事。いいや、でもそうだとしたら、奴の中は異次元だという事になる。奴の見た目的な物から、大人二人を格納するような体積は無かったはずだ。だとすれば……これは夢……?」
現に外に居た時は感じられた彼女の魔力も今は感じられない。そして、決定的なのは、目の前に「彼」が居る事だ。
「よぉ」
そう声を掛けたのは本当に紛れもなく、彼自身。何が起きているのか彼は理解していない。当たり前だ。寧ろ、自分自身だと理解しただけで十分だ。
これは悪夢だ。そりゃそうだ。だってここは一応、夢害の中なのだから。
「人に声を掛ける時はんな物騒なモン仕舞えよ」
「ハッなんだ案外冷静じゃねぇか」
「生憎、ドッペルゲンガーは見飽きたんでな」
「そうだな。同感だ。だが、俺はドッペルとは違う」
「の様だな。まさしく俺自身という訳か。これも夢害の内の一つか」
「確かにそうだ。だが、これはお前自身に宿る悪夢の権化だ。そうだな、お前の相手していた球体、あれがお前自身が孕む心の闇。お前が内包する夢害だ。夢害は元は人間。夢害はこうやって生まれてくる」
「……………シャルムはどうした」
「あの子なら、また別の夢を見ているさ。最も、それは覚めないだろうけどな。俺達と同じさ。夢害に閉じこもったんだ。現実で言う昏睡状態か」
「………………………俺とは違って、知っている事が多いんだな」
「あぁ、俺とお前とは別の意識下にある。ドッペルとはまた別と言ったが、そうだな。意識的にはドッペルと酷似している。俺がお前自身だという概念は成立してしまっている。まぁ。それが夢害の力という訳なのだが、そうだな。解りずらい説明になっちまうか」
彼(第二号)は溜息を吐きながら言う。
「また別の意識下ってどういう事だ。悪いが説明を求む」
「そうだな。簡単に言えば、イフのお前だ。別の世界線に存在していたかもしれないお前自身。故に知識も違うし、考える事も違う。ドッペルとは違うとはそういう事だ。だから俺はお前の愛する人を知らない。そしてお前も俺の愛していた人の名前も知らない」
「そうか、それじゃあお前はここで何をしているんだ?」
「あぁ?そんなの簡単だろ?ていうか解ってて言ってるだろ」
「まぁな。悪いが殺される気は無いぞ」
「だろうな。それはこちらも同じだ。負けるかよ。負けてたまるか」
「愛する人が居る。だから負けられない。アイツが助けを求めているのなら、俺が助ける。だから、ここで立ち止まっている暇はない。悪いが、最高速で決着を付けるぞ。最初っからクライマックスだ」
途端、聞こえたのは爆音であった。生み出されたのはどちらの想像物だったのか。そんなのは解らなくていい。どちらも彼自身だ。故に、術式は全く同じ、思考を読め、イフの彼なら何を思う?
「Oneil fou Iron『我が手、鉄に代われ』」
その言葉を吐いたのは彼(第二号)だ。
「Broken de Oneiloi『打ち砕け、酔夢の如く』」
それをかき消すように叫んだのは少年だ。それは巨大な剣、彼らの身長の何十倍はあろうかという剣だ。神話ではこう語られる。これすなわち、世界樹の鶏を燃やす剣なり。と、ヴィゾーヴニルを殺す。ただその為の剣、レーヴァテイン。
「ゼヤァアッァアァアアアアァァァァァァァァァアッァァアアッ‼‼」
その剣は、彼の腕の動きに応じるように重いずっしりとした音を奏ながら、落下する様に彼(第二号)へと襲い掛かる。
「出鱈目な剣だな。けど、それでも……Oneilos us Read『読み醒ますのは我々の夢』」
術式解除魔術。だが、甘い。彼のレーヴァテインは既に実体化済み、今術式解除魔術を使用した所でその剣が自由落下するようになるだけだ。
「Over fou yos『跳び鳴らせ、奈落の花よ』」
………あれは、なんだ?思考が一瞬停止する。だってそれは、まさに、
「死、そのものを体現した剣か。どこの神話を解釈したかは知らんが、荒々しいにも程がある」
「それはお互い様だろ」
「そうだなッ‼Yos of Need『我が手に咲け』」
彼の詠唱が止まる事は無い。魔力の消費量はこれまでで一番多い。けど、それでも守らないといけない物がある。自分になんか負けられない。
「Began『起動せよ』ッ‼」
「な──」
彼はレーヴァテインを基盤とし、汎用魔術を放つ。それは一つの呪詛の様なもの、
「弾けろ」
その声に反応する様に、突如突風と共に熱が暴走した。それは爆発となって、彼らを包んだ。
「こりゃダメだな」
爆風が止むと彼らはまたも対峙した。
「同感だ。魔術の性能は同じときた。こりゃ、共倒れか?」
「いいや、まだだ。まだ、剣が残っている」
彼をそういうと、一本の剣を形成し、地面を蹴る。
「Still Sei Vorbei『未だ果てず』」
彼は一つの術の詠唱を開始する。
「Nur Aufgeben『ただ、諦めず』」
負けるものかと。培ったものは大きい。
「Sieg『勝利せよ』ッ‼」
体に力がみなぎる。それは身体強化の術。汎用術であるが、彼の場合、それを更に強化したものだ。
「俺はお前に負ける訳にはいかないんだッァァァアアアァァアアアアアアアアアッ‼‼」
ガッッッドンッッッ‼‼と凄まじい轟音が響く。決定打には至らぬその激打。彼はそのまま勢いに任し、体を反転させた。
「甘いぞ、俺ッ‼」
結果的に、その行動は、彼(第二号)の剣を避けた。
「いいや違うぞッ‼「Began『起動せよ』ッ‼」
ッダン‼と衝撃が当たりに広がった。
「ガフゥ……」
と息を吐き、彼は吹き飛ぶ。
「痛いじゃないか」
「当たり前だ」
彼は手に持つ剣を捨て、新たに作る。それは、シャルムの剣。
「Need a limit fou Oneilos『渇望せよ、世界の限界を』ッ‼‼」
彼はそう詠唱した。その術はシャルムの使うもの。彼にとって、その術式は身を殺しかねない危険な物だ。だが、そんな事気にする事じゃない。
「ガァアアアァッァアァアアァアアッァアアァアアァアアアアアアッ‼‼‼」
痛みに叫び、渇望する。勝利へと。ただその一心で。
「ウ………ォッォオオォオオオオォォォオオオオオッォオオオオッ‼‼」
まだだ、まだいける。彼ならば、更にその先へと。その身に何重と掛けろ。
「小賢しいぞ。他人の術を使うなど馬鹿にも程がある」
「ほざけ、俺はそれだけ本気なんだよ。見とけよ。直にお前を置いて行ってやる」
「ハッハッハッ!何を馬鹿な事を。置いて行く?それはこちらの台詞だッ‼」
「Anfang『起動せよ』」
ッッッッッッッッ───‼‼。それは最早、形容しがたき音だ。爆発音にも聞こえたが、悲鳴の様にも聞こえた。同時に起きた熱風が両者の肌を焦がした。
「Broken de Oneiloi『打ち砕け、酔夢の如く』ッッ‼‼」
「またそれかッ!?」
彼(第二号)は叫び、一気に地面を蹴り離脱する。だが、それを許す彼でもない。
「残念だが、今回は追尾性能付きだッ‼‼」
「グゥッ。複製する。Broken de Oneiloi『打ち砕け、酔夢の如く』ッ‼‼」
彼(第二号)は、レーヴァテインを形成する。どちらかに出来るという事は相手も出来るという事だ。全くもって合理性は無いが、出来てしまうのだから仕方ない。
高速で飛んでくるその剣を彼(第二号)が打ち払う。だが、それも束の間、彼は、その手に持つ剣を振るった。ドッ‼と鈍い音が響くが、それは彼の剣が空気の壁に阻まれた音だ。
「セヤァッ!」
雄たけぶと腕に全力を籠め、その壁を切る。
「Oneil fou limit『限りあるその夢へ』ッ」
届く。何故なら彼はそれを想像したから。剣が、彼の手から離れる。それは投擲武器と変わり、彼(第二号)へと一直線に飛んでいく。
「Zahlen Sie ab『打ち払え』ッ‼」
彼はそれを形成した盾を振り、弾く。っそして同時に叫んだ。
「La für Julune『語れ、騙れ。我らの祭典。その真髄を』ッ‼‼」」
突如として、それは世界を揺れ動かすかもしれぬ轟音と共に、現れた。それ自体が彼らの心を形成する様に。あれが、彼らの心自身。アスカロン。その剣は龍を殺す為にある。鱗を切る糸鋸、身を切る刃、目を潰すレイピア。尾を切る鋸。
「…………ォォォオオォォオッォオオォォオオォォオオオオオォオオッォオオオッ‼」
形成術に最奥など存在しない。故にどちらが上かなんて解らない。解らなくていい。どうせ彼らは同じだ。
「グゥアッ」
両者共にダメージを喰らい、距離を取る。
「こりゃ勝てねぇな」
「同感だ。考える事は違うはずなのにな」
「あぁ、畜生。やりたくなかったが、仕方ねぇ」
自分に勝てない。なら、考えろ。自身を超越する唯一の方法。だが、それは、自分を裏切る事と同等。だが、それでも。
「Oneilos fou yos over us born unlimited unbekannt under U『我が世界は故に酔夢。それらは超越し、そして誕生に至る。それに限度など無い事を未だ人類は知らず、彼の者の下に憑く』」
想像すればいい。否、創造すればいい。理想の自分?いいや違う。真反対の自分。正義などに憧れず、ただ、己が目的の為に走る歯車の自分。シャルムを愛し、そして、守る事の出来る絶対的な存在。それすなわち、「私」であるッ‼‼
「行くぞ、第二ラウンドだ。悪いがこれで最後だ。私ではない俺」
その手に持つ剣は、黄金に輝く。まさしく、神の恩恵を受けた、その剣。魔術により、不死性を得るというそれは、何にも劣らぬ聖剣。喰らえ、これが、これこそが、私の全力ダァアアァァアアアアッァアアアアアァアアッ‼
─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────嗚呼。
勝ったぞ。愛しの君よ。




